龍と双子の世直し旅1
「情けない。実家に帰らせてもらいます!」
そう言うとマルカはミウとスイの手を取り家から出ていった。
原因は俺が拗ねてふて寝をしているからだ。
マルカは二人と商店街を歩いている。マルカにとって、こんなに沢山の人で溢れかえる状況が新鮮で学ぶ力を強くさせた。
「あんた…みない顔だね?」
色鮮やかな果実を店頭に並べる老婆。随分と長い間、この場所で店を開いて居るのだろう。
「双子かい?何かと大変だろう。持っていきな。」
マルカは店主が気前よくなる言葉など何も話してはいないのだが、気がつけば赤い果実を三つ渡されていた。
「美味いね」
街の川に架かる橋。そこの長椅子に腰掛け人々の往来を見ながら果実を頬張る三人。
「隊長だいじょうぶ?」
「ちょっと…しんぱい」
二人は食べかけの赤い果実を見ながらクリスの心配をしている。マルカも「クリス兄にも食べさせたい」と思うのだが、思いとは反対の事を言ってしまう。
「知らない。グズグズ男なんて!」
マルカは今、人の【感情】を学んでいる。今朝のクリスの情けなさを見て、自然と起こした家出。愛想が尽きた?マルカ自身、分かっていないが新たな感情の理由を知ろうと楽しんでいる。
商店街を抜けてマルカ達は更に街の奥へ進む。双子の好奇心も相まって、本道から逸れて脇道にも入った。表は綺麗。でも裏は?
廃棄した家財や何とも言えない臭いを放つ無雑作に棄てられたゴミ。まだ昼なのに陽の光を嫌うかのような薄暗さでマルカ達を招き入れたのは「貧困地域」だった。壁に項垂れ酒瓶を持ったまま動かない者。気配を感じ、薄汚れた布をはけ、顔を覗かせる女。目が合うと舌打ちをしながら身を潜める。
商店街とは雰囲気が、まるで違う。
手元でナイフを回しながら屯する男達。見知らぬ子連れを見て嫌な視線を向けている。
【普通】の子連れなら、そんな男達の前を通りたいとは思わないだろう。
進路変更し、嫌な感じから逃げる。余計なトラブルを招かないように。
でもマルカは…素通りだ。自分より遥かに劣る者達に何を怯える必要があるのか?
マルカが素通りしたのを確認した男達は立ち上がり、ゆっくりと確実に後をつけてくる。
そして男達には、【仲間】がいた。マルカの前に立ち塞がる。汚らしい男達。ナイフをちらつかせ、威嚇してくる。
「子連れの姉さん…俺達と遊ばねぇか?」
道を塞がれたマルカ達を囲うように男達が集まる。
マルカの身体が目的か。【貧困地域】のもてなしか。
何方にしてもマルカは邪魔をされて嬉しくはなかった。
男達の目的は、【新しい者】だった。
襲う女なら貧困地域にもいる。だが彼等には貧困地域の
女は【普通】だ。見慣れた女に毎回【欲】は高まらない。
新しく知らないから男達は興奮する。
その高まりの発散の初手が【暴力】からだとしても彼等にとっては普通の事。
たとえ【抵抗】してきても、マルカには【弱点】がある。
それは…幼い双子の姉妹。
知らぬ者が見れば親子にしか見えないだろう。
幼子を抑えれば彼女は身を委ねる。
荒くれ者の常套手段。
ミウとスイ。昨日開花した【才能】があれば、例え大人でも簡単には負けない。でも二人はマルカのエプロンを掴みながら怯えた。
奴隷商での生活。大人からの理不尽。幼子の記憶にしっかり刻まれた【苦痛】
そんな二人の怯えをマルカは感じ取る。互いの魔力を干渉させたから、近くでも離れていてもミウとスイの個性を見逃さない。
「邪魔しないでよ!」
マルカの言葉に、男達はニヤつくだけだ。あそこの崩れた空き家に押し込んで発散すれば後はいつも通り。
そう。彼等にはいつも通りの筈だったのに…
空き家の崩れた壁の隙間から真っ赤な液体が流れでる。
酒等あるはずもない朽ちた家。
零したら拭きなさい。そうマルカは二人に先日叱ったばかり。でも今は、床を汚しても拭くこともなく、その上をただ普通にあるくだけ、外で待っていた二人の手をとりなおしマルカは真っ赤な靴跡を残しながら貧困地域の更に奥へと進んで行った。
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