雷神五次元、風神藤坪
藤坪、五次元が不適な笑みでジリジリとこちらに近づいてくる
俺は今更立てずにそのまま動けずにいる
別にやましい事は何一つないのだが
「柿本君は先輩をナンパしちゃうくらいには勇気あるんだね」
「おい、五次元、俺はナンパなんてしてないぞ!」
「意外と社交的なんだよね?お母さんにもベラベラ喋りかけてたもんね、私は女として見られていないって事なのかな?先輩に色目使ってたもんね」
首が飛ぶほどに左右に振る
なぜ先輩から誘ったという考察にならないんだ!
「違う!違う!本当に偶然自販機で会っただけ!」
「じゃあなんでそんなに至近距離に座ってるの?」
「それは先輩が…先輩…!なんか言ってやってくださいよ…!」
先輩を見ると目を伏せてブルブルと震えている
先輩!!!!!
「待て、待て!仮に、仮に先輩と何かあってもお前らに責められる筋合いはないぞ!だが何もなかった!これが真実だ!」
こんなので納得する訳はないのだが、言わないよりは、という思考が働いたのである
「…色々聞きたい事はあるけど、推しの成長は喜ぶべきではあるよね…」
五次元さん?
「確かに、正直嫉妬に狂いそうだけど、成長を見守るのもファンの務めなのかも…」
藤坪さん?なんか聞き分け良くない?
「もう活動時間終わっちゃうし、最後に色々案を練らないと、皆で戻りましょ」
結局五次元の号令で全員が教室に戻り、終わりの時間まで各々が作業に取り掛かったのだった
帰り際に
「せっかく柿本君が入部したけど、もうすぐ大会だから今以上に創作部には顔出せなくなるなぁ…」
みたいな事を五次元が言ってた
大会の方が大事だろ、運動部との兼部とか想像するだけで慌ただしい
「柿本君にまつわる作品、ちゃんと作ってくるから楽しみにしててね!」
みたいな事も言っていた
そう言えばそんな事言ったな、俺が
別に今はどうでも良い気がして、それより大会に向けて頑張れよ的な事は伝えた
「じゃ、やる事があるから先に帰るね!」と五次元はバイクをぶっ飛ばしていった
藤坪は
「柿本君の好きな色は?」
とか
「好きなタイプは?」
とか質問ばっかしてきたから適当に答えておいた
「じゃあ作品の参考にするね!帰ったら連絡するから!」と足早に家の方向へ走って行った
豊田先輩は
「…電車の時間が、あるので、これで失礼します…」
と一番先に駅の方へ向かって行った
俺はいつもの自販機に1人
今日も色々あったな、夏のジメっとして明るいのか暗いのか良くわからない時間帯、何よりも虫の音がやかましいこの地で俺はコーン茶をすする
「やっぱ美味えよ…」
このひと時だけはドラマや漫画アニメの主人公の気持ちで黄昏れるのさ
もっとも、俺に主人公要素など皆無だが
何かを背負ったわけでもなく、特別な能力もない、美少女との出会いとハーレム生活も…
あるじゃないか!
でも出会い方が変だ、ハーレムっていうか、アイツら俺で遊んでるだけにか思えない!何が推しだよ、どうせ飽きたら次の推しが出て来るんだろ
いやいや、ヤキモチとかじゃない、ただその方が自然だからだ
〜♪〜
「お?」
豊田先輩からメッセージだ
正直言って連絡先交換してすぐの相手から連絡来るとテンション上がる!!!!
藤坪の時も五次元の時も上がったよ、男の子だもん!
「入部おめでとー、あとさっきはすまんやで…
あの2人の気迫に何も出来んかったんや…許して欲しいやで…
色々ぶっちゃけたら少し気が楽になった、柿本は聞き上手だな!
いつか文章じゃなくて直接色々話したいやで…
また明日も来てくれるな?待ってるやで」
変な文章!!
本当この人は良く言えばギャップがあってユーモア満載だけど悪く言えば変人だな!
いくらコミュ障っつっても俺でさえ必要最低限の会話は出来るぞ…実物と文章の奇天烈具合が変なのよ!
アレはコミュ障じゃない、本当に別の何かだ!
最初こそ好みだったけど、文章で台無しだ!
今だに別の人間なんじゃないかと思っている
〜♪〜
「自販機にいる?」
今度は五次元からメッセージだ
そういえばこの辺りだったっけ、奴の祖母の家があるの、そこでたまに寝泊まりしてるんだっけな
ここで俺が「いるよ」と答えたら間違いなく奴はここへやって来る
もう帰ろうかな…
残りのコーン茶を一気に流し込み、空を備え付けのゴミ箱に破棄する
あと10分はゆっくりしていきたかったが、仕方あるまい
自販機を名残惜しく見つめていると後方から人の気配が…
「やっぱりいた!」
うわぁ…超絶五次元の声だ、100%五次元だ
何も聞こえていなかった体で歩みを進める
「コラ!柿本君、ステイ!ステイ!」
俺は犬か
「ここで会うのって久しぶりだよね、もうちょっと駄弁ろうよ!」
お前が勝手に近づいてきたんだろーが
「藤坪ちゃんとキスしたんだって?」
「!!!」
「その反応…やっぱりそうなんだ、とりあえずこっちに来てよ」
まさかの不意打ちになす術もなく、進んだ分だけ戻った
あまり思い出したくない事なんだけど…藤坪のやつ、ベラベラと喋ったのか…そりゃ何人かと恋愛経験があるような女だ、キスの一つや二つ取るに足らないって事か
「元々柿本君がややこしい事言ったんでしょ?」
言った、藤坪の家の猫、シロ美ちゃんにチューさせてくれ、と伝えたつもりだったんだ
伝え方が悪かった、抜けていた、でも行動した藤坪も悪いんだがな
「…あれは俺が悪いんだ…」
「別に良い悪いの話はしてないよ、ただそれについてどう思ったのかな?って」
どう思った…?どう思ったって…
「混乱した、急だもん、正直トラウマ並みにビビった、今でもね…」
いつもの藤坪が藤坪じゃない、他人の知らない部分が見えるのってこんなに怖いのかって思ったさ
「まあ、初めてだったんでしょ?そうなるよね…前々から柿本君の好き好き話は聞いてたんだけど、キスの話聞いた時はちょっとビックリした、藤坪ちゃんってそういうことする人だったんだ…ってさ」
俺もそう思ったさ、頭ん中グッチャグチャだよ
藤坪って一体なんなんだって思った
「でも…アイツは俺のこと友達って言ってくれたし、切り離せない部分もある…」
「付き合ってもないし、柿本君の気持ちも聞いてない状態だよね、友達だったらそんな事しなくない?」
まさにそれだ
「でも私が余計な一言言わなきゃ藤坪ちゃんとはしばらく平穏だったのかもしれない、なんて思ったりはしてるよ」
「いや、それは…」
それは違う、五次元がいなかったら俺は藤坪の事をずっと他人だと思っていたのかもしれん
とも言い切れない部分はあるんだよな…
「きっかけは私かもしれないけど行動したのは藤坪ちゃん自身だからね、ゴメン!柿本君!」
五次元は手を合わせ拝むように謝罪した、拝むな拝むな
「いや、別に五次元が謝るような事じゃないだろ…」
そもそも俺が拗らせているからいけない、そう、それだけだ
「静観していた私だって立派な悪者だよ、でも藤坪ちゃんの気持ちを尊重したいって思ってたんだ…」
静観どころか一緒にファンごっこしてるじゃん
「柿本君はどう思っているか知らないけど、前にここで初めて話をした時、あの時から私は柿本君を守りたいって本能が出ちゃったのかも、お話出来て嬉しかったよ」
「…うん、とにかく俺は誰も恨んじゃいないから…良いよ」
「だからさ…」
五次元は両手を広げてこちらに近寄ってくる
コレは…アレか?
「…何?ハグ…?」
「だよ、色々詰め込み過ぎてる柿本君の疲れを取ってあげる」
どうしてそうなる?
「私からは行かないよ、柿本君が来るまでこのままでいるから」
じゃあそのまま帰ってやろうと思った
吸い寄せられるように自分から向かっていくのにそう時間はかからなかった




