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サマー・メモリーズ~モノクロームの水平線~  作者: 想兼 ヒロ


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第3話 君が瞳を輝かせるから

 (しず)()と並んで学校へ向かう。空は雲一つなく、真っ青だった。


 まだ朝早いというのに、若干の日差しの強さを感じる。もう夏だな、とそんな太陽を感じて思った。これで本番になったら、あの太陽はさらに凶悪な顔になるんだろう。ぎらぎらと、にらみつけてくる。降参しても、知らん顔で。

 夏が本番のスポーツで、青春を過ごしている連中は大変だなと思った。他人事だけど。


「あたし、夏だけは屋内スポーツ選んでよかったって思うよ」


 どうやら、静谷も似たような思考をしていたようだ。趣味()(こう)はズレているというのに、こういうところで気が合う。

「まぁ、日差しから逃げれても、蒸し暑さからは逃れられないんだけど」

「ああ。それは分かる」

 体育の時とか、時々地獄だもんな。設備は新しめだからエアコン効いているはずなのに、なんなんだ、あれは。


「また、体重落ちちゃうかな」

 やれやれ、といった表情で静谷はため息をついた。


 体重落ちちゃう、か。

 今の発言、うらやましがるやつもいるんだろうな、と思った。しかも、痩せるときは腰から痩せるんだ、こいつは。食べた分はちゃんと太って、それで、腰から痩せるから……。


「あー」

「え、急に怖い顔してどうした?」

「なんでもない」

 ただ、思い出しただけです。静谷のスリーサイズを俺に聞いてきた馬鹿者のことを。


「なんでもない顔じゃないけどねー」

 静谷はケラケラと笑っている。

「だから、なんでもないって」

 内容が内容だから口には出せない。とりあえず、そのアホは頭の中で全力でぶん殴っておく。

 でも、実際に俺がそんなことしたら先に拳が死ぬんだろうな。鍛えてないから。俺にできたのは全力で(にら)むことだけだった。


 それだけで逃げていったが、そんな覚悟で人の異性の友人のプライベートな数値を聞き出そうとするんじゃねぇ。気になるのは、まぁ、百歩譲って理解してやるが。口に出すな。そして、俺が知ってる前提で話を進めるんじゃねぇ。聞けるか、そんなの。

 あと、体重について、もし本当にうらやましいと思う人がいるのなら、静谷の練習に付き合えばいい。あれ、すごいから。一週間で効果が出るぞ。ちなみに俺はごめんだ。筋肉と一緒に、心臓が死ぬ。


 俺は一度視線を下げて、()(けん)によった(しわ)を引き延ばす。ああ、だめだな。思考がぐるぐるしている。この話題を続けていくとボロが出そうな気がする。

「体重が減ると、あれか。相手を蹴散らせなくなるのか」

 強制的に話を戻すとしよう。


「いや、人を重戦車みたいに。できるわけないでしょ。それに、接触プレーは基本禁止なんだからね」

 あたしを何だと思ってんだ、という視線が突き刺さる。確かに失言だったかもしれない。


「じゃあ、なんでそんな気にするんだよ」

「あたし、そんなに体大きくないでしょ。相手が怖がってくれないから、まぁ、保険みたいなものかな。気持ちの余裕ってやつ」


「……なるほど。そういうことか」

 よく分からない。分かってないが、(うなず)く。

「あー、分かってない」

 そして、速攻でバレていた。こいつに雑な(うそ)は通用しない。


「でも、実際にやってみないと分かんない感覚かな。うーん、なんて言えばいいだろう」


 静谷は右の人差し指を鼻に当てて、上を見ながら何かを考えている。幼い頃からよく見る静谷の癖だ。おそらく、俺にどう伝えようか悩んでいるのだろう。

 感覚の言語化は難しい。こんな門外漢に何とか教えようとしてくれる姿勢にうれしさを覚えると同時に申し訳なさを感じる。

 だから、ここは俺が沈黙を破る必要性がある。俺はそう思った。


「でも、そんなに気にするもんでもないだろ。ほら、おまえと同じポジションで活躍してるプロの人に俺より背が低い人、いるし」

 確か、ポイントガード……だっけか?

 動画サイトで大男を翻弄する彼の映像を見たときは素直に感動した。自分ではどうしようもない差を他の才能でカバーしようとして、一流まで到達とうたつする。非常に俺好みだ。


 静谷が知ってるかどうか分からないが、そういう話なら会話ができる。俺はそんな気持ちで新しい話題を振ったのだが、静谷から返答がない。どうしたんだ、とその顔を見たら、半開きの口が目に入った。目がまん丸になっている。

 何をそんなに驚くのか。俺としては普通に話していたつもりだが、何かおかしかったろうか。

「いや、どうした?」

 沈黙に耐えきれず、あと、足すら止まってしまった静谷の再起動のために声をかけた。

「ああ、うん。ちょっと驚いて」

 再び歩き出した。何なんだ、ほんとに。そんな風に考えていたら、静谷から答えを言ってきた。


「沖田っていつからそんなにバスケ詳しくなったっけ?」

「そうか、昔からこうだろ」

 静谷は小さく首を横に振った。

「昔は、あたしが一方的に話してた。今は返してくれるだけじゃないし、そっちから話振ってくるし」


 それは相当昔の話だな、と俺は思った。

 小学校の時か、静谷がバスケに興味を持ちだしたときだ。最初の頃は止まらない静谷のトークの雨を浴び続けていたっけ。瞳をきらきらと輝かせながら。

 でも、俺は何も分からなかったから、返事が雑になった。俺の反応がいまいちだったからか、こいつは徐々に話をしなくなっていったんだ。あの目も、見せなくなった。

 こいつにとっては気遣いだったんだろうが、その態度が悔しくて、俺は自分なりに調べて、思い出したように話題にする静谷にちゃんと返事をするようになった。そして、今も地味にバスケの話題を検索するのが日課になっている。


 ……ええ、そうですよ。寂しかったんですよ、俺は。悪いか。

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