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リベレーションプレゼンター ~プレゼントにバグを~  作者: 芝国ちあき
4章 「目覚めと眠り ~終幕する物語~」
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4章6話 「パンドラの箱③ 〜母の秘密〜」






 映像の幕は完全に切れた。


 クノとシノは、現代のアイン・ソフの遺跡に戻ってきた。





「――()()()()……あなたでしたね……。

……どうして、ぼくを機関に行かせたんですか……?

どうして、ぼくとシノにわざわざコレを見せたんですか……?」



 シノはまだ信じられない様子だったが。



 クノは(はや)るように即座に尋ねた。




 緊張がこもったロゴスを乗せて――




「どうして――()()()…………」


 この人物に対して、この呼び方をすることになるなんて、思ってもみなかった。




「知りたがっていたからだ、クノ――お前が」


 淡白過ぎる返答。


 それはお馴染みの光景なのだが、やはりあの映像の時とは、容姿も話し方もテンションも……全てが違う。



「ぼくが…………?」


「帰還してからな、ダクスから。

そわそわしていた、やけにお前は。

何となく思ったよ、家族に関する何かがあったとね。

そこで私は決めた、お前達に真実を見せると。

だがマズイだろう、いきなり見せるのは。

だからお前には先に把握させた、()()を。

事前に自力で調べさせ、今日の心構えをしてもらうために」



(そんな…………。

兄さんの様子に、わたくしも気がつかなかったのに……。

本当に……長官が、)


 シノはクノから、パンドラの箱と称した自分達の出生や母親のことを調べると念話で聞かされていた。


 しかし……彼女がそれらの答えを知ったのは、今この瞬間が初めて……。




「私が知ったのは1年経ってからだ、お前達が賢者になってから。

初めは何とも思わなかった、賢者になりたてのお前達のことなど。

だが、覚えていったんだ、次第に。

定めたことにひたむきで、時には迷いもせずに自分を犠牲にするお前達に、親近感とは別の何かを。

ソレが確信に変わった時――私は真実を聞いた、アイン・ソフ様に。

他の者達は同行させずにね、今日のように。

()()()()()頭が上がらなくなっている、()()()()()()()()()()

おかげで助かる、()()()()()()()

故に政府では私だけだ、お前達の出生や私との関係を知る者は」


 ハンディーは(よど)みなく語りながらも、クノとシノの前にそっと歩み寄って、静かに頭を下げた。



「…………すまなかった、黙っていて……。

言わない方がいいと思ったんだ、お前達が知りたがらない限りは。

しかし、考えてもなかったよ。

採取されていたなど、あそこで私の遺伝子が……」


「…………」



 クノはどう返せばいいのか分からなかった。


 機関で先に真実の一旦を見ていた際は、ある程度平静に受け止めていた。


 しかし、いざそれが本当だったと確定した時、気持ちの整理ができなくなった。



「どうして………………っ、

以前とは違う話し方をするんですか…………?」


 確かに、それもずっと気になっていた。

 

 だけど。言いたいことは、他にもあったはずなのに。


 真っ先にぶつけたい感情はあるはずなのに。



 出てきたのは、胸の内を飲み込んで、目下(もっか)の気持ちをそらすような言葉。




「代償だよ、このタブレットを媒介とした天啓発動による」


 顔を上げたハンディーは天を仰いで、遠い目を見せてきた。



「え?」


「賢者を各地に転送するだけなら起こらない、代償とやつは。

だが別だ、天啓の発動となると。

必ず代償は伴う、賢者以外の物質転送を可能にする代わりに……。

抑えても無駄だ、天啓の反動を」



 彼女はゆったりとした身振り手振りを交えて、己がこれまで被ってきた代償を説明し始めた。



「おかげで忘れてしまった、()()()()()()

次に狂った、言語能力が。

上手く表現もできなくなった、自分の感情が。

悪くした、この足も胸も。

もはや消滅した、嗅覚も味覚も」


「…………!!」



 ハンディーは様々なものを失ってきた。


 賢者になる前にも、なった後にも。


 そこまでの目に遭って、自分自身すらも失っても、彼女は戦い続けていたのだ。




(この世界は…………皆んなが失い過ぎている……)



 クノは崩れ落ち、自分が身近に関わってきた好印象な者達の不幸を振り返る。



 賢者になった人――ハンディーはもちろん、クリアに、ドリアンとミープ……。


 賢者に関わった人――モストおばさんやバリー……。


 賢者だった人――レディク……。


 賢者を目指す人――アルシンとファム……。



(賢者がいけないのか……?

それとも…………それを必要とする世界がいけないのか……?)




「兄さん……」


 先程からずっと口を閉ざしていたシノの声。


 彼女は腰を落として、クノの顔を覗き込んできた。



〈…………シノ……。

すみません、ぼくが真実を求めたばかりに……結果的にこのようなことに……。

傷ついたでしょう……?〉


〈うん〉


 念を飛ばすと、即答で簡潔なレスポンス。

そのあどけない二文字が怖かった。


(うっ……!

まずい、怒ってる……!)


 

 胃がキリキリと痛んだ。


 シノに怒られたことなんて、記憶にないかもしれない。




〈お母様のことももちろんだけど。

…………わたくしと兄さんが、人間じゃなかったことも。

実はそっちの方が心にきたかも〉


(……あれ……?)


 言葉とは裏腹に、シノの表情は晴れやかに見えた。



〈…………だけど。

兄さんが知ってて、わたくしは知らない方が嫌だと思う……。

自分だけが蚊帳(かや)の外だったと知った時は、きっともっと傷つくわ……〉


〈シノ…………〉


〈確かに心に傷はついたけど、もう大丈夫よ……!

わたくしは――いつだって冷静で、落ち着いて、前向きで、強くて、弱くて、痩せ我慢ばかりしてる兄さんの妹だから……!

何があっても、すぐに気持ちを切り替えていける……!〉



 ストレートな物言いに、クノの胃の痛みが即座に溶けていく……。



 世の中に対する葛藤が、解放感に紛れていく……。



(至福だ……。

シノに支えられるのは……)


 精神的に弱い一面があったシノが、いつの間にか自分よりも成長していたことに気づき、クノは彼女の頼もしさを実感した。




〈兄さんは、自分が人間ではないと知って。

大人のエゴで作られた命だと知って、どう思ったの?〉


 今度のシノの念は、子供に言い聞かせるような調子だった。これでは、まるで立場が逆転してしまっている。



〈……そうか。

……って、感じですかね……〉


〈ぷっ、何それ!

呆気ない!〉


 シノは無邪気に吹き出した。



〈人でなくても。

この心も、感情も、意思も……全部自分だけのもの……。

それはシノだって、皆さんだって同じですから。

たとえ――ぼくとシノの人格が、ホムンクルスとして生まれたことによる産物だとしても。

賢者になってからは間違いなく、その人格に影響を及ぼす出会いと経験が沢山ありました……。

それは絶対に作られたモノなんかではなく……自分達で得た確固たるモノ……。

だから、人間と同じように成長してるんです、ぼく達は。

今のシノからも、存分にそれを感じますし。

つまり――自分達の正体が何であろうと、関係ない……ってことです〉


〈うん、そうよね!

結局、明かされた真実は変えられないから、受け入れるしかないわよね!〉



 照れ臭そうに頬を淡いピンクに染めたシノは、満面で笑った。



〈そもそも……。

辰砂(しんしゃ)の本性や、バグにアンノウンの正体……。

アルシンさんとファムさんと再会できたり。

あの人とブウェイブさんが、御兄弟だったり……と。

ハロウィンの時に、沢山の衝撃的な真実が発覚しましたから……。

今更何が起こっても、そうそう挫けそうにはありませんね〉


〈うん!〉



 その美しく輝くかわいらしい笑顔と、肩に添えられた手のひらは――クノにとって妹からの最高の贈り物(プレゼント)だった。



* * *




「さて――」


 しばらくの念話タイムで続いていたしじまを、ハンディーが破った。




「どうする?

お前は果たしたぞ、目的を。

まだ続けるのか、機関の代表を?」



 クノは立ち上がって答えた。



「……その気はありません。

ですが、今すぐ辞めるわけにはいかないでしょう。

これから帰って、機関の人達と話します」


(…………え?)


 寄り添っていたシノの手が、クノの肩から離れた。



(兄さん……せっかく会えたのに……。

また……もう、行ってしまうの……?)


 シノの思いを余所に、2人の話は続いていく。




「それに……。

非合法なやり方でぼく達を生み出したことへの話も、向こうでしなければならないでしょう。

……むしろ、そちらを優先したいです」


「そうか。

賢者に戻してもいい、お前が戻りたくなったら。

だが時期に変わる、賢者の名も形態も。

防いだからな、バグの発生を。

従来の職務と同じだとは思うなよ、戻ってきても」



 ハンディーは自分の正体が子供達に知られても、母親としての振る舞いを見せることはなかった。


 それも彼女の気遣いだったのかもしれない……と、クノは思った。



 まだ真実を知ったばかりの自分とシノに対して、これまでと大きく態度を変えたり、親子で暮らそうなどと深く入り込まれるよりは、そっと距離を置いてくれる方がいい。


 元々、上官として頼りにしていた面はあるとはいえ、それ程親密でもなかったのだから。



(本当は、すぐにシノと姉さんの所に帰りたい……。

だけど、やり残していることを片付けないとすっきりしない……。

そんな状態で帰ったら、シノにも姉さんにも気を遣わせてしまうと思う……。

だから――それを終わらせてから、改めて考える……)



 兄妹の心情がズレていく――



(イヤ、もう兄さんと離れたくない!

……こうなったら。

わたくしも姉さんを連れて、兄さんと一緒に――)


「では――帰ろう、シノ」


「エ!?」


 再度クノに手を伸ばそうとしていたシノの胸が、激しくビクついた。




「仕事だろう、今晩は?

言っていたじゃないか、サンタをすると」


「………………あ…………」




* * *




 一つだけ、気になっていたことを残してしまった。



(死の世界――枉死城(おうしじょう)で感じたあの懐かしさ……。

誰かの魂のようなもの……。

母さんは生きていた……。

あれは母さんではなかった……。

…………じゃあ、あの時感じた魂は一体…………)



 クノがそのことに気づいたのは。


 遺跡を後にして、機関に帰還してからのことだった……。



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