7人のワサライブ(後編)――捕食者の涙と8人目の仲間
「……っ! いつからそこに……!」
時計塔の影で術式を書き写していた捕食くんは、背後に立つわさこの放つ圧倒的な魔力のプレッシャーに息を呑みました。手元には、わさこの演出魔法を盗み取った魔導書が握られています。
「あんた、いい筋してるわね。でも、その手つき……他人の技術を奪うことに慣れすぎているわ」
わさこは一歩、また一歩と距離を詰めます。その瞳に敵意はなく、どこか迷い子を見つめるような静かな慈愛がありました。
「僕の勝手だろ。効率よく勝つために、使えるものは何でも『捕食』する。それの何が悪いんだよ」
捕食くんは強がりますが、その声は微かに震えていました。彼は歌い手として有名になればなるほど、自分の「オリジナリティ」が空っぽであることに怯え、それを埋めるためにパクツイやコピーを繰り返してきた孤独な少年でした。
「あんたの歌、あおこのステージの裏で小さく口ずさんでいたのを聴いたわ。技術はパクれても、あんたの本当の歌声までは隠せてない。……でも、今のままじゃその声、誰にも届かないわよ」
「……黙れよ! 何も知らないくせに!」
「知らないはずないでしょ。私もあおこも、最初から最強だったわけじゃない。仲間とぶつかって、自分の弱さを認めて、そうしてやっと『自分たちの色』を見つけたの。あんたに足りないのは技術じゃない。信じ合える仲間と、自分を曝け出す勇気よ」
わさこは、あおこの熱唱が響き渡る広場を指差しました。
「あそこを見て。たった7人の観客だけど、あおこはあいつらのために魂を削って歌ってる。あんた、あおこの魔法をパクって、同じように胸を張って歌える? パクったものに、君自身の魂は乗ってるの?」
わさこの熱心な、そして逃げ場のない問いかけに、捕食くんの手から魔導書が滑り落ちました。
「僕は……僕はただ、誰かに認めて欲しくて……っ。本物になりたかっただけなんだ……!」
捕食くんの目から、大粒の青い涙がこぼれ落ちました。パクることでしか自分を表現できなかった不器用な少年の、初めての叫びでした。わさこはそっと彼の肩を抱き寄せました。
「だったら、もう盗むのはおしまい。これからは私たちが、あんたの『本物』を一緒に見つけてあげる。ワサラー団で、あんたの歌を響かせなさい」
ライブのフィナーレを終え、汗を拭いながら戻ってきたあおこたちの前に、わさこは捕食くんを連れて現れました。
「あおこ、紹介するわ。ワサラー団の新しい仲間よ」
あおこは驚きつつも、赤く腫らした目の捕食くんを見て、全てを察したように最高の笑顔で手を差し出しました。
「ようこそ、ワサラー団へ! 名前、なんて言うんだ?」
「……捕食くんだ。……よろしく、あおこ。」
捕食くんがその手を取り、力強く握り返した瞬間、ワサラー団に新たな絆が刻まれました。その様子を、緑茶やみるきぃたちも温かい拍手で迎え入れます。
しかし、広場の喧騒が静まった頃、街の境界線からは不気味な六角形の紋章が刻まれた影が、ゆっくりとこちらへ向かって移動を始めていました。




