大魔道士よ。先ずはお前からだ2
俺達は街道を進み農産地帯に入った。一面に広がる麦畑の農道を進んでいる。
畑で仕事をする農夫たちを横目に俺はマルカの案内に従っていた。
「マルカ。あの農村で少し休まないか?」
先に見える農村地帯。日も傾いてきた。今夜はこの村で過ごそう。村の入口で見かけた農夫に「旅の途中だ」と適当な嘘を並べ村の中へ案内してもらった。村を出ていく者は多いが訪れる者は少ない。過疎化が進む村では、俺達みたいな旅人に歓迎をしてくれる気さくな者もいる。
「ありがたい。」
村長主催の俺達への、おもてなしが村の広場で始まった。麦酒が配られ、大きな鍋での炊き出し。村人達の踊り。何度も酒を勧められ俺は気分が良かった。
そして、小さな村でも【復讐】への情報が得られた。
グルジア領での大規模な【徴兵】がつい先日行われた。この農村にも、【お触れ】掲げた兵達が現れ数人の若者が連れて行かれた。徴兵の話しで、楽しんでいた宴の熱気が少し冷めた。
一部の村人の表情は不安そうだ。きっと息子を連れて行かれたのだろう。
「俺も兵として働いていた事がある。大丈夫さ。徴兵した奴等をいきなり前線なんかにださない。やる事は、後方で物資の運搬だろう。だから安心しろ。」
「皆帰ってくるさ。」最後に言った俺の言葉に村人達は不安気な表情を止めて、再び踊り呑みだした。
俺は適当に嘘を並べただけだがな。
「蛮族との戦争?」
魔王は倒された。俺が石化している間に彼奴等がやった事。それが10年前。更に5年の月日が流れて、今度は種族間で争いが起きたのか?
村での情報量は少ないが僅かながらに情勢は理解できた。
「ありがとう。」
翌朝、俺は農民達にお礼を言い村をでた。出逢う可能性は低いと念をおしたが、【徴兵】された奴等の家族達から手紙を受け取った。
復讐ついでに探してみるとは、農民達には言えないけど、一応一晩の礼のつもりで片隅に記憶しておこう。
雲ひとつない晴模様。農道の突き当たりで合流した街道。マルカは、左だと指さす。右か左か?何方に進むか。マルカの指示通り行けば最短でハル・ステアに会えるかも知れないが、情報が足りな過ぎだと俺は思っている。
今の俺の状況を、一度整理して見た。
15年の石化が解ける。
故郷の真実を知る。
復讐を誓う。
銀龍の加護のおかげで
大魔道士ハル・ステアが一番近くに居ることがわかる。
農村で【蛮族との戦争】の情報を得る。
素材帳になぐり書きした。状況一覧。
街道の道端の小岩に腰掛け悩む俺の上から覗き込むマルカ。何か機嫌が悪そうな表情をしている。
「な、なんだマルカ。」
いきなり素材帳を取り上げ何かを書き込むマルカ。
此れが正解!と修正した箇所を俺の眼前に近づけてきた。
ふっ。
思わず、笑ってしまったが彼女には大事なことなんだろ。
銀龍✕→マルカ◯
「悪かったマルカ。そ、そうだ。マルカにはこれから、
【復讐情報の纏め役】をお願いしようかな?」
「任された!」
嬉しそうに俺の素材帳を抱えるマルカ。
これからすることは、俺の復讐劇だ。簡単な話し英雄達を敵にし暗躍しどん底に突き落とす。奴等の【正義】からしたら、俺も人の姿をした【蛮族】なんだろな。
「【徴兵】に乗っかるか…」
俺はマルカに大魔道士よりも一番近くの栄えた街の場所を知らないかと尋ねる。マルカは道の先を見つめながら目を見開き硬直している。
(やっぱり銀龍なんだな…)
【千里眼】龍族の能力のひとつらしい。指さす方向に、城壁に囲まれた街があると言う。
「距離は?」
「人間の脚なら5日かな?」
それなりに距離はありそうだが、急いで復讐する意味はない。俺は自分の残りの人生をかけて復讐するんだ。
やるからには徹底的に潰してやる。
「飛んだら昼前にはつく?」
マルカは背中から、白銀の翼を生やして羽ばたかせる。少しだけ羽ばたかせただけで周囲の地面の塵垢が舞い散る。
……………
「悪かった…失言だった。」
無言で俯きながらとろとろ歩くマルカ。彼女のペースで進んだら5日どころか倍以上の日数がかかりそうだ。
少し前からマルカは落ち込んでいる。
理由は俺が
「変だからしまえよ、その羽」
と、言ってしまったからである。
可笑しいだろ。31歳になった街の酒場の娘がいきなり翼を生やして羽ばたいたら。
それに知らなかった。人間が【美】の意識を容姿で表現するなら顔や身体つきが大半かもしれないが、まさか、龍族は【翼の輝き】と【尾の反り方】…そして【全体的な収まり方】に重点を置いているなんて。
美意識の概念なんか…俺には分からない分野だ。
とりあえず…次、もしも【尾】を俺に魅せる事があるなら、その時は、十分に配慮しよう。マルカ(銀龍)の能力は復讐に役立ちそうだし…
「次…けなしたら、私、少し実家に帰らせてもらうからね!」
これは、やはり細心の注意が必要だ。
道中、俺はマルカの機嫌直しに努めた。結局、龍族の生態を良く知らない俺から出る言葉など【綺麗】【可愛い】等の良くある、褒め言葉の在り来りな文言だけだったが、猫背よりで前屈みにとろとろ歩く彼女の背筋が俺の在り来りな褒め言葉で徐々に伸びていく。
数分後…彼女の機嫌は背筋と共に回復した。
まだ、奴等の情報量は少ないが…
マルカが意外と【単純】な女性(龍族)だと言う事が分かった。
「クリス兄!。このペースだと今日は野宿だよ。はやく!急いで急いで!」
お前が、とろとろ歩くからだろ?
俺は彼女の機嫌の立ち直り方に思わず吹き出してしまったが、
「置いていくなマルカ!」
と、仲の良さを誰も観ていない中で演じてしまった。
読んで頂き、ありがとうございます。
もし読者の皆様が
気になったり、続きを読みたいと
思って頂けましたら
下記の☆評価やブックマーク宜しくお願い
致します。
書き続ける原動力になります。




