大円満の裏話6
「滞在は構わんが餌は自分達でなんとかせい。生憎、家畜の世話などしとらんのでの。」
「家畜とは何たる言い草か!」
「詫びろ!」と聖騎士のギル・バードが槍を構えた。
互いの殺気が一気に高まる。エルフ達の言動を聞き見する限りだと端から歓迎されていないのは分かる。
しかし勇者一行もエルフ達に対しての態度は如何なものか?
「家畜とは随分と非礼ではないか?」
勇者ガランだけは冷静だったとおもっていたのだが、結局、こいつが一番非道だった。
「それはすまんのう。ほれ。」
老エルフが投げつけた何かの木の実。家畜の餌だとでも言いたいのだろう。周りが笑う中、勇者ガランは捨てられた木の実を拾いに近づいた。
バシュッ!!
エルフ達は拾い上げた木の実ではなく更に上の空を見ていた。宙を舞っていたのは老エルフの首だった。
首が地面についた時に、見る見る精気がなくなる老エルフの顔とは裏腹に勇者の隠していた殺気が溢れ出した。
「殺れ」
勇者の号令はシンプルでわかりやすく仲間に伝わった。
号令と共にギル・バードは一足飛びで取り巻きのエルフを槍で串刺しにした。抗おうとする、そのエルフを嘲笑い。足蹴にし直ぐ様近くのエルフも突き刺した。櫓の上のエルフ達は即座に弓を構えなおすが足場を拳王の拳が襲った。足場は崩れ落下するエルフ達を何度も何度も殴り続ける拳王ドラルク。
ハル・ステアは杖を空に翳し無数の火球を集落に降り注ぐ。逃げ惑うエルフ達に黒煙が舞い上がる集落全土、悲鳴と血生臭、そして焦げ臭い匂いが俺を包みこんだ。
ほとんどの兵は命を落とし、生き残った者は縄で縛られた。
「やり過ぎだろうが。」
俺の漏れた声に聖女ユナハートは微笑みながら告げた。
「全て女神の導ですわ…」
狂った目を向けるユナハートに俺は吐き気を催した。
(こいつらの何が勇者だ。ただの悪魔じゃねえか!)
野党と変わらない。
勇者一行は集落を制圧後、捕まえたエルフ達に飯の世話をさせた。つい先程まで、普段の暮らしをしていたエルフ達。しかし突然の勇者一行訪問でエルフ達は一気にどん底まで落ちた。
「ひっ。すみません。」
一人の女エルフが拳王へ飲み物を運んでいる最中に躓いてしまい中身を床に零してしまった。女エルフは何度も謝りながら床を拭くが拳王ドラルクは躾けがたりんな。と、奥に連れて行った。
「おいおい壊すなよ。エルフだぞ。」
聖騎士ギル・バードの心にもない忠告。
拳王が戻って来た時に女エルフの姿はなく、返り血を浴びた狂気じみた表情と、「華奢過ぎて一匹じゃ何にも、満足できねぇ」という言葉が俺の耳にこびり付いた。
それから数日間はエルフ達にとっては本当に生き地獄だっただろう。
女となれば幼子も関係なく勇者一行の男共の慰み者とされ使えなくなると直ぐ様、斬り伏せる。
男のエルフ達は、もっと悲惨かも知れない。互いに仲間同士で殺し合いをさせ合ったり、ハル・ステアの魔法の実験体にされ何の慈悲もなく焼き払われた。
この惨事に見かねた俺は、数人のエルフ達を夜な夜な集落から逃がしたが果たして無事に逃げ延びる事が出来たかは不明だ。
結局、俺もエルフに加担した事がバレて殺されない程度に罰を与えられた。
柱に縛られ何度も殴られ蹴られ意識が朦朧とするなかで
無条理に投げ捨てられたエルフ達の死骸が焼かれていくのを見ている事しか出来なかった。
こいつらと出会って…街を出て2週間程経過しただろうか?
俺はこの惨状をみてから、こいつらに…
「はい」
と。だけ話すようになった。
たぶん俺も可怪しくなっていくのを受け入れたんだと思った。
読んで頂き、ありがとうございます。
もし読者の皆様が
気になったり、続きを読みたいと
思って頂けましたら
下記の☆評価やブックマーク宜しくお願い
致します。
書き続ける原動力になります。