大魔道士よ。先ずはお前からだ8
「い、いいのか?」
ミーナ隊長に案内され、詰所から少し歩いたところにあった。木造平屋建ての建物。
「言っただろう。人手不足なんだ。空き家が出ちまうんだ。」
「東部辺境・工作部隊の拠点にしたらどうだ。」
鍵を俺に投げ、去って行くミーナ隊長。
昨日まで、キャラバン隊の【護衛】をしていたのが、
翌日、工作部隊長になり部下まで持たせてもらった。
出来過ぎか流れが来ているのか?
分からないが、野宿は回避された。
「クリス兄!おかえりなさい。」
平屋の玄関から勢い良く出てきたマルカ。どうやら先に案内されていたらしい。
「あの小娘がさ。出迎えてやりなって案内してくれたんだ。」
(なるほど、ミーナ隊長なりの気遣いって事か。)
突然、家から現れたマルカを見て双子の姉妹は唖然としている。
そうか、初対面だった。マルカの機嫌のためにも、しっかり紹介しないとな。
「ば、ばけもの。」
「このよのおわり。」
マルカを見るなり、最低な発言をする二人。これは…マルカの機嫌が損なわれるのが確定してしまった。
と、思ったんだが…
「クリス兄…この子ら私の魔力が完全に見えてるよ。だいぶ抑えているんだけど。」
マルカの魔力?俺は気にした事はない。中身が銀龍だから【普通】ではないのは一番理解できているつもりだが
銀龍がどういう【仕組み】で人化しているかは未だに分からない。
「にるなりやくなり」
「すきにしろ」
マルカは二人が気にいってしまったようだ。理由は分からないが母性本能というやつなのかもしれない。
マルカに抱きかかえられた二人の【絶望】的な表情は、
俺が銀龍と山頂で初めて対峙した時と同じように見えた。
「今日は平和過ぎだろ!」
ベッドの上で思わず叫んでしまったのは俺だ。
理由はマルカが二人にべったりしているからだ。
ご飯を食べさせ、湯浴みをさせる。身体を拭いたら髪を乾かし歯磨きをする。お菓子をつまみ食いしようとしたのを咎めて部屋に行き寝付くまでお話しをしている。
誰の記憶を参考にしているのだろうか?俺は孤児院育ちだったからな。
全部で四部屋の平屋建て。玄関直ぐの部屋は皆が集まる部屋にした。台所奥にある洗い場兼湯浴み場を除いた三部屋。ミウ、スイで一部屋。俺はマルカと一部屋(本当は一人部屋にしたかった。)残りの一部屋は客間扱いにした。(たぶん物置部屋に降格するだろうが)
部隊をどういう方針にしていくか悩むところだが、正直、戦力は俺だけだろう。
命令が降る前に出来る事をしなければ。
マルカは部屋に戻ってくるなり布団に入る。俺に何かいうことも無く、そのまま眠りについた。
(何か‥調子狂うな。)
翌朝、寝癖が全く同じなミウとスイが部屋に現れたのを見て俺はお茶を吹いてしまった。
マルカの寝癖直しが当分、朝の光景になりそうだった。
「さあ訓練だ。行くぞ二人とも」
東部地区側の城門を抜けて直ぐの平原で俺は双子の姉妹に訓練を課した。
俺は、この子らを【兵】にしたいわけではない。
いつか…いつか必ず、この子らを俺が裏切ると思っているからだ。
【生きる術】を教えて…たぶん自分の【罪悪感】を薄めたいんだと思っている。
「死にはしないが当たれば痛いぞ。油断するなよ!」
俺は平原で、姉妹から距離を取り姉妹めがけ【魔矢】を放っている。実戦形式で彼女達の俊敏性を高めるためにだ。
魔力を極力抑えた脆い【魔矢】。それでも痛いものは痛い。俺は狙いを定める後は姉妹がどう立ち回るか?
(やるじゃないか。)
二人は矢を避けると互いに逆方向に散らばる。俺の二波の狙いを遅らせる為に。
(意外とすばしっこい。)
俺は連射の速度をあげた。全て姉妹狙いでは無く彼女達の進行方向に予めダミー矢を放ち行動範囲を狭めるのが目的だ。
結果、二人は逃げ場を失い身体に矢が命中してしまった。途中までは良かったが【体力】が問題だったのだろう。
「さきまわりされた。」
「ねちっこいやつ」
何か‥スイの言葉は悪口にも聞こえるが、彼女達が何か掴めれば、成長がみこめそうだ。
…………
「今日はここまでだ。帰るぞ!」
姉妹は平原に大の字になり息をきらしている。
初日にしては頑張ったほうだ。
「ヒリヒリする。」
「疲れたので、じっかにかえらせてもらいます。」
何か‥最近良く聞いてた文言に似ている気がするが、世の中には沢山の【似たもの】がある。細かい所を気にしていたら、視野が狭まるだろう。
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