初クエスト! 拡散(ポスト)されるわさびの衝撃
「さて、Fランクの初仕事はこれね。『地下訓練場に大量発生したスライムの駆除』。……あおこ、あなたに丁度いいわ」
わさこ師匠が指差したのは、ギルドの掲示板に貼られた地味な依頼書だった。
緑茶団長は「よーし、初陣ですね!」と拳を突き上げ、俺はポニーテールをきゅっと結び直して気合を入れる。
ギルドの地下深く。湿った冷気が漂うエリアに足を踏み入れると、そこには半透明な緑色の塊――スライムたちが、予想以上の数で蠢いていた。
「……うわっ、多すぎだろ! これ、本当に初心者がやる量か?」
「ふふ、絶好の『バズり』チャンスじゃない。あおこ、わさび魔法の基礎、見せてあげなさい」
わさこが期待の混じった視線を送る。
俺は生わさびの形をした見習い用の杖を構えた。
「……いっけぇ! 『わさびショット』!!」
杖の先から放たれたのは、小さな緑色の光弾。一匹のスライムに命中し、ピリリとした刺激を与えた……が、倒すまでには至らない。
「えっ、弱っ!? 俺の火力、これだけかよ!?」
「あおこ様、落ち着いて! 団員がピンチの時はこれですっ! 『特製・癒やしの緑茶シャワー』!!」
緑茶が急須のような杖から魔力を込めたお茶を振りまく。俺の体力が少し回復するが、敵の数には焼け石に水だ。スライムたちがじわじわと距離を詰めてくる。
「くっ……! このままじゃ囲まれる! ――待てよ、『拡散』の属性って、こういう時に使うのか……?」
俺は前世でつぶやきアプリのタイムラインを操っていた時の感覚を思い出す。
一つ一つのポストは小さくても、それが「リポスト」され、一気に広がっていくあの熱狂。
俺は自分の魔力を、弾丸としてではなく「伝染する信号」としてイメージした。
「わさこ師匠! 最大火力の魔法を、一番端のスライムに一発だけ叩き込んでください!」
「……意図は分からないけれど、信じるわ。――『瑞緑の審判』!!」
わさこの杖から放たれた極太の光線が、一体のスライムを貫き、爆発的なわさびエネルギーを撒き散らす。
普通ならそこで終わりだ。だが、俺はその爆発に自分の魔力を滑り込ませた。
「拡散魔法――『全マシリポスト(トレンド入り)』!!」
俺が叫ぶと同時に、一匹のスライムで起きた爆発が、隣のスライムへと連鎖し始めた。
ボボボボボッ!! と、まるで通知が止まらないスマホのように、わさびの衝撃波が次から次へとスライムたちを伝わっていく。
「な、何これ!? 魔法が勝手に広がっていく……!?」
緑茶が目を丸くする。
地下訓練場の隅々まで、わさこの高火力な「わさび魔法」が、俺の「拡散」によってコピペされるように波及していった。
わずか数秒。数百体いたスライムは、全て緑色のチリとなって消滅した。
「……ふぅ。これが俺の魔法……『拡散力』の正体か」
俺はポニーテールを揺らしながら、満足げに杖を肩に担いだ。
「あおこ……あなた、とんでもない才能を秘めているわね。私の魔法を『引用』して、戦場全体をバズらせるなんて」
わさこ師匠が驚きの混じった笑みを浮かべる。
緑茶も「さすがわさらー様! 異世界でもトレンド1位間違いなしです!」と飛び跳ねて喜んでいる。
「よーし、幸先のいいスタートだ。この勢いで、次のクエストも全マシでいくぞ!」
異世界ギルド『ワサラー団』。その悪名……いや、その名は、この一戦を機にギルド中に広まり始めることになる。




