43 檸檬の二つ目の正体
「お久しぶりです山崎さん、こないだはお世話になったね、アオ」
二階はマネージャー・制作スタッフのオフィスになっていて、奥には応接スペースがあり二人が話していた。
「久しぶり、柚希。まさか本当に来るとは」
「私が来ないで取り消されるわけないじゃないですか」
もちろん、アオに伝言を頼んでも良かった。
でも、本人がいない中取り消されるわけがない。
というか、私が直接文句を言いたい。
「ああ。番組の事だよね。今更無理だよ。ただ、連絡もせずに決まったことは悪かった」
「連絡はお婆ちゃん経由でしたもんね」
ちょっと不便だったけど、スマホをあの時は持ってなかった。
「でも、それは知ってることですよね? 私がいない状況で決まったってことですか! 私はもう芸能界から消えました。『堂前柚希』じゃないです」
「そっか。今は?」
「私が辞めた理由、忘れました? 記憶を戻したからですよ。私の中に『堂前柚希』はいるけど、私はもう、『堂前柚希』じゃない。今は叔母の家で暮らしています。話がそれてますよ」
確かに「堂前柚希」として生きたときはあった。
でも今は「狐月檸檬」だ。
「そうだね。柚希が怒る理由はテレビに出るのを勝手に許可したことかな? でも、もう決まったことだし、大ニュース。テレビもやってるよ」
「出るしかないんですか?」
「柚希がファンを悲しませたくないっていう気持ちがあるなら出なきゃダメじゃないかな?」
今まで黙ってたアオが口を出す。
すっごい嫌味にしか聞こえない。
「あ~あ~ハイハイ分かりました。出ます。出ますよ! 出ればいいんでしょう!」
髪がウイッグだってことも忘れて頭を掻きむしる。
「じゃあ、撮影はOKってことでいいかな」
「本当にこれだけですから!」
「じゃあ、これが当日の動き」
紙の束を渡される。
こんなものを手持ちに?
もしやはめられた!?
あ〰〰〰ッ!
何回もはめられていたことをすっかり忘れてた!
「これっきりなら連絡先を交換するのも嫌でしょ? アオくん。申し訳ないけど、柚希から何か連絡があればアオくん経由で」
「はい。約束は約束なのでちゃんと出ます。あと、過去の放送を数個覗きましたが、なんで辞めたかっていう質問とか私の今の状況、その類の質問は絶ッ対受け付けません!」
出る番組は生放送で、視聴者から質問がきたりする。
「そのぐらいならできますよね」
「そうだね。無理を言ったし、そのぐらいならやるよ」
「お願いします」
そう言ってアオと一緒に部屋を出る。
「結局出ることになっちゃった。アオは話し終わったの?」
「雑談してただけだから。話を聞く感じ、おそらく生であれ、歌うんじゃない?」
「最悪。まだ踊れる?」
「八月までまだあるし、隙間時間に練習しないとな……」
「もしかしたらぶつけ本番になるかも。まあ、その時はその時。じゃあね、オニーチャン」
私が彼の事を「兄」と呼ぶと、
「ああ。サボるなよ、檸檬」
と返ってきた。
別れの挨拶も終わったことで私はサッサ帰る。
そろそろ五時だし、早く帰らないと。
って、まだ説明してないままだね。
私は昔……って言っても小四のころ、異文化交流のため、魔界、悪魔と吸血鬼の世界に行き、十日間だけ学校に通わせてもらっていた。
♢♢♢
「れ~もんッ!」
いきなり後ろから飛びついてくるものだから私と彼はずっこけてしまった。
「ま~ひ~ろ~?」
飛びついて来た彼は鬼牙魔壽。
同級生でここでの一番の仲良しな子だ。
とても可愛い。
ペシッ
「コラ魔壽? いきなり抱き着いちゃダメ」
「兄さん、痛いよぉ~」
魔壽のお兄さん、天鬼さんがまひろの頭を軽くたたいて怒る。
しっかり者だけど、ちょっと抜けているところがある。
「出たッ! 鬼牙兄弟名物、兄の超過保護っ!」
奥から天鬼さんの同級生でお友達の魔朱魔さんが来る。
普段は近づきがたいような怖いオーラを放っているけど、本当はめっちゃ面白いタイプの人……ヴァンパイア。
「本当に魔朱は鬼牙兄弟名物、好きだよね~」
ケラケラと笑う死苦魔さん。
同じく天鬼さんのお友達。
明るいけど、何考えているか分からないタイプ。
「くまも檸檬ちゃんを無視しないの。怪我してない?」
「大丈夫です」
ずーっと私の上に乗り続けていたまひろを持ち上げてくれるのは嘘希さん。
頭が良くて成績がトップらしい。
「ハッ。ばからしっ」
そう言って奥で鼻で笑うのは悪鬼斗さん。
天鬼さんたちと同い年だけど、仲が悪いみたい。
私もちょっと、苦手なタイプ。
そんな感じで苦手な人もいたけど、事件がないままの七日目が過ぎた。
次の日の八日目。
この日に天鬼さんと悪鬼斗さんが大喧嘩。
学校の一部破壊と破壊が原因で火事。
怪我人もたくさん出た。
かすり傷程度の方もいれば、重症・致命傷になる人もいた。
致命傷になったうちの一人が私だった。
背中に傷を負ったまま、火が回る中で、人を助けてたから悪化した自業自得なんだけど、大量出血。
意識不明の重体。
もちろん病院には運ばれた。
でも、その病院……というか、どこの病院にも人間と妖狐の血のスタックなんてあるわけがなかった。
二つの血が届くのを待っても、私を人間のいる世界に返しても私は死ぬ。
たまたま妖狐の血が入っているヴァンパイアの血液があったので、それを輸血した。
もちろん、ヴァンパイアの血が入ったところで死には至らない。
でも、二分の一人間の私にはヴァンパイアの血は強すぎた。
私の髪と瞳はよくいるヴァンパイアの色、赤になり、記憶がなくなった。
髪と瞳は時間と共に元に戻ると言われたが、記憶は自力で戻さなければいけなかった。
しばらく病院で眠っており、両親、叔父、叔母たちが集まった。
その場にいた全員の意見が重なり、私は人間界に帰ることになった。
人間界についてすぐ、私は運ばれているときに目が覚め、身内も自分も何もかも分からない私はとにかく恐怖で逃げた。
あたりは知らない大人だらけで自分が誰かも分からない。
その恐怖は二年前とは言え忘れられない。
せめて記憶があればあの時、堂々としてられたかもしれない。
受けた傷の痛み、どこか分からない恐怖、降り注ぐ冷たい雨。
私は絶望の中、おじいちゃんとおばあちゃんに拾ってもらった。
一年ぐらいだけど、育ててもらった。
新しく名前ももらった。
柚希。
亡くなった娘さんの名前に似せたんだって。
お母さんの旧姓も堂前だし、親戚なのかもと思って、後でこっそりDNAを調べてみたけど、血は繋がってなかった。
一緒に暮らして一ヶ月。
おばあちゃんと出かけた私はスカウトを受けた。
「うちの事務所に入らないか?」ってやつ。
アイドルでも子役でも自由にやっていいよってやつだった。
その時にアオと二人組ユニット、プリズム・デュオを組んで活動し、グーンと人気が出てトップ。
いたずら好きの小悪魔系のYuzu.としっかりお兄さん系のアオの正反対のペアが良かったんだろうね。
普段通り朝、事務所でアオと会って、二人で練習ってなった時にアオが突然言い出した。
「本当に記憶がないのか?」って深刻そうな顔で。
その時、私もアオもドラマの声がかかってたし、練習かと思ったの。
だから、「ドラマの練習? 私でいいなら手伝うから設定教えて?」って言ったの。
「違う! まだ思い出せないのか! お前の本当の名前は狐坂檸檬だ!」
って言われた。
あとから聞いたけど、アオは私が死にかけってときに魔界には来なかった。
だから赤色に変わった髪と瞳の私を見て、気が付かなかったんだろうね。
あとの方になっちゃったけど、アオは本名・矢間碧。
お父さんの妹の息子だよ。
その後、スタッフさんが「どうしたどうした」って感じで入ってきたんだけど、アオが「すみません。最近疲れてるのかおかしいみたいで……Yuzu.は悪くないのに怒ってしまいました……」
な~んて白けて場は収まった。
その後はアオも何も言ってこないし、いつもと変わらないようにふるまっている感じがしたから気にしないことにした。
でもどうしても気になって、堂前柚希の住む家の近所に住んでいた男の子に話した。
そうしたら「柚希がなんか引っかかるならなんかあるよ。今は思い出せなくてもいつか思い出すかもしれない一緒に思い出そう」って言ってくれた。
それのおかげで私は記憶を戻した。
走って逃げて……彼には悪いことしたな~……。
翆「いざ寝ようと歯を磨いている最中に『あれ、今日火曜日じゃね?』と思い出し『五分で終わらせます、パソコンを使わせてください!』と交渉し、過去最短の活動報告を書き終え、投稿したのが昨日の出来事、肌に合う本なら三時間ぶっ通しでも読み続ける、意外と本を読んでそうで呼んでいない人です☆」
小「やることやってから次書けアホ」
翆「分かってま~す」




