爆発する柿本
言うんだ
ずっと違和感があったんだ
言うんだ…俺はもう一呼吸した
「早いんだよ!展開が!!」
予想以上に声を張りすぎたのか、2人ともビクッとする
「まだ高校1年の6月だぞ!?早いんだって!!まだ文化祭も修学旅行もやってない、卒業間近みたいに色々ぶっ込み過ぎなんだよ!」
「私は文化祭も修学旅行も柿本君と楽しみたい…」
「甘い!!甘いぞ藤坪、良いか?文化祭、修学旅行マジックって知ってるか?どっちでもいいや、説明してやる、普段そんなに好きでもない奴に対してイベント事の上がったテンションで気になったり、好きになる、そう言うものだ、しかし藤坪、そして五次元、お前ら俺に何つった?藤坪は俺を好きだと、五次元は俺を取って食おうとするような発言をしたな?」
あまりに俺が饒舌に、声高々に語るもんだから2人とも顔が引きつってら、まあ良いさ、俺も心臓バクバクだ
「せめて一通りのイベントが終わってから好きになれよ!」
「でも私、中学の頃から好きだったんだけど…」
「やかましいわこのアマ!!!!お前清純気取ってるくせにとんだ肉食獣じゃねえか」
「そ、そんな言い方…」
「今のは言い過ぎだと思うよ」
「おう五次元、この大型日本人形コラ、お前は入学して2ヶ月全然話さなかったよな?何なの?放置したのに急にこっちの種族に馴染もうとするんじゃないよ!!」
「放置って…あとたまたま自販機で会っただけ…」
「会ったとしても色々話しかけねえだろ、もしくは無視だろ!」
「ちょっと、大型日本人形発言は今は一旦胸にしまっておいてあげるから、一回落ち着いてよ…顔色悪いよ?」
疲れた…頭がボーっとする
いきなり大声と溜めてた長い言葉で酸欠だ…
「と、とにかく俺の思い通りにならないなら2人とも絶交だかんな!!!!」
体力は残っていないが捨て台詞を吐いて俺はヨロヨロとその場を離れようとしたが
「フラフラじゃん!ちょっと休みなよ!」
藤坪が俺を無理矢理その場に座らせる、地面なんだが
五次元も駆け寄り、まるで俺は悪代官みたいな構図になった
「俺は…言いたい事言ったからな、それで俺の事をどう思おうが俺は、知らんからな…!」
「分かったから、嫌われるの嫌だから私、柿本君の言う事聞くよ…うん、色々急だったよね?校内イベントを消化するまでは私、柿本君への気持ちを閉じ込めておくから…ぶつけないように努力する…だから今まで通りにしてね…?」
あれ?
「私も、小型犬みたいな柿本君に大型日本人形って言われたけど今まで以上に柿本君と積極的に関わっていきたい、最初は友達として、でも好きになっちゃったらごめんね?」
ん?
なんか思ってたのと違う
てっきり俺は2人ともドン引きで終わりってなる未来を想像していたのだが…
理不尽な思想の強要、積極的な悪態、勿論本心なのだが、受理されたって事か…??
自分の立場を捨てて勝手に立ったフラグを全部へし折ったつもりなのだが…
色々自分にも非があるなあと思っていると五次元が控えめに手を上げる
「質問、良いかな?柿本君って実際饒舌だし、何より底抜けに明るいよね…?だけどどうしてネガティブなんだろうってずっと気になってたんだけど…あっ答えたくなかったらスルーして良いんだけど…」
「藤坪、代わりに答えて差し上げなさい」
「えっ…?」
勿論コレは無茶振りだ、見ろ藤坪の困った顔
「えっと、柿本君はネガティブと言うより、全ての物事に初めから期待をしていないだけなんだと思う」
「藤坪??」
「期待をすればするほど物事が悪い方向になればショックが大きい、そのショックを軽減させる為の自己防衛の延長なんだと思う」
えー、待ってこの子やっぱ怖いわ
読心術?なんか魔法でも使ってるんじゃないか?
「え?藤坪ちゃんはこう言っているけど…そうなの?」
「はい、一言一句全てその通りです」
「そっか、中学から一緒だもんね、事情は知ってるか」
いえ、一度もそんな事話してません、ただコイツの読心術がエグいだけです
何で知ってるんだよ、と小声で藤坪の耳元で言おうと耳に近づく
「あっ…!もう!急に何するの…?」
慌てて耳元を隠された
耳がヨワヨワ系だったのか、ていうか変な声出すな
「柿本君、立場を利用して藤坪ちゃんにエッチな事しちゃダメだよ」
「してねえわ!」
全く、嫌な事言うなよな!
「じゃあ一旦みんなで柿本君のお得意先の自販機まで行こうか」
じゃあってなんだ五次元、自販機にお得意先とかないんだぞ
「一旦って、藤坪はどんどん家から遠くなるだけだぞ?」
「私は全然良いよ」
じゃあ好きにしろよ!
「なら決定、私は一旦バイクをおばあちゃんちに置いてくるから、先に行ってるね」
ヘルメットを抱え、赤だの白だの分からないバイクに跨る
身長高いからって何でも様になるわけじゃないなぁ、あんまり似合わないな、制服だからかシュールだ
「じゃあ、少し歩くか」
「うんっ!」
ビーッビビビビビ……
バイクってこんな音するんだな
五次元さんの見た目的に似合わねえ音とこの煙の匂い…
ヴィーーーン!!!
五次元が駆るバイクは激しい白煙と共に消えた
っていう速度でもないのだが…
「五次元ってバイク通学だったんだな、バイク好きなのかな?」
「あのバイク、お父さんが乗ってたやつなんだってさ、昔から興味はあったみたいだよ」
「へーそうなのか、バイクって高校生でも乗れるんだな〜」
自転車しか乗ったことない俺には到底分からない次元の話だ
勿論車の方が便利だろうが、でも足があるって良いな〜と思ってみたり
ていうかまた藤坪と2人きりか
藤坪にも俺のオアシス、あの自販機が知られてしまうのか
本来誰のものでもないが、ずっと愛用していた場所が開拓されていくのは少し切ない気持ちだ
「清純気取ってるくせに肉食獣…か、柿本君私のことそう思ってたんだね…」
ほら、いつかはツッコマれると思ったけど2人になればそりゃ、蒸し返されるって…
「いや、アレは極限状態で出た言葉だし、その、普段からそんな事は…」
「確かに、うん、その通りかもしれないね、欲しい気持ちが成長し過ぎたのかも」
なんかどっかで聞いた事あるフレーズだな
「でも、柿本君が良いって言うまで我慢するから」
「そ、そっか」
良かった〜メチャクチャ怒られるかと思ったぜ…
「でも私の家にはまた来てね?お母さんもシロ美も柿本君の事気に入ってるから」
藤坪家か…
口付けの記憶で塗り替えられてしまっている
俺はあの感覚は一生忘れないだろう
相手が友人だとしても、だ
「これだけ聞かせて欲しい…その、キス、初めてだった?」
「ああ?」
当たり前だろーが何聞いてんだコイツ
「初めてだった?」
「そうだよ…悪いか」
「そっか…ふふっ」
え?何笑ってんの?何が面白かったん?
恋愛系のゲームでもそうだ、キスイベントはヒロイン攻略後だ
まだ選んでもないキャラと強制キスイベントが起こるゲームなど、あればやってみたいものだ
だがそんなの皆無だ
なぜならゲームバランスが崩れるからな
その後の攻略に支障が出る
もっとも、その強制イベントの相手が攻略すべきヒロインなら願ったり叶ったりだ
そりゃ俺だって人間だ、藤坪を全く意識していない訳はない
もし何もなく、普通に過ごしていたら俺から好きになっていたかもしれない
ただその時にはもう攻略出来ないだろう、何故なら奴はモテるからである
男の1人や2人と付き合うなんて事は俺が自販機のボタンを押すくらい造作もない事だろう
だがこういう現状だ
さて、これからどうするべきか…
今はそうでも時間が経てば色々状況は変わるだろう
途中で遮られたが藤坪には俺よりも、ちゃんと良い出会いをして幸せになって欲しいとは思っているんだ