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藤坪と五次元

田舎とはいえこの場所も車通りがあるのだが…もう既に何台か通った気がする


というか、想像の6倍は良い匂いだ…!

思ってたよりこう、弾き返すような弾力ではないのだが、この包み込まれる感じがなんとも

我、胸顔面メチャクチャ堪能せり


「柿本君は抱きついてくれないのかな?」


咄嗟のことであるし、勿論俺の両手はダラーと下がったままだ


「ま、良いや、はい、終了〜」


俺の後頭部からパッと手が離され、俺は自由の身になった


恥ずかしさと極度の緊張で俺の顔が沸騰したように温度が上がってくるのがわかった


「ご、五次元さん…急に何を…」


ニコちゃん顔の五次元さんはどんな発言をするのか


「嬉しくってついついやっちゃった、柿本君お人形みたいで可愛いし」


俺はマスコットか、まあ、確かに俺も制御したとはいえ、一時のテンションに身を任せそうになったさ、制御したけどさ!


「でも…男の子とハグしたのは初めてだったかなぁ、なんか今頃恥ずかしくなっちゃった、ごめんね!」


両手で顔を隠しながら五次元さんはそう言った。


仕方ないな、今回だけだぞ!


「ごめんね、帰る所だったんだよね、また明日、学校でね!」


「あ…」


俺が返事をするのも待たずに五次元さんは走って行ってしまった


「やべえなぁ…」


手足が震えている、顔も痙攣しているのか目の下がピクピクと動いているようだ


こんな事ってあるんだな


そう遠くない帰路を先ほどの出来事を何度も何度も思い出しながら歩いた


帰宅し、就寝するまでずっと思い出していた






そして翌日登校してもやはり昨日の感覚が消えなかった


そりゃあ昨日は良い思いをしたさ、良い事ばっかさ、男として!でもなんとも言えないモヤモヤが…

自分が卑屈なのが原因なのは分かりきってはいるのだが、いつもより景色が薄く見えた

不相応な経験をした、そんなところだ


五次元さんはいつもと変わらず教室でみんなとワイワイやっているようだ、聞いた感じドラマやスマホの話をしていて昨日の話はしていないようだ


「柿本君大丈夫…?」


よほど俺は深刻そうな顔をしていたのか、同じく深刻そうな表情を浮かべた右隣の席の藤坪が声をかけてきた


藤坪は中学が同じで何回か話をした程度、所謂ゆるふわ系女子だ、カーストは上な事は間違いないが、かなり交友関係が広い印象、噂だとそこそこモテるっぽい、確かに顔は可愛いけどな、アイツは中学から良い奴だった

今もこうやって心配してくれてさ

まあ、どの道俺には不釣り合いな人間だな


「大丈夫だよ…それより例のアレ、持ってきた?俺は準備できているぞ」


例のアレとは入学当初から開始している俺と藤坪の秘密の儀式だ


「勿論持ってきたよ…じゃあ柿本君のから見せて」


「何でよ!藤坪から見せるのが筋でしょうが、ちょっとそういうエゴは良くないぞ、理不尽だ」


「私がいつエゴ通したの…分かったよ、見せるからね!柿本君も出し惜しみしないでちゃんと見せてね!」


藤坪はカバンに手を入れる

さあ、今回はどんなモノを見せてくれるのか、期待と少しの不安が折り混じった複雑な気分だ


さあ、藤坪が手に取ったモノに刮目を…!


「おお!!」


コレは…

藤坪が持っているものは何を隠そう、俺がこの前持ってくるように頼んでおいた藤坪手作りのレジンキーホルダーなのである


赤い、だが透き通りつつも深い色、それでいて黒々とした不思議な色の球体だ

藤坪は母親がそういう手芸物を作るのが趣味らしく、本人もまた母に次ぐ手芸家なのである


「スゲエなコレ…君は天才だな…俺が言った通りの色味だぞコレは…」


コレは世辞なんかじゃない、本物だ。ウン千円、いや、下手したら本物の石に見えるかも、そんな石ないと思うが


「そんなに褒めても何も出ないよ〜、はい、約束通りあげるし」


「やった!ありがとう、早速カバンにつけるわ!」


俺の学校用のカバンには藤坪作のレジンキーホルダーシリーズが既に3つも付いているのだ

その内1つは藤坪母作だ


「喜んでもらえて良かった〜じゃあ柿本君のもそろそろ見せてもらおうかな」


俺のはと言うと、コピー用紙に描いた4コマ漫画だ


別に絵は上手ではない、画力的にはただの落書き程度だ


「わぁー、描いてきてくれたんだ〜読ませて読ませて〜」


藤坪曰く、俺の4コマがツボらしい


そう、俺と藤坪はレジンキーホルダーと4コマ漫画の交換会を何度か開催しているのだ




「やっぱり楽しんでるじゃん!!!!」


「わっ!!!!」


いきなり怒り顔の美人がドアップになった


五次元さんだ


昨日の今日でやめてくれ、君はさっきまで何人かと喋っていたではないか、元の場所に戻ってくれ

気まずいのよ。


「え…何が…?」


楽しんでるとは?


「毎日藤坪ちゃんと仲良く喋ってるし、友達出来ないとか言って、嘘じゃん!なんで嘘つくの!?私毎日見てるんだからね!」


ちょっと…なんかキレてないですかね…?怖いんですけど


「藤坪ちゃんさ、柿本君の事どう思ってるの?」


何余計な質問してんの?やめてくれないかなそう言うの、藤坪は俺の4コマ読んでるんだよ

あと俺が気まずくなるから嫌なんだよ


「えっ…あの…どうって…その…」


ほらぁ、どうも思ってないけど、そういうの言いづらいの分からんのか?ここは教室だし、周りの目もあるだろ?


「…じゃあ質問変えるね、2人はどういう関係なの?」


関係って…聞きたくもないが、この際ハッキリ言ってやれ

コイツとは他人ですって、柿本は私の人生には要らない人ですって


「えっと…友達、だよ」


あれ?


「ほらやっぱり、というか前々から分かってたけどさ、友達いるじゃん!しかも可愛い女の子の!」


友達…友達?


「え…俺ら友達…なの?」


「えっ、違うの…?」


なんてビックリした顔してるんだ君は、こっちの方がビックリなんだけど


「だってほら、クラスメートと言うか、顔馴染みって感じじゃない?友達とまでは…流石に…」


「え…私ずっと友達だと思ってたのに…なんか、嫌だな、なんか…今日だって、楽しみにしてたのに…」


藤坪ーー!!!

途中で明らかに声が潤んだのでギョッとして藤坪を見ると両目から大粒の涙が我先にと、次々に溢れ出てきた


「アッ…」


全身の血の気が引くのがハッキリと分かった、恐らく体温は2℃ほど下がったであろうか

教室も少しざわめいている


「ちょっ…藤坪、違う、違う!」


「あーあ、柿本君のエゴが藤坪ちゃんを泣かせたんだよ…どうするの?ねえ?どうするの?」


俺が悪い、悪いのは分かってるけどそもそもお前が余計な質問したからこうなったんだろうが


「いや、その…えっ?」


五次元さんは俺の耳元で確かに


「藤坪ちゃんに謝らないとチューするぞ

分かった?」


と言った、これはハッキリと聞き取れた


「ご、ごめん藤坪、俺ちょっと卑屈になり過ぎてたな、俺達友達だよな」


「うん…でも私、ずっと友達だと思ってたからぁ…」


泣くな藤坪!!俺のせいだよ、俺が全部悪いけど気まず過ぎる

一目散に教室から去りたい!


「オイオイオイ…どうしたどうした、藤坪泣いてんじゃんか?」


うわ、コイツは小林風雅

圧倒的カースト上位、ヤンチャ系なのに分け隔てなく底抜けに良い奴だ

顔も良いし、バスケ部だかでメチャクチャ運動神経良いらしいわ

まあ、そりゃモテるわな


五次元さんが舌打ちをした

え?舌打ち?

「何…?小林、そういう時だけ来るのやめてくんない?関係ないでしょ」


「関係ないって…明らかに藤坪泣いてんだろ?五次元が何か言ったんじゃねえの?」


うーん、小林君、元はと言えばそうなんだけど、泣かせたのは俺なんだ…

本当の事を俺から伝えるべきか

もう既に俺のクラスでの立場がヤバそうだけど


「いや、あの、小林、違うんだ、それは俺が全部悪くて…」


「何だよ、お前ら仲良いじゃん、五次元が割り込んできてから藤坪泣いてたじゃん、どういう事があったか言えよ」


仲良いって思われていたんだな、だったら尚更申し訳ない

ていうか小林君、香水臭いし怖いんですけど…


「つーかさ、五次元お前、柿本にも詰めてなかったか?柿本いじめてんなら許さねえぞ?」


「はあ?なんでそうなんの?いじめてないんだけど、外野が余計な口挟まないでくれる?」


うわうわ、龍虎対決、頂上決戦

カースト上位同士が目の前で睨み合い、言い合いしてる…

更にクラス中のざわめきが大きくなる


「あのさ…五次元さんは悪くないよ、私が勝手に泣いちゃっただけだから、小林君、大丈夫だよ」


藤坪…


「あの、小林、コレは俺が色々勘違いをしていただけだから…五次元さんも…2人とも、なんかごめん…俺のせいで迷惑かけて…」


「別に迷惑なんかじゃねえよ、何?じゃあトラブルない系で良いの?」


うーん、結果的にはトラブルなんだけど、トラブルない系で良いかな


「当たり前じゃん、藤坪ちゃんも柿本君も友達だもん」


え?俺も友達なの?俺もそうなの?


「なーんだ、柿本も藤坪もなんかあったら俺に言って来いよ、すぐ行っちゃうぜ、五次元もあんま色々やんなよ」


そう言い残し小林は元の場所(元々どこにいたかよくわからないが)に戻って行った


「何アイツ、ムカつく!」


五次元さんは小林の背中に中指を立てた

中指立てるな


「ところで藤坪ちゃんが持ってる紙は何?漫画?」


「うん、コレ柿本君が描いたんだよ、ねえ柿本君火鞠ちゃんにも見せて良いかな?」


えー、ちょっと嫌だ!

とは思ったものの、絶賛反省中の俺は何でも言う事聞くさ

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