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サマー・メモリーズ~モノクロームの水平線~  作者: 想兼 ヒロ


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第24話 未来予想図

「私、私の顔が嫌いなので」


 俺はそんな彼女の一言に思わず。

「もったいない」

 と、さっきからずっと心の中で思ってたことを口走っていた。


 それを聞いた瞬間。

「結局、あなたもそんな感じなんですね」

 彼女の眼光が鋭くなった。それはさっきまでの比じゃない。完全に、こちらの息の根を止めてやろうかと思ってるくらいに恨みを込めたものだ。

 おお、怖っ。俺は背中に冷たいものを感じた。まぁ、しかし、自分が口に出した理由と彼女が感じ取った理由が違っているのは分かる。


 臆せず、話を続けるとしよう。まだ怖いけど。


「う~ん、俺がもったいないって言ったのはさ」

 彼女から視線を外して、美術室の扉を開ける。

「俺が見たいとか、そういうんじゃなくて」

 そのまま中に入っていって、自分の(かばん)を探った。中からスケッチブックと筆箱を取り出す。

 その間、会話が続いているからか、彼女は廊下から中をのぞき込んでいる。本当に嫌なら帰ればいいのに。

 やっぱり、根はいい子だなと思った。


「せっかくの武器を自分で隠してしまうのは、どうかなと思っているだけで」

「武器?」

 俺の言い回しが気になったのか、黙って聞いていた彼女が俺の言葉を繰り返した。小さく首を(かし)げている。

 まだ(にら)んでは来ているが、さすがに慣れてきた。


「おお、武器。顔がいいってのは、俺にはないからな。だから、もったいないって思う」

 廊下に近い椅子に戻って腰掛ける。鉛筆を取り出した。ん? ちょっと丸過ぎか。先端が気になるからカッターを取り出して削り出した。

「もしかして、何か嫌な目にあったか? 顔の良さで」

「……」

 無言の肯定。

 やっぱりなぁ。()(わい)いってのも楽じゃなさそうだ。


――なんで、ろくに話したこともないのに、好きだとかって思うのかな?


 (しず)()の愚痴を思い出す。あの時は静谷が交際を断った男子に俺が(さか)(うら)みをされたんだったな。俺に矛先が向いたことで静谷が本気で怒って、そいつに説教をはじめたんだった。相手は完全に心折れてた。ご愁傷様。

 まぁ、そいつにとって俺がうらやましいポジションにいたのは確かだが。まったく、無い物ねだりしても意味がないのに。


 でも、そういうことだろうな。きっと。こいつの場合も。

「あれか。女子に嫌がらせされたり、変な男につきまとわれたりとか」

 鉛筆は、こんなもんか。俺は口を動かしながら、手も動かし出す。


「意味ないよな、嫉妬とか一方的な(おも)いとか。自分では何もしないくせに相手を変えようとか、本当に意味がない。どうせ()()(ごと)だ。変えれるのは自分だけ」

 やっぱり髪型は前髪を短くして、むしろあの大きな瞳を見せつける方向で。髪型は、そうだな、長い髪を結ってみようか。ちょっと子どもっぽいが、この子の容姿には似合うだろう。

 思ったより筆が進む。創作意欲がわいてきてるみたいだ。


「俺もさ、絵を描くようになったのは隣の家のやつに勝ちたかったからでさ。そいつ、すっごいから」

「美術が、ですか」

 その返事に俺は思わず笑ってしまった。

 そんなわけないけど、あいつがもし本気でやったらどうなるんだろうな。結局、中学の頃はかなりリードしてると思ってた勉強も同じ高校に合格できたわけだし。


「違う違う。もしそうなら、同じ分野で勝負しても勝てっこない。まぁ、かけっことかわかりやすいのは子どもの頃は競ってみた。でも、差が大きくてな。それで、そいつができない分野で得意なのを探したんだよ。そしたら、俺はそこそこ描ける人間だったみたいで」

 少なくとも、おまえが足を止めるぐらいの絵を描けるぐらいにはな。

「それで、磨いたんだ。あ、これが俺の武器だと思って」

 何か勝てるものがないと自信が持てなかった。あいつの近くにいて、(ねた)んだりとか悔しさを覚えたりとかしたくなかった。

 そんなネガティブな動機だったけど、結果としていい趣味に出会えてよかったな。そう、俺は思っている。


「こんな感じで生きてきたからな。自分の武器を生かし切れない人がいると思うわけよ。それ、磨いたらいいのにって」

「それで、『もったいない』、と?」

「そういうこと」


 彼女は俺の手元をじっと見ている。目に輝きが戻っていた。どうも、俺の手つきが気になるようだ。

 まぁ、気になるよな。話しながら、ずっと手を動かしてるんだから。


「もしかして、ずっと似顔絵描いてます?」

「ん、そうだよ」

「私、いらないって言ったのに」


 まぁ、待てって。あと少しで完成するから。

「いらなかったら、捨てていいぞ」

 俺の言葉を聞いて、彼女は大きく息を吐いた。どうやら、(あき)れられたらしい。

「そんなことしません。……もらって帰ります」

 やっぱり根はいい子なんだよな。俺はそう思った。


 (のぞ)()んでいた彼女は恐る恐る教室の中に入ってきて、俺の前に椅子を移動させてそこに座った。ちらり、と教室の奥の方を見る。

 そこにはものすごい勢いで鉛筆を動かしている(すず)さんの姿があった。あの様子だと、俺達の会話は聞こえていない。いや、あとで聞いてくるときがあるから気にしていないが正解か。

「ほい、完成」

 俺はスケッチブックから絵を抜き取り、前に座った少女に差し出した。彼女はいやいやといった表情で、それを受け取る。

 だが、その絵を見た瞬間、大きな目をまん丸に見開いた。


「これ」

 彼女は言葉を失っていた。そんなに驚かれるとは思っていなかった。ちょっとした仕掛けは仕込んだけど。

 まぁ、少なくとも嫌がってはいないか。いい表情をしている。


「少なくとも、ここに足を運んだってことは美術、興味あるんだろ?」

 そこに描いたのは、彼女がもしこの高校に進学したら、と考えて描いたものだ。うちの学校の制服を着て、楽しそうに笑っている。髪型は、まぁ、思いつきだけど、今の前髪が長いのは、やっぱりもったいないと思って切ってある。

 生き生きと、本当に学校に通うのが(うれ)しい。そんな表情で、こちらを見ている彼女の絵。俺が贈ったのは、そんな彼女の未来予想図。


「よかったら、俺の後輩になってくれると(うれ)しいかな」

「……はい」

 彼女は小さな声で、しかしはっきりと俺の申し出を肯定した。


 俺はそのまま彼女を見送った。何度か、こちらを振り返って()(しやく)している。よかった、いい思い出にはなったみたいだ。

「やるねー、(ゆき)くん。未来の部員ゲットだ」

 急に背中をバチンと(たた)かれた。痛い。


「す、鈴さん。似顔絵の方は?」

「おかげでバッチリ。幸くんもいい仕事してたね、サイコーっ!」

 鈴さんは親指をたてて、俺の仕事を(たた)えてくれた。


「いい仕事、してましたかね?」

「あれで来なかったら幸くんの責任じゃないなぁ」


 鈴さんの太鼓判をもらって胸をなで下ろした。その結果が判明するのは、まだまだ先の話。とりあえずは何とかなったなと胸をなで下ろした。

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