1 檸檬、両親を亡くしました
二日前、お母さんとお父さんが亡くなりました。
車にはねられ、お父さんは即死だったそうです。
お母さんは最初の方、少し意識があったことは覚えています。
でも、詳しく覚えているわけではありません。
気が付いたら救急車が来て、気付けば病院にいて、いつの間にか親戚が集まって来て、知らぬ間に一日経っていて、あっという間にお葬式になっている。
コンコン
と扉からノックが聞こえてくる。
「檸檬。入るぞ」
聞こえてきたのは父方の従兄の声。
窓辺で座って外を見ている檸檬と呼ばれた少女は従兄が入ってきたことを確認すると視線を外に移す。
「泣くなとは言えないし、元気になれとは言わない。ただ、生きろ」
「なんで?」
放たれた声はカラカラで今にも泣きそうな声だった。
「檸檬」
「碧も皆みたいに『飛鳥さんや柚さんの分まで生きろ』っていうの⁉ そんなキャラじゃないでしょ⁉ 嘘の人から言われる嘘の言葉は聞きたくない‼」
「檸檬」
「ハァッ…!」
名前を呼ばれた檸檬は我に返ったのか息をのむ。
「……ごめん」
「まあ、普段の俺じゃこんなセリフでね~もんな。でも、全部が全部自分の思う通りだと思うな。俺から言うのはこれだけだ」
そう言って出ていく。
出た先にいた二十代半ばごろの男性に
「晃。何が何でも檸檬に水を飲ませろ」
と言ってどこかに行ってしまった。
「………失礼しますね」
碧に言われたからか晃と呼ばれた人は中に入る。
「ねえ晃さん。お父様とお母様が亡くなってから何も考えられない。碧にも酷いこと言っちゃった」
「……三日間何も食べずに判断能力がそのままでいられる? 冗談じゃない。両親が亡くなって三日間何も食べていない者が、冷静に物を考えられるわけないじゃないですか‼」
「…………………フフッ」
少しだが三日ぶりに笑った檸檬。
そうだね……そっか。
晃と檸檬は昔、似た境遇の子を目の当たりにした。
その子は、目の前で父を交通事故で亡くした。
晃が珍しくこんなにも感情的になっているのはその時、その場にいたのに救えなかったからだ。
その子は小さくて理解できない弟たちの為にも頑張って笑顔を作ってたじゃない。
でも、私はどう?
耐えられてないよ………。
「久しぶりに晃さんに叱られちゃった」
「笑えたなら脳が面白いと判断した証拠です。さあ水を飲みましょう。思ったよりも声がカラカラです」
「ありがとう」
コンコンとまたノックが鳴り、入ってきたのは晃さんのお兄さん昴さん。
「檸檬様。碧様から食べられる物をと言われたので持ってきました。自分で持ってくればいいものを」
苦笑いする昴さん。
「食べられそうですか?」
「ええ」
「三日食べてないのでそうめんです。料理長、喜んで作ってましたよ」
三日ぶりに食べる食べ物はとてもとてもおいしかった。
♢
なんやかんやで両親との最後のお別れが終わった後もいろんな人と話して次の日がたって車の中で揺られている。
「晃さん。私、新しい環境に慣れて行けると思いますか?」
「…檸檬様が何を選択しようと環境は変わるものです。悔しいですが、避けられません。嫌なことがあったら逃げて構わないです。少なくとも私たちは檸檬様を受け入れますよ」
「…………ありがとう」
葬儀は大阪で行われたためこれから神奈川にある家に行って荷物をまとめた後、これから暮らす母方の叔母の家、埼玉県に向かう長旅となる。
ぼ~っとしているとあっという間に見慣れた家がある。
「つきました」
そう言われて車を降りる。
「一回言われたかもしれないけど、この家、どうなるの?」
「ここの家主は檸檬様となりました。掃除は我々がしますので、檸檬様がご家庭を持たれた時に暮らしてもいいですし、一人暮らしするときに使ってもよろしいです」
ご家庭を持たれた時………か。
その時はどんな風になっているんだろうか。
「……わかった。中の家具とかはどうするの?」
「はい。処分するなりなるでしょうね。我々はどうもできませんので檸檬様が時間のある時に整理なさってください」
(まあ、どうすることもできない…って事ね)
「荷物まとめてくるからここで待ってて」
そう言って一人で家の中に入る。
「ただいま」
普段は「ただいま」と言えば「お帰り」って帰ってくる何気ない挨拶。
もう居ないんだと改めて感じて涙がこぼれる。
「なんで私を置いていっちゃうかなぁ……」
玄関でうずくまって泣き出す檸檬。
檸檬はまだ十代前半の子供。
一気に父と母を亡くして泣かずにいられるはずがない。
しばらく泣いていると玄関の方からコンコンとノックされる。
「檸檬様? 大丈夫ですか?」
晃のその声にビクッとして
「大丈夫‼ ごめん。すぐ準備する!」
(檸檬様はもうちょっと人に頼れるようになるといいですね)
晃は玄関前で呆れた顔をして柱に寄り掛かっていた。
玄関越し程度のすすり泣きは晃の耳にちゃんと届いていたのだ。
♢
とある家のチャイムの前。
これから私はここにお世話になる。
「………………」
……よしッ切り替え!
私は気持ちを切り替え、チャイムのボタンを押す。
ピーンポーンと音が響く。
するとドタドタドタと二階から転げ落ちているのかと疑うレベルの足音が聞こえた後バターンと壊れるんじゃないかってくらいに勢いよく玄関の扉が開かれる。
「いらっしゃい檸檬‼」
大興奮の従姉・伊予が迎え入れてくれる。
伊予はエネルギーが有り余っていて元気のある子。
悪く言えば少し空気が読めない。
「檸檬ちゃん。いらっしゃい。昨日ぶりね」
後ろには伊予のお母さんで私のお母さんの妹・蜜柑さんが迎え入れてくれる。
「これからお世話になります」
大きくお辞儀をする。
「蜜柑様、伊予様。これから檸檬様がお世話になります」
そう言って晃さんが深々お辞儀する。
「檸檬ちゃん。荷物運んでらっしゃい。伊予。手伝ってあげて」
「もちろん‼」
蜜柑さんからの指示があったので車に荷物を取りに行く。
「荷物これだけ⁉」
持ってきた荷物が段ボール三箱のみで驚かれる。
「うん。今必要なのはこれだけかな。もっと大きいものもあるんだけど、こっちに置けないから」
「そっか!」
伊予は「往復めんどいから二個持っちゃえ!」って言ってるけど、三つの内の一番重たいものを片手ずつで運んでいる結構筋肉のある女の子だ。
「あ。いまさ。部屋割りで喧嘩になってるとこなんだよね」
どうやら二階が三部屋あって二階を子供部屋にするという事が決まっている。
一人一部屋になるのが普通だが、それだと一人だけ六畳になるのと伊予が勉強しようと思っても漫画かベッドが目に入るとそっちに行ってしまって勉強できないから勉強部屋とは分けたいとのこと。
言い遅れたけど、伊予には双子の兄の圭理がいる。
「それでベッドとか全部解体して外に置いてあるんだよね~……。どうしよっか」
「う~ん。残りの二部屋の大きさは?」
「どっちも八畳だよ」
「ならケイが六畳、私たち二人で八畳一部屋で残りの一つが勉強部屋でどう? もちろんケイにも聞かなきゃだけど」
すると「じゃあ聞いてくる!」と言って走って二階に上がる。
(さっきから二階で聞こえる引きずった音は多分ケイだと思うんだけど、ケイも同じこと考えてるんじゃないかな?)
「あ~! お兄ちゃん何勝手に一人で運んでるの⁉」
(やっぱり……)
私は荷物を持って伊予の跡をついて行く。
行ってみると持ち運びやすいように解体されたベッドと机は私の言ったように六畳の部屋にベッドが一つ、八畳の一部屋にベッドが二つ、もう一つの八畳の部屋に机が三つ運ばれていた。
ケイが珍しく汗をかいている。
力仕事は基本的に伊予がやっているけど、伊予が私の方に行ったから仕方なく一人でやったって感じかな?
伊予を待つより自分でやった方がちょっとだけ早いから。
「お兄ちゃん。二階で私たちの会話聞いてたでしょ」
「…………」
(いや、ケイと私の考えが一緒だっただけだと思う)
この双子は正反対だ。
兄の圭理は頭がよく、妹の伊予は運動神経がいい。
兄の圭理は無口、妹の伊予は饒舌(つまりおしゃべり)。
「いいから組み立てよ。机はともかく今日寝るところが床になるよ?」
「それはヤダ!」
そう言ってせっせと部屋に入ってベッドの組み立てに入る。
~三分後~
「見て!ベッドじゃないものができた!」
自分のベッド組み立てに夢中になっていると隣で組み立てていた伊予のベッドがすごい大きい人型ロボットみたいな形で立っていた。
立つためにはかなりのバランスが求められるけど、それをシレッと組み立てた伊予がすごい。
というか、どうしてこうなった?
「それじゃあ寝られないよ? 早く組み立て直そ?」
別の意味で器用な伊予であった。
翆 「圭理くんは圭の事です‼ すみません名前変えました‼ ま、実を言うとモデルと一切名前が変わっていないので今頃ですが替えました! あだ名で圭です!」
小 「声デケーしうるさい」
翆 「悪かったわね」
霧 「ねね。これ、ギャグなの? シリアスなの? ラブコメなの? 恋愛なの?」
翆 「ビミョーだよねぇ……表面はギャグだけど深くに行くとシリアス。恋愛小説を書けるような技術に私が到達してないからどちらかって言うとラブコメ? う~ん分からないね」
小 「キーワードとしてはシリアス。書き直し前はほのぼのとしか書いてないな」
霧 「つまりは読者によってジャンルはそれぞれ! この四つ以外でも全然あり!」
2026年1月8日
あだ名の“圭”をケイに変更しました。
一括変換なので、おかしかったら報告お願いします。
十話まで続きます。
それ以降もクセでなってしまうかもなので、お手数おかけしますが、報告お願いします。




