大円満の裏話2
「15年も俺は石になっていたのか…」
マルカは溢れる涙を何度も何度も拭きながら俺をカウンターに座らせ、新たに酒を酌みなおした。
「え!ダンさんも、クレアさんも亡くなったの。」
ダンさんとクレアさんはマルカの両親だ。俺が勇者一行の一員になった後の数日後、伝説と言われていた銀龍が街の上空に現れ火を吐き建物を薙ぎ倒し街に壊滅的な被害を出した。その時にダンさんとクレアさんは銀龍の惨事に巻き込まれてしまったそうだ。
マルカの両親には世話になった。孤児院育ちの俺を良く面倒を見てくれた。マルカが兄と呼ぶのは小さな頃から共に過ごした時間が多いからだろう。
街が襲われてから15年。だいぶ復興は進んだようだが、久しぶりに見た街に懐かしさを感じなかったのは面影が変わったからだろうか。
マルカは話しをしながら、店の外にでた。そしてガラス越しに見える灯りが少し暗くなった。
「どうしたんだ。急に外に出て…」
「クリス兄と久しぶりに逢えたのに、他の人に邪魔されたくないから…少し早いけど今日は店じまい。」
マルカはそう言いながら、棚からボトルを取り出し俺の隣りに来て座りながら自身の酒をついだ。
「もう…いきなり私の方が年上になっていて、だいぶショックなんですけど!なんであの頃のままなのよ。まぁそのおかげでクリス兄って気がつけたんだけどさ。」
確かに15年も歳月が流れているわりに俺は、旅立った時と容姿の変化はあまり変わっていない。
理由ははっきりわかっている。
「あいつらのせいだ!」
あいつら…勇者一行のやつらだ。
突然大声をだした俺にマルカは驚いていた。そして俺は淡々と語りだした。
………………………………
「そうか、【狩人】の恩恵持ちか。」
勇者一行の前に押し出された俺は自分の説明をした。勿論、大森林やブルワリー山脈に近づくのは反対した。
しかし、勇者一行に俺は都合良く見えたのだろう。
「もしかして戦力の心配をしているのか?」
勇者ガランの横で長槍を肩にかけニヤけている長身の男、聖騎士のギル・バード。公爵家の長男でグランド王国の聖騎士団長。自信家で平民を蔑む腐った目の嫌な奴だ。
「狩人のお前の能力は知らんが、こちらは勇者、拳王、聖女に大魔道士。更に聖騎士の俺が居るんだ。」
何の心配がいるんだと言わんばかりの態度。
本当に嫌いだ。
「私達は魔王討伐という使命があります。どうかお力添えをお願い致します。」
手を握り目を潤ます。純白の聖職者。聖女ユナハート。
使命感に酔いしれて自分の世界観に浸っている痛い女だ。
結局俺は…勇者一行に同行する事になった。
「覚えてる?父さんが泣いていたの。」
「……あぁ覚えているさ。」
勇者一行の仲間として旅立つ前日。俺はこの店で、ダンさん夫婦から、食事をご馳走になった。
街全体で見れば俺の同行は名誉で誇らしいことだろ。しかし、ダンさん夫婦は心配と寂しさを表に出した。
「クリス!今からでも良いから断ってこい。お前がわざわざ危険を冒す必要なんてねぇんだ。」
感情を前面に出すダンさんの手を握りながら涙を流すクレアさん。
「危ないと思ったらカッコつけないで直ぐに逃げてきなさい!」
俺はクレアさんに笑顔を見せながら、21になるんだから自分で判断できると笑って言い返した。
「21になるんだったら…娘を嫁にもらって、この店を継がんか!マルカの気持ちを考えろ!バカタレ。」
気持ちを自分からではなく父親からクリスへ伝えられたマルカは突然の出来事に同様してしまい。思わず握っていた食器を地面に落としてしまった。
「マ、マルカは良い女だ。別に俺じゃなくても。」
俺は照れもあり割れた食器を片付けるマルカの後ろ姿を見ながら目の前の酒を飲み干した。
「お前じゃねぇと…俺が納得できねって話しだろうが!」
酒に強いダンさん。しかしこの日は酔いが早かったように見えた。
……………
「私ね。お父さんが酔いつぶれたのを見たの、あれが最初で最後なんだ。」
グラスのくちを指でなぞるマルカ。先程より頬に赤みを帯びていた。
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