かための麺が好き
しいな ここみ 様主催『麺類短編料理企画』
辻堂安古市・幻邏主催『クリームソーダ後遺症祭り』参加作品です。
ぼくは、かための麺が好きだ。
もちろん、カップ麺や袋ラーメン、パスタだってなんだって。お店で食べる麺類もしかり。
醤油味の有名な『カップヌー』はメーカー規定の時間が3分だが、1分半から2分くらいで食べ始める。
有名カップうどん『レッドフォックス』なんて、5分というロングロングな待ち時間だけど、3分経ったら食べ始めだ。
ぼくがせっかちというわけじゃ無いんだ。
だって、レッドフォックスは3分待てるのだ。カップヌーの規定時間だ。その時間が待てないってわけじゃ無い。
最初に言ったように、かたい麺が好きなだけさ。
あ、かたい麺が好きと言っても、乾麺そのままは勘弁して下さい。
カップ麺を2分くらい待ったら、フタを開けて啜る!
ちょっぴり口の中に残る歯応えを感じ、コレコレ! といつも嬉しくなる。この食べ方こそぼくの至高。
なぜ、かたいのが好きかと思い返すと、それは、実家の親たちが、やわやわ派のせいだと思っている。
ご飯だってベシャベシャだし、パスタなんて規定の時間+2分だ。ブヨブヨじゃないか。
麺だけじゃなくて、いろんなものがやわやわであった。
どれだけかためのやつを食べたいと言っても、聞き届けられる事はない。アルデンテ? 生煮えでしょ? と寝言を吐かす母親。
そして、母の料理は鬼マズではなく、ちょいマズ。
食べられなくはないけど、進んで好んで食べる気は起きない微妙な味だった。
市販のいろんな物に頼ればいいのに、市販品の美味しさを認めず、対抗してというか意地になって色々ちょいマズを作る日々。
グルタミン酸ナトリウムな『味のモットー』なんて、悪だ!! といつも唾を飛ばしていたくせに、喫茶店で飲むクリームソーダが好きだった。多分あれには母親の嫌うサッカリンが入っているはずなんだけど……。
まぁ、そんなマイルールな母親の前で、カップ麺を2分しか待たず開けようものなら、規定の時間も待てないせっかち・食いしん坊扱いをした上で、行儀が悪いと舌打ちをもらう。舌打ちのが行儀悪いってのに。
そんな親元から出て、ぼくはいま独り暮らし。
昨日の夕飯はアルデンテのパスタ。市販のソースをかけるだけの手抜きではあるものの、アルデンテ、サイコー!!
カップヌーを2分で食べ始めても、文句を言われることもなく、レッドフォックスのチョイ歯応えあるうどんだって、お揚げが柔らかくなるのを待ちながら、いい食感で食べられる。
嗚呼幸せ。
SNSでは10分『だん兵衛』だの、20分レッドフォックスだの、ぼくから見たら邪道な食べ方をする人もいるけど、好きなら構わない。
そういえば、君は26分レッドフォックスにこだわっていたね。
うん、好きなんだね。美味しく食べられる方法見つかってよかったね。
と、ぼくは声をかけるけれど、なんで君は顔を顰めるんだ……。
お互い好きな食べ方でいいじゃないか。君が美味しく食べているのを見て、ぼくは幸せなのに。
君は自分と同じ食べ方で、同じ幸せを味わえって言う。でないと共感できないと、目を釣り上げた。
結局、わかりあえなかった。ごめんね。
ぼくが23分早く食べることを怒るくせに、23分早くお湯を入れない君に、自分は悪くないと言われると、ぼくは残念な気持ちになる。
レッドフォックスでぼくらの縁は切れた。
悲しいけど、仕方ない。
そんなことを思い出しながら、ぼくはケトルの電源を入れた。
今日は『ル王』を食べよう。カップヌーよりちょっとお高いプチ贅沢品。
お湯を入れて4分待つ。規定は5分だ。
――♪♪♪
電話が鳴る
表示は……げっ、会社だ!!
3分半くらいで、電話を終わらせるつもりで、ぼくは通話マークをタップした。