五次元火鞠1
五次元火鞠
苗字も名前もかなり珍しい自覚はある
どちらか片方だけなら耐えられたのに…と常日頃から思っている
中学3年の時点で身長172cm、女子にしてはかなりの高身長だと思う
大は小を兼ねるって言葉があるみたいだけど、それは身長に当てはまらない、断言します
別にそんなに良い事はないです、悪目立ちするだけだよ
「巨人」だの「デカ女」だの、小学5年生の時から急に身長が伸びた私からすれば聞き慣れたフレーズ
子供っていうのはどうしてあんなに無神経な言葉を投げかけるのだろうか、子供ながらに思っていた
どこにでも高身長の女子は存在しているけど、私の生まれ育った地域では珍しかったのかな
中学生になる頃に160を超えた
小学生の頃よりも良かったのは私よりも大きい生徒(男子)がいっぱいいた事だった
でも女子ってだけで悪目立ちはしたな
バスケ部、バレー部からの勧誘が凄まじかったが興味がないのでソフトテニス部に入部した
ソフトテニスにも高身長の利点がある
•サーブが入りやすい
•スマッシュが打ちやすい
•前衛最強説
(全て私調べ)
個人競技だと思っていたけどダブルスの方が主体らしい
要するに2対2の試合だね
私は長身を活かしてメキメキと力を付けた…
そんなのは今どうでもよくて!!
身長だよ身長!
困ったことに結構男子生徒からいやらしい目で見られるようになった
これは自意識過剰じゃなくて本当の話だから!
身長で悪目立ちするからだろうけど、知らない男子生徒からメチャクチャ声かけられた
ハッキリ言って、中学入学当初からモテていた!
無視か軽く受け流すくらいしか出来ないけど…
中学も私にとっては通過点でしかない、16歳の誕生日が待ち遠しかった
理由はバイクに乗りたいからでございます
私の父親は私が生まれる前からバイク狂いと言われるくらいにバイクが大好きだった
昔の写真を見てもほとんどバイクばかり
私は小さい頃から父親のバイクの後ろに乗っていた、洗車と整備を手伝ったり…
そりゃあ多少はバイク好きになっちゃうよ
乗るだけなら誰だって出来るよ、無免許ならね
でもそれは犯罪、好きなものに犯罪を絡めるなんて、愚の骨頂
私は16歳の誕生日で原付の免許を取ると決めた
原付は排気量が50cc以下のバイクのことだ
父のバイクの一つにNSR50というバイクがある
それが乗りたい!
幼少期に父に言われた
「火鞠が免許取れるようになったらコイツをあげよう」
と
そりゃあワクワクするもんだ
そのバイクは原付免許で乗れるのだ、そして免許自体はすぐ取れるときた、16歳になる日が待ち遠しくて仕方がなかった
生憎バイクに興味のある生徒は皆無だったのでこんな話は学校で出来なかった
それがかなりストレスだった
勉強は元々得意ではなかったのとバイクのことばかり考えているから学力はみるみる下がり、高校進学も危ういレベルまで行ってしまった
途中から完全に捻くれてしまった
コレは後から聞いた事なんだけど、ソフトテニスの強豪校からスポーツ推薦が来ていたらしい、でも私の学力と教師に対して反抗的な態度だった為学校から断ったそう
こんな事勝手にして良いの!?
他人を見る目も変わった
周りの人間は身長に惑わされて私自身を見ていない、虎の威を借る感じで皆関わっているんだな、と思った
動物の群れも大体ボスは体大きいからね、そういう心理なのだろう
誰が動物さ!
さて困ったのは進学先
両親からは「頼むから高校は卒業して欲しい、進学が決まらなかったらバイクの話は無し」
と言われてしまったもんだからかなり困った
私の学力で行けるような高校は…通いやすい距離の高校が2校あった
その内の1つはバイク通学禁止だったのでもう1つに絞られた
ここは…
祖母の家がある田舎町だった
ここだ、ここしかない
両親には「勉強を頑張って学力を上げるって選択肢はないのか…」と呆れられた
それはごめんなさい、親不孝な娘で…
結局中学生活は荒れ気味で終わりを迎えた
私は人間よりもどちらかと言えばバイクの方が興味があったので恋人は1人も出来なかったし興味もなかった
異性は空気とまで思っていた
だけど私の考えは入学早々に崩れた
色々な男子がいたがその中で一際目立つ存在、同じクラスの名前も知らない彼、彼はとても小さいのだ
私が虎だとすると彼は子猫だ、まるで子猫!朝可愛いじゃん!
廊下ですれ違った瞬間に不覚にも私のハートは射抜かれてしまった
可愛すぎる、迷子になった子猫のように不安そうに歩いていた、誰とも目を合わさずに…
なんだろうこの気持ち…母性本能がくすぐられるとはこの事なのだろうか…?
いや、待て、身長で色々決めつけられた私が低身長の彼のことを勝手に思っていいのだろうか?
私も偏った目で見てくる奴らと同じ轍を踏んでいる気がした
実際は見た目によらずクソ野郎なのかもしれない
いやいや、それも偏見か
教室にいる時は存在に気づかなかったのはかなりの痛手だ、気づいていれば早めに話しかけたのに
ちょっと、好きなものでも聞いてみようと席を立とうとしたが、彼の隣の席の女子が話しかけているではないですか!
なんだこの女、誰だこの女!愛想振り撒きやがって、コイツも彼狙いか
…しかもちょっと可愛いじゃん!
彼らの席は前の方、私はどちらかというと後ろの方なので様子がよく見える
…ていうか元々知り合いっぽいなぁ、妙に親しげに見えるような、あとこの女、絶対彼のこと好きじゃん、断言する、惚れてる顔してるし
でも彼の方は別に…って感じ
これは私がお近づきになるチャンスなのでは…?
席を立ち割って入ろうとしたが
「オイ」
私の斜め右前に座ってる男子生徒がゆらーっと立ち上がった…髪はツンツン、ピアス、香水プンプン、制服のボタン全開という典型的なアレな生徒に行手を阻まれた
今ポケットに手を突っ込む必要はあるのか…?
「…何?そこどいてくんない?」
「お前、さっきから俺にガンくれてただろ?何?喧嘩売っちゃってんの?」
いやいや、お前を見てたんじゃなくて、別の方を凝視してたんだ!いや、この手の人間のインネンなんてそういうものか
え?女相手にもそんな事するの…?
「アンタの事なんか見てないけど、どいて」
「なんだオメェ、服装乱れてんじゃん、先生に怒られんだろーが」
「……はぁ?」
「ブレザーのボタンも全開でぇ、それにその…ス、スカート短えだろボケ!先生にチクんぞ!?」
「…アンタに言われたくないんだけど」
なんだコイツ、変すぎるな、無視しよ無視
「アンタじゃねえよ、小林だよ覚えとけ…」
そう言ってヤンキーはダルそうに自席に座った、ダル絡みってやつ…?
全く、前の方に行くだけなのに
「五次元さん…」
また男子に呼び止められた、今度は後ろの方
「何!?」
足止めを食らったためついつい荒い返事をしてしまったが振り向くと眼鏡をかけた男子生徒だった
すごいびっくりした顔だ
コイツはヤンキーじゃないだろうから少し気の毒になった
「あ、ごめんね、何かな?」
「コレ、落としたよ〜」
眼鏡の手には私の家の鍵があった、やば、落としちゃったんだ…
「ありがとう!ごめんね〜でもなんで私の名前知ってるの?」
「いや、俺五次元さんと同じ中学だったんだけど…」
あれ…?やば、やっちゃった…全然覚えてない…
「……ごめん、なんて名前だっけ…?」
「宮下だけど、覚えてないっぽいね」
宮下宮下、同じ中学の宮下…私は漠然と過ごした中学時代の曖昧な記憶のフォルダーを整理した
「あ!!宮下君って小説か何かで賞取った人じゃなかったっけ?なんか一時期有名人だった…」
「そうそう、有名人ってほどでもないけどね〜」
「…でもその宮下君ってもっと太ってなかった…?」
「太ってた、痩せたんだよ〜」
そう、私の薄い記憶だと当時の彼はかなりの巨漢だったはず、今ではその痕跡はまるでない
って、過去の話は今は良いんだ、私は小さき彼の元に行かなければ…
「柿本君の所へ行くの?」
「え?柿本君?」
宮下は知らない名前を口に出した
「五次元さん、ずっとそっちの方見てたでしょ?あの小さい男子が柿本君」
「…」
看破されてた
「…あまり大きい声じゃ言えないけど、柿本君の隣の藤坪さん、柿本君のこと好きっぽいよ…」
うーん、それは知ってる、分かりやすいもん
「俺個人的に彼らを見守りてえなって気持ちがあってさ〜出来ればあんま茶々入れんで欲しい」
「一応聞くけど、何で?」
「いやぁ、入学早々に藤坪さんに告白したら好きな人がいるっちゅって、断られちゃったんだよね〜ちょっと気になって様子見てみたらすぐ分かったんだよ、隣の席の柿本君じゃんって、どうせフラれたならちょっと様子見てみたいなって」
照れくさそうに頭を掻く宮下
「…何より、何故宮下君は入学早々告白したの…?」
「だって、藤坪さん可愛いじゃんね〜」
極めて単純明快な答えだった
でも見守る…か、そんな義理はないけどそれも一理あったりするんだよなぁ…
どうしよう、まあでも、仮に藤坪って人が玉砕したらそれはそれで…と思いつつ今日のところは引き下がる事にした、少しだけモヤモヤはするけどね
機会があれば行動しよう




