双璧の真価! 緑茶の慈愛とわさこの峻烈
「国家級クエスト……『死の砂漠の守護者』の討伐か」
俺はギルドから発行された、黒い縁取りの依頼書を見つめていた。四天王が加わったことで、ワサラー団には街の治安維持レベルを遥かに超えた、国の存亡に関わる任務が舞い込むようになっていた。
舞台は、街から数日離れた「絶望の砂海」。
そこに現れたのは、全長五十メートルを超える岩石の巨竜だった。
「グオオオオオッ!!」
巨竜が咆哮するだけで、大気が震え、砂の津波が俺たちを飲み込もうとする。
「あおこ様、下がって! ここはまだ、あなたの魔力では防ぎきれません!」
緑茶が叫び、一歩前に出る。その手には、いつもの穏やかな茶器ではなく、透き通った翡翠色の錫杖が握られていた。
「――『神茶・一期一会』!!」
緑茶が杖を突くと、俺たちの周囲に巨大な茶室の幻影が展開された。猛烈な砂嵐がその結界に触れた瞬間、嘘のように凪ぎ、温かな陽だまりのような空間に変わる。
「これが、緑茶の回復魔法……。ただ傷を癒やすだけじゃない、空間そのものを『浄化』して、生存圏を作り出してるのか」
俺は自分の見習い杖を握りしめた。俺の拡散魔法では、この規模の破壊を抑え込むことはできない。
「緑茶、守りは任せたわよ。――一気に削るわ」
わさこ師匠が、鋭い視線で巨竜を睨む。彼女の周囲には、すでに千を超える「緑の光剣」が展開されていた。
「――『真説・わさび地獄巡り(わさび・インフェルノ)』!!」
わさこが指を振り下ろすと、光剣が流星群となって巨竜に降り注ぐ。一発一発が爆弾のような威力を持ち、岩石の鱗を容赦なく剥ぎ取っていく。巨竜が苦し紛れに放つ毒の息も、緑茶の結界が即座に無力化し、わさこの攻撃を妨げさせない。
「すごい……これがワサラー団の『双璧』の戦い……」
四天王やVR地獄ですら、今は二人のサポートに回るのが精一杯だ。巨竜の反撃をVRが弾き、漏れ出た余波をヒストリムが抑える。完璧な陣形。
その中で、俺だけが何もできずに立っていた。
「……っ、俺だって!」
俺はポニーテールを振り乱し、魔力を練り上げる。巨竜の弱点である眉間に狙いを定め、渾身の拡散魔法を放とうとした。
「『全マシ・バースト』――ッ!!」
だが、放たれた青い光は、巨竜の分厚い魔力の壁に弾かれ、霧散した。
「な……!?」
「あおこ様、ダメです! 今の貴方の魔力では、根源的な『密度』が足りません!」
緑茶が叫ぶと同時に、巨竜の尻尾が俺を目掛けて振り下ろされる。
「しまっ――」
ドォォォォン!!
衝撃に備えて目を閉じたが、痛みは来なかった。目を開けると、そこにはわさこが片手で展開した「わさびの盾」が、巨竜の猛攻を平然と受け止めていた。
「あおこ、戦場を見誤らないで。今の貴方は、まだ私たちに守られる『核』でしかないわ」
わさこの言葉は、鋭いわさびの刺激のように俺の胸に刺さった。
「……わかってる。わかってるよ、わさこ」
巨竜は二人の連携によって着実に追い詰められていく。だが、俺は確信していた。このまま二人に頼り切っていては、これから合流するであろう残り15人の仲間たちを導くことはできない。
俺はポニーテールの結び目を一度解き、より強く、きつく結び直した。
「緑茶、わさこ。……このクエストが終わったら、俺に稽古をつけてくれ。今のままの『拡散』じゃ足りない。俺は、世界そのものを書き換えるような、本当の『ワサラー』になりたいんだ」
二人は一瞬だけ目を見合わせ、満足そうに微笑んだ。
「もちろんです、あおこ様。僕たちの全てを叩き込みますよ」
「覚悟なさい。私の修行は、二郎の全マシよりキツいわよ?」
巨竜の断末魔が響き渡る中、ワサラー団十六夜の「リーダー」としての、あおこの真の修行編が幕を開けようとしていた。




