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第十四話

 リーグ戦で優勝したことにより、将吾の昇級が決まった。

 といっても、DクラスからCクラスに上がるだけで、大きな違いはない。

 将吾以外にも、成績優秀者9名がCクラスへと上がる。

 逆にCクラスの下位10名がDクラスへと転落する仕組みだ。


 それだけ、アカデミーの競争率は激しかった。




 そして、各クラスのリーグ優勝者には昇級以外にも特賞がある。

 それが特別対局である。

 組み合わせはまちまちだが、生徒会が選んだ上位クラスの成績優秀者と対局ができる。

 基本的にはDクラスにはCクラスの成績優秀者を、CクラスにはBクラスの成績優秀者をあてがわれる。

 Aクラスとなると、ひとつ上の学年と対局ができる夢のような賞だ。



 しかし実際は対局相手は誰を選んでもいいことになっている。

 生徒会が決める人選にルールはない。

 だが、いつもの慣習で(というよりも選ぶのが面倒なので)ひとつ上のクラスの上位者があてがわれることが多い。


 今回もそうだろうと誰もが思っていた矢先。


 アカデミーの掲示板に貼られていた特別対局の組み合わせに生徒たちは絶句した。




 1年Dクラス優勝者:高倉将吾 × 3年Aクラス2位:風間かざま龍兵りゅうへい




 多くの優勝者たちがひとつ上のクラスと対局する中、将吾だけはなぜか四天王の一人風間があてがわれていたのだ。


「ウソだろ?」

「Dクラスの優勝者があの四天王と?」

「でも高倉将吾って、土井さんを負かしたって話だよな?」

「生徒会が本気出して潰しにきてるってことか」


 そこかしこで憶測が飛び交う。

 しかし真相などわかるはずもなく、誰もが二人の対局を心待ちにした。



     ※



「あの……、大丈夫ですか?」


 朝日が心配そうな顔で将吾の顔をのぞき込む。

 その日も将吾は朝日とフリー対局をしていた。

 ここ最近、彼女は毎日のように将吾の前に姿を現わし、対局を迫っていた。


 めんどくさいという気持ちはない。


 彼女の将棋はとてもまっすぐで、生き生きとした駒の動かし方だった。

 そのためか将吾も彼女との将棋はリーグ戦の時とは違った高揚感があり、とても楽しかった。


「大丈夫とは?」


 駒を動かしながら将吾が尋ねる。


「だって、特別対局の相手があの風間さんですよ? アカデミー史上、生徒会長の火野さんと並んで最強と言われてる人です。直接対局したことはないそうですけど、生徒会長の火野さんよりも強いという噂もあるくらいです」


 朝日はそう言って将吾が動かした飛車をもぎ取った。

 大駒を取られながらも将吾の表情は変わらない。


「相手が誰であれ、自分の将棋を指すだけだ」


 将吾はそう言って、角頭に香車を置いた。

 瞬間、朝日は「あーっ」と叫んだ。


「待って、そこはダメ!」

「ふふ、将棋に待ったはないぞ?」


 将吾はそう言って笑った。

 飛車を取られながらも角と金、ついでにその先にいる王を狙っている。

 それに気づいた朝日は「むー」とむくれた。


 やっぱり将吾はすごい。

 アカデミーの生徒は日本中から集められたエリートたちである。

 氷堂に一方的にやられはしたが、朝日も間違いなく将棋の上級者である。


 にも関わらず、将吾は朝日の想像をはるかに超えた戦法をとってくる。

 それが悔しくもあり、嬉しくもあった。


(この人なら、風間さんにも勝てるかもしれない)


 朝日はそう思いながら王を動かした。


「…………おい」

「はい?」

「そこ、角筋かくすじなんだが?」

「はわわわわーーー!!」


 相手の角の進む先に自らの王を置くというチョンボ。

 素人でも滅多にやらない手に、朝日はその場で突っ伏したのだった。

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