第十三話
四天王の一人、土井までもが敗れた報は、瞬く間にアカデミー中に広まった。
今回は観戦者もいたため、その対局の棋譜も広まった。
二人の対局は多くの者をうならせ、感想戦(どう打つのが正解かの話し合いみたいなもの)がそこかしこで起こる。
しかし盤面は非常に複雑で、アカデミーの生徒レベルでは誰しも正解を導き出せなかった。
そして唯一、将吾の指した戦法が一番だという結論に達した。
土井が敗れたと知った四天王の一人、風間は二人の棋譜を見るなり「ふん」と鼻で笑った。
「飛車を取っておきながら負けるなんざ、情けねえ男だ。一見、複雑そうに見えるが、高倉って奴がただ滅茶苦茶に指してるだけじゃねえか。勝ったから周りが騒いでるだけだろ、こんなもん」
風間の言葉に火野が諭すように言う。
「それでも負けは負けだ。将棋において勝者は絶対だ」
「それはわかってるけどよ。あーあ、アカデミー史上最強と言われた四天王も地に落ちたな。こんな奴に負けるなんてよ」
「なら、君なら勝てると?」
「ああ、楽勝だ」
ニヤリと笑う風間に、火野は「そうか」と答えた。
「確か各クラスのリーグ優勝者には特別対局が組まれるんだったな。その高倉将吾というやつが優勝したら、お前との特別対局を組んでやろう」
「いいのか? お前が指したいんじゃないのか?」
「私は調整者だ。勝ち負けなどどうでもいい」
「そうか」
「それに、私が指すのは本当に強い相手とだけだ。弱い相手と指すと虚しくなるからな」
「へいへい。じゃ、よろしく頼まあ。ま、将吾って野郎が優勝するかはわからねえがな」
風間はそう言って生徒会室を後にした。
一人残された火野は、放り出された棋譜を見て印をつけた。
「私ならここに指すな。ほら、これで高倉将吾の負けだ」
そう言って不敵に笑ったのだった。
※
土井に勝ってから、いよいよ将吾に対する周りの目が変わってきた。
ある者は尊敬の眼差しを向け、ある者は恐れて目をそらす。
特に将吾に対して非道な言動をしてきた者たちは、彼が対局室に入るたびにビクついていた。
須藤があれほど惨めな負け方をしたのだ。
自分たちにも報復をしてくるのではないかと恐れていた。
しかし当の将吾は彼らのことなどまるで気にしていなかった。
気になるのは目の前の将棋盤であり、次の一局だ。
将吾はとにかく将棋を指すのが楽しくて仕方がなかった。
生前もそうだったが、アカデミーに来てからは面白い棋譜が次々と飛び出してきて一層楽しく感じられた。
(さあ、次はどんな将棋を指そうか)
そう思いながら指し続けていくうちに、とうとうDクラスのリーグ戦も最終日を迎えた。
将吾が最後に指す相手は、彼が川に落ちた日、寮の前で待っていた須藤の取り巻きの一人だった。
無論、将吾に覚えはない。
しかし相手は将吾が将棋盤に座った瞬間、土下座をした。
「すすす、すみませんでしたぁー!」
「……?」
対局する前から突然の土下座に固まる将吾。
周りの生徒も何事かと目を見張る。
「な、何で謝ってるのだ?」
「今まで将吾さんに失礼な口きいて、ほんとすみませんでした!」
「待て。なんのことかよくわからんのだが……?」
「調子に乗ってました、マジですいません!」
「わ、わかった、わかったから頭をあげろ」
結局、最終日は対局相手が持ち時間いっぱいまで土下座を続け、将吾の勝ちとなった。
これにより、Dクラスのリーグの優勝者は将吾に確定した。
しかし将吾は思った。
(できれば一局指したかったのだが)と。




