大魔道士よ。先ずはお前からだ9
「2日も平和かよ!」
ベッドの上で天井に叫んだのは俺だった。晩ご飯後から既に睡魔に襲われていたミウとスイ。二人は重い瞼を必死に擦りながらマルカに手を引かれ頑張って湯浴みと歯磨きをし部屋に戻り直ぐに眠りについた。
でもマルカが部屋に戻ってこない。野宿中はあんなに求めてきたのに、どういう風の吹き回しなんだ。
二時間後、俺は自室から出ていない。マルカの様子を見に行けば済むことなんだろうが俺は意地になっていた。
ガチャ…
「はぁ…」
部屋に入るなりため息をつくマルカ。彼女にしては珍しい行為だが、俺は素っ気なく振る舞った。瓶に入った水をグラスに注ぎ椅子に座るマルカに手渡した。
「ありがとう。」
ほら、ごく自然だ。そして俺は、流れに身を任せるように部屋の窓を開けて風を部屋に呼び込んだ。窓辺に立ち街の灯りを見つめる。
どうだマルカ…幻惑の時の雰囲気と似てないか?
だから俺が何を求めてるか、お前ならわかるだろう。
雰囲気に身を任せる。後は互いに求めるだけ。
………………「もう寝てんのか!」
振り向くとマルカは布団の中で眠りについていた。
(何か‥スッキリしないな。)
廃墟でもなければ野宿でもない。快適なベッドからの目覚めは何故か悶々とした気持ちにしてくれた。
「まけない」
「すきはないのだ」
早朝からやる気を見せる二人。二日目でどうこう変わるものでもないと思うが、気持ちは大事だ。
「武器ほしい」
「隊長だけ、ずるするな」
たしかに手ぶらで戦地にいるのも可笑しい話しだ。
「なめられてる」
「さっしょうのうりょく…ひくい」
昨日の平原で俺は二人に詰所から持ってきた【木剣】を渡した。身体のサイズ的に適性だと思ったんだが、何か納得できないようだ。
「今日からお前達の【木剣】が俺に当たれば【勝ち】だ。まぁ無理だろうがな。せいぜい頑張り給え。」
(どうなってんだよ。)
昨日の彼女達は容姿に似合わず【素早い】動きをするなと評価したのだが、今日は【素早い】で片付く問題ではなかった。
ダミー矢も仕事ができていない。
彼女達が【速すぎる】からだ。1日ほどでこんなにも違うものか?
しかも平原の草に隠れて目視が難しい。
【超スピード】と【低身長】この組み合わせは素直に俺を焦らせた。
「やあ」
「!!」
危なかった。側面からミウが木剣で攻撃してきた。草の揺れに気を取られすぎたか…
もしかして、二人が【高速】で動いていると思っていたがスイだけを俺は追っていたのか?
弓の狙いが定まらない。構えた瞬間何方かが側面もしくは背後から攻撃してきたら俺にあたる。
一旦、距離をとるか…
俺は平原内を移動した。此方も脚を使って二人の動きを狂わせよう。互いにいた陣地が変わる。
そして、スイが草むらから顔を覗かせた。
(あんな場所にいたのか!)
逃げ道はふさぐ。俺は5本の【魔矢】を弓に乗せた。
ドン!
俺の直ぐ傍で轟音と共に地面から火柱が現れた。
そして…事態は一変した。
俺の周辺で轟音と共に何度も火柱が発生する。まるで砲筒の乱れ撃ちだ。
轟音と炎。そして土埃で視界が遮られ聴覚も麻痺してくる。
(まさか、こんな近場にまで亜人が侵入してきたのか)
俺は空を疑う。魔物が空から攻撃を…
視界が悪い中、俺は集中し上空を見上げる。
原因さえ分かれば打開策をうてる……
「るーーー!。うっ!!!」
俺は下半身に激痛が走り、その場に疼くまった。空を見上げ集中していたからこその
失態。
砂埃の中から人影が見えた時には既に遅かった。朝、渡した木剣のかち上げ。
偶然か必然か知らないがミウの低身長も相まって、その軌道は俺の股をすり抜け、それを捕らえた。
這いつくばる俺のお尻を何度も打ちつける追撃。姿を見れないがおそらくスイだろう。
「さくせんどーり」
「うちとったりー」
無邪気に笑う双子の姉妹。俺は辛うじて意識を保っていたが、不覚にも立ち上がる事は出来なかった。




