その吐息で……目覚める…ル?
それは、夏の終わりにいきなりやってきた。
「な、な、な、なんでよぉぉーーー!!」
幼馴染が、大学の課題が終わらないからと、クーラーのきいた俺の部屋で宿題をやっていた時の話だ。
いや、コイツは宿題なんて、そもそも終わらせるつもりもなく俺の部屋でゴロゴロとしていたあげく、スマホを見ながら絶叫した。
「なんだ?課題は終わったのか?」
「見て!見て、事件!!」
彼女のいう事件とは、だいたい刑事事件でも、民事事件でもない。
課題に飽きた幼馴染は、スマホで推しの日記を眺めていたんだろう。どうせいつもの例の推しと同じアイスが食べたいのやつだ。
差し出されたスマホの画面には、推しが新作のアイスを食べていた。
「ん?それなら、買ってあるから持って来るわ」
「え、あ、ちょっと聞きなさいよ」
俺の後ろで何か声がしたていたのだが、とりあえず俺は一階の冷凍庫から、日本で高いと有名なアイスを手に取ると、アイス用のスプーンと一緒に自分の部屋に戻ってきた。
「ほれ」
「ちーがうーの!!」
お目当てのアイスを目の前にしたのに、何かに憤慨しておられる。
「……………??」
「私!!豆乳が食べれないの!!」
鍋が大好きな冬生まれの貴女は、ゴマ豆乳鍋食べてましたよね??とか言おうものなら、グーパンチが飛んできそうな顔を向けられている。
「なんか、苦手なの…………苦い…じゃん」
いきなり子どもみたいな事、言い出すんですね。
「うーん…だから、バナナとチョコで隠してあるんじゃね?」
と、もっともらしい事を言っているのに、どうやら俺の言う事を信じていないような目をしている。
「せっかくお前のために買ってきたのに、食べちゃうぞー?」
「うーーー……ぁぁ」
日本で高いアイスが、憎い人間にどんどん食べられていくーとか思ってそう。
「そこまで、豆乳って感じじゃないから食べれそうな気もするけど?」
俺がアイスの感想を言っても、まだ眉を曲げている。へそ曲がりな女め。
「ほら」
と、あと残り二口くらいのところで相手に差し出す。
「うーん…食べたくない。けど、推しがオススメしてるし、どうにか食べたことには出来ないのかな………」
何をむちゃくちゃ言い出しやがった。今回は、食べれなくても文句は言われなそうだったので、全て食べてしまった。食べなくても、食べたような気持ちにさせるには……………
「あ、良いこと思いついた」
「なによぉ」
「いいから、いいから目をつぶって?」
俺は、幼馴染の前に立つと相手の目が閉じるのを待って、両肩を掴んだ。
少しだけ顔を幼馴染のほうに近づける。
「ふぅ……………」
思いっきり幼馴染の顔に向かって息を吹きかけた。その瞬間に、意味がわかったのか、目を開けた幼馴染は、目を輝かせていた。
「バナナ!!!!ね、もっかいやってーねぇねぇ」
身長が低い幼馴染が俺の洋服を掴むと、背伸びしながら鼻を近づけてくる。
「ちょ………………」
もう、少しでも自分の顔を前に出したらキス出来てしまいそうだ。
「ち、近いって!」
俺は、相手の顔を左手で押し返すと、食べ終わったアイスのカップを相手の鼻に押し付けた。
「わ!香りは確かに美味しそうなのになぁ」
幼馴染は、名残惜しそうにカップを眺めている。
「はぁ……………暑」
俺は、自分だけがアイスを食べて涼しくなったはずなのに、顔を拭った。
俺達の関係は一生変わることがないんだろうか?俺は、柄にもない事を質問した。
「お前は、俺に彼女とか出来たら…どうする?」
「仲良くする!!」
悩むこともなく即答された。
「なんだよ、それ」
自分が望んだ答えでも、想像していた答えでもなくて呆れてしまった。
「だって、いま恋人が出来たら、いままで通りではいられなくなるかもって言おうとしたでしょ」
そんなつもりはないが、確かにそう言われてみると、事実上そういうことにはなるかもしれない。
「う、うーん。でも、俺達の関係は変わらないだろ」
「………変わるよ。どんどん大切な人が1番になっていくの。そして、大切な人との間に出来た子供だって大切になっていくでしょ?だから、いままで通りになんてならないの」
いつになくナーバスな顔にさせてしまった。
「お前は女子なのに推し活ばっかで結婚とか考えないのかよ?」
「うん…………推し活は推し活だから。推しと結婚出来るかもなんて考えてないし、それに結婚は10年前にもう諦めてるから……」
10年前というのは、幼馴染が家族と一緒に俺の家の隣に引っ越してきた頃の事だろうか。
それって、もしかして…俺の事を好きだった時があったりしたってこと???
「お前にとって俺って、なに??」
「私の大好きな人の大切な人だよ」
「………………………ん?」
それは、いったいどういう事だよ。
いきなり真夏のホラーぶち込んでくんじゃねぇよ…