大円満の裏話7
俺はマルカと共に街の丘を登っている。
「あそこだよ。」
小高い丘にある互いに支えあっているように見える2枚の大岩。これは俺も覚えている。
「なんだよ。支え岩じゃないか。」
マルカと子供の頃、良く遊んだ場所だ。寧ろいつからあるか大人達も知らないんだから街のほとんどの人達が、この場所で遊んでいたと思う。
マルカは支え岩に近づき、先程、商店街で購入した花を添えた。
「ほらクリス兄も」
促され俺は近づいた時に遊び場だった支え岩の今の役割りを察した。
「…お墓か。」
俺の言葉にマルカは小さく頷きながら手を握りしめ祈りを捧げている。
「銀龍の事件の時の…共同墓地なんだよ。」
風化している岩より真新しさが若干残る岩に無数の名前が彫られていた。
ダンさんとクレアさんの名前もある。
「皆…龍に焼かれたから…何にも残ってないの。」
俺はマルカに習い手を握りしめ祈りを捧げていたが、彼女の声が震えていることに気がついた。
「俺は…マルカが生き残っていてくれて嬉しかったぞ…」
その言葉にマルカは「父さんがね助けてくれたから…」
と俺の両手を握りしめた。
銀龍…結局。勇者一行は、俺の生まれた街を生贄にしたんだ。
…………………
エルフの里が焼き払われた後、俺達は大森林の更に奥へと進んだ。
数日間は、あのエルフの里の異様な臭いが身体から離れなかった。時折吹き荒れる風が更に臭いを俺達まで運んで来ていると思った程、嫌な…悲しい臭いだった。
「クリス。俺達の事が嫌なのか?」
薄暗くなり大森林内で野営をしていた時、勇者ガランが俺に突然質問を投げかけた。大森林内の暗闇と焚き火の灯りが勇者の裏表を表現しているかのようで、俺はその質問に言葉を詰まらせた。
間違った事を言えば俺の首が…
脳裏から離れない老エルフの最期。
正直、恐怖しか今はない。
「すまないが今は初め程、好意はもてないかな?」
結局、俺は本音を語ってしまった。
「素直な反応だな。」
ハル・ステアとユナハートは互いに肩を寄せ合い木を背に眠りについている。
「ユナハートは凄いだろう。寝ているのにこの野営地に結界を張っているんだ。」
「ハル・ステアも凄いんだ。16歳で魔法の理を理解している。彼女はこれから存在する魔法の数より、新たな魔法を生み出すほうが多いんじゃないかな?…それだけの能力を彼女は持っているんだよ。」
自分に酔っている痛い女と、平民を蔑むサディスト。これが俺の彼女達への評価だったが勇者ガランは彼女達に敬意を払う。
男共は語らなくても分かるだろう?と見張り役のドラルクとギル・バードを笑顔で茶化す勇者ガラン。
普通の人が良い青年に見える。だから尚更、エルフの里の虐殺が腑に落ちない。
「人は頑張っても100年だろう?だから完璧じゃなきゃいけない。」
(こいつ…何を言っているんだ?)
「亜人は人より長寿なだけで結果を生まない無能じゃないか!」
勇者ガランの口調がどんどん強くなる。
「国が成り立って安寧と調和を造ったのは誰だ。亜人かエルフか魔族か?違うだろ。人族が産み出した恵みだろうが。彼奴等はそれを真似しているだけの無能種じゃないか!」
勇者ガランは俺に強く語っているわけではない。焚き火の灯火を見つめ見えない誰かに話しているようだった。
彼は…一種完璧主義者だ。人類以外は家畜以下。それを体現している。
………「僕は…人類の為の勇者だ。」
歪んでいた。この一行は、人として歪んでいる。女神の恩恵が、こいつらを可怪しくしたのか?
歪んだ思想が女神に見定められたのか?
だったら女神も歪んだ存在だな。
「クリスの【狩人】も中々素晴らしいものだな。今日なんか、森の木々をまるで意思を得たかのように矢がすり抜けて魔物の急所を突いていたじゃないか。僕も森の中じゃクリスに負けてしまうかもね。」
勇者に褒められた。普通なら喜んでしまうのだろうが、こいつの本性を見た気がして俺は…
「はい」
とだけ、答えていた。