大円満の裏話9
「流石にまずいな…」
顳かみ辺りから血を流す勇者ガラン。聖騎士のギル・バードは鎧の胴が破損し、そこから大量の血を流し聖女ユナハートの神聖術を受けている。
拳王ドラルクは片膝を突きながら息を切らし、大魔道士ハル・ステアへ激をとばしていた。
「ハル。時間は稼いだ。撃ち抜け!」
無詠唱で高水準の魔力を循環できるハル・バードが詠唱をしていた。
さすがの俺もハル・ステアに期待を寄せた。
【メテオストーム】
ハル・ステアの最大火力を誇る魔法。
マグマのよう煮えたぎる炎を纏った巨大な岩が空から一直線に落下してくる。
「魔王って…これ以上なのか?」
俺は、咆哮と共に放たれた白銀のブレスにハル・ステアの最大火力が無効化されていく様をみている。
銀龍との対峙。
龍族…この世界で最古から存在する種族。魔物の様に人々を襲う者もいれば、何千年も外界との接触をさけ静かに暮らす者もいる。
彼等の生態など人が知る由もない。正解には知る時間もない。対峙すればわかる。圧倒的な力に「死」のイメージしか湧いてこない。
「ユナハート。ギルの容態は?」
勇者ガランの問いに、ユナハートが答える前にギル・バードは槍を杖がわりにしながら立ち上がる。
「ガラン…俺は堕ちねえぞ!」
傷は回復しても圧倒的力量の差は回復しない。しかし、ギル・バードは自身の実力を補う為にプライドを捨てた。
「平民、援護しろ。あいつの懐までいければ技が入る!」
初めて会ったときから、俺を見下していた男。でも今は俺に助けを求めてきた。
でも、協力した所で、どうなる?
銀龍からしたら、俺達は灯りに群がる羽虫とかわらないだろう。耳障りな羽音が嫌で近づいてきたら軽く手を払い追い払う。実際、昨日も野営地でした行為だ。
拳王…聖騎士は吹き飛ばされ岩を背に辛うじて息をしている。大魔道士は魔力が口渇…杖を翳しながら恐怖で震えている。
聖女は、必死に女神の名前を涙を流し叫んでいる。
勇者は剣に魔力を溜めている。
最期まで諦めない。それが勇者の有るべき姿…
勇者の渾身の一撃は、銀龍のブレスを切り裂き龍本体へ初めて刃を通した。
勇者なら銀龍を倒せる。
子供達に読み聞かせる物語なら、それで良いだろう。
でも俺達が見たのは無傷の龍の前に勇者の折れた剣が突き刺さっている光景だった。
勇者一行の敗北。
弓を構え銀龍に狙いを定めた俺は…笑っていた。
既にエルフの里の惨状から俺は壊れていたんだ。勇者一行が敵わない強者に弓なんか構えてお前は何がしたいんだ?
自分の行動が無意味な事だとわかっているのに、俺は生にしがみつきたくて、無駄な事に縋り付いていた。
やはり、龍族の考えはわからない。
勇者一行…そして俺は、各々「死」を覚悟した筈だ。
しかし、銀龍はとどめを刺さない。
ただ、此方をずっと見ていた。
「何なんだ‥あいつ。」
龍が静かになり、冷静さを取り戻した聖女ユナハートの治療で勇者一行は回復していく。しかし、一歩が踏み出せない。勝ち筋を誰も見いだせないでいる。
(人の者よ。妾に何を求めておる?)
突然、頭に響く声。どうやら勇者一行にも聴こえているようだ。
(此れくらいで驚くな念話じゃ。)
龍は頭を垂れて地に伏せながら尾を動かしている。先程までの威圧感は今は感じない。
「魔王討伐の為、【龍の加護】を求めてこの地にきた。」
そう言えば、俺はこいつらが山頂を目指した目的を知らなかった。聞くタイミングはあった筈だが、本性を知った時に、自ら心を閉ざした。
まあ俺は勇者一行の手助けをしただけで、仲間ではないからな。加護が何か知らないが、話しが纏れば俺は街に帰れるんだ。
(加護…妾の力を得て魔王とやらを倒す。実に人の者が思いつきそうな考えじゃ…)
「人類の為に…僕達に力を貸して欲しい。頼む。」
銀龍に頭を垂れ、加護を求める勇者。人以外を家畜以下と思っている者が人以外に助けを乞うとは…あいつなりに必死なのだろうか?
(別に妾は構わん。しかし、条件はあるがな。)
「俺達にできる事なら何でもする。」と拳王ドラルクが拳を握り前のめりになる。
こいつの何でもなど「暴力」以外、俺は思いつかない。
(何でも‥ふふ。妾はもうじき死ぬ。肉体の寿命が近いのじゃ。)
銀龍は傍らにあるタマゴをみている。銀龍の寿命とは肉体で精神体は「永遠」だと話しを続けた。
「肉体の寿命で【加護】を授けれない。そう言うことか?」
勇者ガランの言葉に銀龍は尾を地面に擦り付けて…たぶん笑っていた。
「【加護】を授けるのは、簡単じゃ。問題は妾の肉体との繋がりを維持する力が無くなるのじゃ。」
「どうしたらいい?」
加護を授けた後に、タマゴに直ぐ【精神体】を移し新たな身体に馴染むまで、暫し眠りにつく。
退屈しのぎに…誰かの【精神体】との繋がりが欲しい。
1人誰か妾の贄になれ。
(他の者には【加護】を授ける。)
銀龍の説明は、【加護】を授ける代わりに誰かを置いて行けと言う事なのだろう。
(考えるまでもない。俺が犠牲にさせられる。でも勇者一行が去り、龍がタマゴに精神体を移したら俺は逃げれば良いだけだ。…此れで街に帰れる。)
「因みに、残った奴が逃げたらどうなるの?」
(妾の【加護】を侮るな小娘。裏切りに代償を与える呪式を組み込んでおる。逃げたら【加護】持ちには死を与える。)
「呪の類か…」
(なに…妾の暫しの眠りに付き合えと言うだけじゃ。容易い条件だろう?)
「何を…し…てい…る…」
俺の背中が熱くなる。そして身体がみるみる硬直していく。足元から順に真っ白い殻が纏わりつく。
「意味わかんない。」
背後からのハル・ステアの声に俺は振り向きたくても首が既に殻に覆われて身動きが取れない。
「【コカトリスの呪牙】って衣服は固まらないんだ。」
呪牙?誰かが俺の背中に刺したのか。
「銀龍様。目覚めたら、この男の牙を抜いてください。石化が解けるので【餌】にでも。」
(妾が目覚めた時の気分次第だが、条件は満たした。)
俺は銀龍の言葉に絶望を感じた。
そして、勇者の言葉に…この世界を恨んだ。
(【精神体】を移せば今の肉体は1日ほどで朽ちるだろう。しかし、自我を失えば魔物と変わらん。人里を襲うかもしれないが【勇者】たるお前はそれを許せるのか?)
「構わん。お前の肉体を倒すだけの力を今は持っていない。1日だけだろう?山を降り、森を抜ければ人里がある。好きにすれば良い。」
勇者ガランは俺の生まれ故郷を生贄にした。石化した俺を見て奴は…
「すまないが、【魔王討伐】と【お前の街】では、人は【魔王討伐】を求めるんだ。」
俺は叫んだ。石化により外に漏れない声を何度何度も。奴等が居なくなり、【精神体】が抜けた龍は魔物と同じ真っ赤な瞳に変わった。四方八方にブレスを吐き。銀色の鱗は剥がれ落ち。肉も腐り落ち。それでも破壊行為をやめない龍は…勇者の言葉を思い出したかの様に…
俺の生まれ故郷の方へ飛び立って行った。
暫しの眠り…龍の寿命と人の寿命の違いだろう。
俺の石化は15年で解かれた。このまま龍に喰われる。それでいいと思っていたのだが、意識がはっきりした時に龍の姿は無く、無数の殻が地面に散らかっていた。
………………………………
マルカの部屋に暖かい光が差し込む。
マルカは俺を見つめながら「勇者」と「龍」が憎いかと聞かれた。
俺はマルカと再開できたから、「救われた」と答えて彼女の髪を撫でた。
(恨みと憎しみの感情しかなかったけど、彼女が生きていて…俺は【心の拠】ができた。)
少し長く話して疲れた。彼女は俺の腕枕から頭を上げて自身の胸に俺の顔を引き寄せた。
そうだね。疲れたから少し眠ろうかな?
(おやすみ。マルカ…)
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