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大魔道士よ。先ずはお前からだ1

「ついてくるなよ!」


俺は真実を受けとめ、人である事を辞めた。

マルカは失望するだろう。ダンさんもクレアさんも、俺を止めるだろう。


俺を知る人が今の俺をみたら哀しむだろう。


でも、彼女達はもういない。


「俺は彼奴等を絶対に許さない。」


「恨み」怨み「復讐」殺意「不幸」苦痛

俺の頭の中は彼奴等をどうしてやるかで一杯になっていた。俺が女神から与えられた【狩人】の恩恵は、この為に授かったと勝手な解釈を自分に植え込み。廃墟となった故郷を出て永らく整備されていない街道跡を北に進んだ。


「だから、ついてくるなよ!」


俺の後をついてくる女。銀龍だ。

俺は銀龍に怨みはない。山頂で、こいつは【条件】を提示しただけで、龍の暴走も予め告げていた。


こいつの条件を自分達の都合で、のんだ彼奴等が悪い。

しかし、銀龍に付きまとわれても邪魔なだけだ。だから俺は強く拒んでいるのだが、銀龍は俺から離れようとはしなかった。


「妾を抱いて逃げるのか?人でなしの畜生。」


俺の【精神体】から学んだのだろうか?しかし、俺の人生でそんな場面は1度もないのだが。


肉体の寿命が近いと言いながら、勇者一行を赤子扱いした圧倒的な戦闘力。あの迫力と恐怖を俺は間近で感じ取った。人知を遥かに超えた存在なのに、どうして此奴は

人化して俺に甘えてくるのだろうか?


「山に帰れよ!」


背後で騒ぎ立てる銀龍に俺は、別れを告げた。その場に泣きながら崩れ落ちる銀龍。まるで山頂での戦いの此方側の姿に見えてしまう。


「人に化けてまでして、お前は何をしたいんだよ!人の感情を逆撫でにして。」


銀龍は、俺を【ツガイ】にしたと喚き散らす。精神体で繋がった初めての相手だからと…


「俺はお前の幻惑で、マルカと再開したんだよな?」


地に正座をしながら頷く銀龍。


「お前に言っても俺が恥ずかしくなるだけだが…」


銀龍は正座をしながら首をひねる。


「俺はお前の幻惑の中でマルカを求めたんだよな?俺の願望だといったよな?」


地に正座しながら自身を指さす銀龍。


その仕草に俺は眉間にシワをよせて言葉につまる。

それを見た銀龍は気を利かせたのか…無駄に詳しく説明した。


「妾の幻惑は、お前の精神体から読み取った記憶と、この先に望んだ願望を混ぜ合わせた。お前が強く想っていた者との関わりに妾の精神体をのせて、それを中心に幻惑の力を維持した。」


銀龍は人を良く学び興味を持ち。心も人になりきりたいようだ。いや既に銀龍は人になりきっている。


「言わなくて良いぞ!」


俺の言葉を無視する銀龍。


「妾の初めてを奪ったのはお前ぞ。責任をとってたもう。」


「だから!言わなくて!良いって!言っただろうが!」


銀龍は口に手を当て、「あっ、私…余計な事、言ったかな?」みたいな仕草をする。


無駄だ。銀龍に何を言っても無駄だと俺は感じた。人に興味を持ち。俺の嫁だと思っている。


俺は銀龍の幻惑で、幸せを感じた。銀龍は幻惑も現実も同じ感受性を持っているのだろう。


(俺も、現実を否定して夢を見ていたい。復讐者にも誰にも理解されない癒しが欲しい…)


結局、俺も彼奴等を否定できる器はないんだろな。


「なぁ銀龍。お前と【ツガイ】で構わないぞ!」


銀龍は喜んで、その場で何度も飛び跳ねる。銀龍の素なのか…人の演技をしているのか解らないが…


そして俺は【条件】をつけた。

銀龍が山頂で俺達に条件を提示したときのお返しのつもりで。


「俺はこの世界を現実だと思っていないんだ。だから、お前が一緒にいたいなら…」


        (そう、これで良い。)


 「悪いけど、マルカの姿で俺と居てくれないか?」


銀龍は条件をのんだ。幻惑の中で愛したマルカが俺の目の前にいる。


「これで良いか?」


俺は、頷いて…マルカと街道を再び歩き出した。

復讐の対象は


勇者ガラン

拳王ドラルク

聖騎士ギル・バード

聖女ユナハート

大魔道士ハル・ステア


の5人だ。


「どいつから、復讐してやるかな?」


俺の独り言にマルカは口を尖らせ何か考え事をしている。


「大魔道士が一番近いよ。クリス兄。」


大魔道士?ハル・ステアが一番近い?なぜマルカがそれをわかるんだ?


「え?私の加護与えてるんだよ。居場所くらいわかるよ!クリス兄もう忘れたの?」


マルカは無邪気に「はやく復讐しよう」と街道の先を指さし、俺の袖を引く。


そうだよな。俺が自分の現実を壊したんだ。

マルカの姿をした銀龍はマルカを演じる。そして俺は、それを受け入れた。


復讐に後ろめたさを持たない為に、壊れている自分を正当化する為に


俺は「はやく復讐しよう」の言葉に笑顔になった。


「そうだなぁ…大魔道士よ。先ずはお前からだ。」








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