トロッコ隊との…何?
「いらっしゃい!」
墓参りの夜、俺はマルカの店の手伝いをしている。
故郷とはいえ帰る家もなく。…金もない。
復讐したいのだが、奴等の情報もなければ、勇気もない。魔王討伐した奴等に俺は何ができる。
「兄さん見ねえ顔だな。出稼ぎか?」
俺は客の注文を取りながら適当に笑顔を振りまいた。
「マルカの姉さん。こいつにも酒だしてくれや。どうせ暇なんだろ。俺達、鉱夫が店の売り上げに貢献してやらぁ。」
マルカは客のテーブルに座った俺を見て追加の酒を運んできた。素晴らしい笑顔だが…
「何が暇なんだろだ!お前らが下品に呑むから他の客が来ないんだろ!」
勢いよくテーブルにグラスを叩きつけるマルカ。せっかくの酒が半分程溢れだしている。
(もったいない…)
「お〜怖い怖い。これじゃあ、当分男も寄りつかねぇっす!」
客の挑発に、テーブルを足踏みするマルカ。
「兄、負けんじゃないよ!こいつらの金を吸い取りな!」
何か悪かったのだろうか?
俺は突然始まった呑み合いに強制参加させられた。
5杯くらいは、互角だった。俺と呑み合いをしている体格の良い若者。名前はムスというらしい。銀山のトロッコ隊の班長をしているみたいだが…
「マルカの姉さん!2杯追加だ。兄さん中々見どころあんじゃねえか。こっからが本番よ。」
11杯…流石に視界が回る。俺達を囲むように呑んでいる鉱夫達の冷やかしが頭に響く。
「お、俺は…まだ本気を出してねぇぞ!」
真っ赤な顔で周囲の客に強がりをするムス。班長として年齢関係なく威厳を保ちたいのだろうか?
「マルカの姉さん。めんどくせぇ!5杯追加だ。」
周りからの歓声に気分が上がりっぱなしのムス。実に豪快で爽快な若者だ。
(良くわからない勝負だけど、俺は…限界かも)
マルカからの圧を感じながら俺は12杯目に口をつけた。
……!!
(流石、マルカ。良く俺を見ている)
俺が口をつけたグラスの中は、ただの水だった。マルカは俺の限界を悟っていたんだ。
(これは…でかい流れがきた。)
俺は「演技」をした。【狩人】の獲物を仕留める時の集中力も功を奏し「演技」は彼等の勢いを見事に鎮火した。
「悪いが茶番は終わりだ。この俺の肝臓は今宵も酒に飢えている。とくと見よ!これが、出稼ぎ5連呑みじゃ!」
一気に5杯呑み干す俺の姿に鉱夫達は慄いた。逆に吐き気を催す者。班長のムスを気遣う者。俺に声援を送る者も現れた。
(泣き上戸かよ…こいつ。)
ムスはテーブルに頭をつけ子供のように泣き喚く。呑み合いに負けたから?金を全額支払うから?
違う。
ムスは俺の鮮やかな呑みっぷりに「嫉妬」をしたんだ。
「次は、穴掘り隊の班長も連れてくるから3人で勝負だ!」
敗者は最後まで負けを悔しがり去っていった。
「もう、あいつらには毎回参るよ。」
マルカの愚痴に俺は笑ってしまった。
父…ダンさんも似たような言葉を発していたから。
「マルカはクレアさんに似ているけど中身はダンさんそっくりだな。」
「何よ。悪い?」
グラスを片付けながら腹をさする俺を睨むマルカ。俺は酔いのせいもあるのか…
「俺は好きだな。」
と、本音をこぼしてしまった。
「なんなのよ。もう。」
俺から目線を外しテーブルを拭き上げるマルカ。顔を見なくても彼女が今…笑顔なのは感じ取れた。
店を閉めた後、俺は湯浴みをした。昨日みたいにマルカが入ってくるのではと、内心ドキドキしていたが今日はなかった。
「あがった?先に部屋に行ってて…私入るから。」
俺はマルカの部屋に行き、窓を開けた昨晩と違い心地よい風が部屋に入り込む。
「呑みなおす?」
湯浴みから戻ってきたマルカは2つのグラスを持っていた。正直、まだ酔いがあるが、せっかくグラスを持ってきてくれたんだ。付き合おう…
「なら、1杯だけお願いしようかな?」
俺とマルカは開いた窓から今日も銀山の灯りをみていた。
昨日と今日…同じ雰囲気の中、昨日と違うのは心地よい風と…互いの身体を知ってしまった事。
「窓は閉めるだろ?」
マルカは俺の言葉に小さな声で…
「お願い」
と答えた。
互いに求め合う。必死に抱きつき求める彼女に俺は、もう兄妹では居られないんだと悟った。
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