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第十六話

 風間さえも打ち負かした将吾の大躍進は、アカデミー中に響き渡った。


 特別対局で格上の生徒が格下の生徒に負けることなど本来はあり得ない。

 それが四天王の人間ならなおさらだ。



 しかし貼り出された棋譜を見て、風間の評価は下がるどころか上がり続けた。


「こんな棋譜作れるの、風間さんくらいなもんだよな」

「初めて見たよ、こんな流れ」

「でもこれで逆転する将吾ってやつもすごいよな」


 結局、風間はすごいがそれに勝った将吾はもっとすごいとなった。



     ※



「まさか君が負けるとはな」


 生徒会室では火野が詰め将棋をしながらうなだれる風間に声をかけていた。


「それほどなのか? 高倉将吾という男は」


 風間は青い顔をしながら火野に言った。


「あいつは……人間じゃねえ。完璧だと思い込んでいたオレの戦略を最初っから狙ってたうえに、さらにその上を行きやがった」

「君が想定していた将棋を指しながら、君が想定していなかった手を使う、か。確かに普通じゃないな」

「あんなに圧倒的な敗北感はあんたとやった時くらいだ」

「君がそこまで言うなら、そうなんだろう。しかし私とやった時は、まだお互い入学したての頃だ。今なら互角だよ」

「ふん、謙遜しやがって。アカデミー内じゃオレのほうが強いって噂もあるらしいが、どう考えてもお前の方が上だ。棋神の生まれ変わりのくせに」

「そう言われてるだけだ。棋神の棋譜は現存しないから、本当に強かったかも疑問だしな」

「お前なら棋神を超えられるさ」


 風間はそう言って立ち上がった。


「とりあえずオレは一から鍛え直す。日本中の将棋道場を巡って、心身ともに鍛えるつもりだ」

「ここを去るのか?」

「休学ってことにしてもらった。将棋道場なら年齢関係なく強いヤツが集まるからな」

「そうか。君の性格なら、そっちのほうが合ってるかもしれない」

「生徒会にはオレの代わりに将吾を入れてやれ。あいつは間違いなく、四天王レベルだ」

「それは私自身が対局してみて判断しよう」


 火野は笑って見せた。

 彼が笑うところを、風間は久しぶりに見た気がした。



     ※



「放課後、生徒会室へ来られたし」


 将吾のもとにそんな手紙が来たのは、彼が風間を打ち負かした一週間後だった。

 差出人は生徒会長となっている。

 将吾の快進撃は、ついに生徒会長をも動かしたのである。


 しかし当の本人にはその自覚がない。

 生徒会室への急な呼び出しにも冷静だった。

 そのためか、将吾に生徒会長から呼び出しがかかっていることは誰一人として知らなかった。



 将吾が生徒会室を訪れたのは、夕暮れ時だった。

 薄暗い室内で物静かな青年が一人、将棋盤を乗せたテーブルの前に座っている。

 それが生徒会長であると将吾は瞬時に悟った。

 盤の前に座る彼のオーラが、今まで対局したアカデミーの生徒たちの比ではなかったからだ。

 例えるなら前世で対局した偉人たちのような雰囲気を醸し出している。


 将吾は生徒会長・火野の目の前に座ると、静かに笑った。


「久しぶりに緊張感のある将棋になりそうだ」


 対する火野も将吾の顔を見るなり武者震いした。

 ギュッと身体を縮こませ、不敵に笑う。


「初めて全力が出せそうな相手が来たな」


 それは歓喜に近かった。

 アカデミー内では向かうところ敵なしだった火野にとって、初めて全力で挑める相手が現れたのだ。

 嬉しさで胸が張り裂けそうだった。


(それじゃあ)

(やるか)


 二人に会話はいらなかった。

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