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リベレーションプレゼンター ~プレゼントにバグを~  作者: 芝国ちあき
4章 「目覚めと眠り ~終幕する物語~」
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4章3話 「アイン・ソフの遺跡」





「それが武器ですか、新たな」


 賢者庁からヘリでやって来たのは、クノの予想通りの人物だった。

若干小さめの経櫃(きょうびつ)のような形の入れ物を、手で重そうに抱えている。




()()()()()()()……。

いやはや、お早いご到着ですね!」


 アドクスは少々戸惑い気味ではあったものの、友好的にハンディーに歩み寄って手を差し伸べた。



「ご無沙汰しております!

こうしてまた、リエントの平和のために身を()にして奔走する長官殿のお顔を拝見できて、嬉しく思いますよ!

リエントを創造なさった始祖――【アイン・ソフ様】の誕生を祝い、人々の未来をお祈りする儀式……。

今や()()()()とはなりましたが、この度は改めてよろしくお願い致します!」


「よろしくお願いします、こちらこそ……」


 グイグイと無遠慮に距離を詰めてくるアドクスの勢いに、ハンディーははにかむようにアドクスの手を取る。




 …………が、クノにはそれよりも…………。




「Sh――」


「ああ〜〜!

アンタも、おひさしぃ〜!」


 クノの口からこぼれようとしていた一音を、幼い声が遮った。




「……えっ、!?」


「クノすけの()()()……だっけ?

5年前――覚えてる?

アタシ、バリー!

スーカン村で、アンタ達にバグから助けてもらったのよ!

あの時はどうもありがとう!」


 ヒュドールから降りて、一方的に(まく)し立てながら走ってくるバリー。


 その剣幕に困惑を隠せない()()は、長官の傍らに不安げな面持(おもも)ちで立っていた。




「…………()()…………」


 クノは横槍を(ほう)って続け。


「…………兄さん…………やっと、会えた……」


 シノは対応に困る横槍を流し、クノの胸元に静かな音で、けれども大胆な勢いで飛び込んだ。



* * *



(やっぱり、兄さんの側がいい……)


 兄のいつもの大人びた顔と。


 落ち着いた声色の一言だけで、シノは満足だった。




 詳しい話は後でいい。


 今はただ、触れ合いたい……。


 唯一の肉親に……。




「ちょ!?

アタシ、スルー!?

兄妹そろって、そんな意地悪、する!?」


「お礼は結構ですが、後にしますか。

ほら、お二人の顔を見てください。

どう見ても、あなたに構っていられる空気ではないでしょう」


 落胆して吠えているバリーを、眼鏡をかけた女性の役人が諭す。隙がなく引き締まった顔をしたインテリ気質な女性だ。



「ええ、アタシをどこ連れてく気!?」


「一時休憩……。

しばし退散です」


「あ〜〜〜」



 そして――女性はそのままバリーを引きずっていった。



* * *



 話を戻して。



 クノにはハンディーが来ることは分かっていた。

例の儀式があるから。



 ――しかし、もう1人の方が来ることは……。




「シノ……あなたが、どうして、」


「連れてきた、私が」


「兄さんがここに来るって聞いたからっ……!」


 言い終わる前に、ハンディーとシノが同時に流れ込むように返答。




「…………え、……ん?

……それって……」


 クノは、アドクスとハンディーを交互に見やる。



「……いやぁ、申し訳ない。

長官のご要望でして……。

クノさんを、ここに呼ぶようにと……」


 アドクスはバツが悪そうに頭をかいた。



「では。

ヒュドール起動実験の立ち会いというのは、ただの口実……ということですか……?」


「いえいえ!

確かにそれもありますが、D機関様の提供素材でヒュドールの完成に漕ぎつけたのも事実!

クノさんの立ち会いを希望していたのは、決して嘘ではありませんよ!」


 細い目で問いかけるクノに、慌ててアドクスは弁明している。



 その言葉の真偽はさておき、



「…………ふぅ…………。

分かりましたよ……。

ある意味、()()()()()は適切だったかも……」


 クノは無理矢理に納得。俯いて大きなため息を吐いた。




「兄さん、パンドラの箱」


 シノが片言で語尾も上げられずに尋ねてくる。

まるで、知能が幼児並みに退化したように見えた。いつもは自他共に認める年齢不相応なシノだが、今は逆の意味で年齢不相応になっている。



「――()()()()()()()()、ほんのつい、()()()……。

市長さんからの入電の前にね……」


「ほう、ならば――」


 長官の目がキランと光った。


 

「市長に皆様方、失礼。

私、シノ、クノ……。

3人で行います、今回のアイン・ソフ様の儀式は。

申し訳ありませんが、突然で。

皆様方は専念してもらいたい、その武器の実験に」


 長官は頭を深々と下げて。


 ルドメイシティの面々に、お引き取りを願った。




「…………はぁ、かしこまりました。

事情は察しかねますが、どうやら我々はお邪魔になったようですな。

で、あれば、この度はそちらの意思を尊重致します。

お三方――お気をつけて、遺跡へとお入りください」


 いきなりの要望と物言いに、アドクスはやや腑に落ちない顔を浮かべたものの、ハンディー長官を肯定。遺跡に入る許可も出してくれた。




* * *



「暗いですね」


「天啓を使うわ……。

金光輪(きんこうりん)」 【五行:金】




 季節の寒さ。


 吹き(すさ)ぶ凍てつく冷気。


 地上の石を埋め尽くす雪……。


 それら自然の脅威の全てを完全に遮断する、陰影(いんえい)狭所(きょうしょ)空間。




 天啓の灯りを唯一のよすがとし、クノ・シノ・ハンディーの3人は足を動かし続ける。



 斜面をひたすら下って、地下へと潜り。


 後はひたすら横幅も殆どない直線通路。天井もすぐ真上にあり、ジャンプすると頭をぶつけてしまう。





 コツコツコツコツ…………。



 どれくらいの時間が経っただろうか……。




 コツコツコツコツ…………。



 どれくらいの距離を歩いただろうか……。





 コツコツコツコツ…………。


 

 どれくらいの沈黙を保ち続けているのだろうか……。




 念話で密談を交わす空気も、精神的な余裕もない。




 【アイン・ソフの遺跡】。

リエントという惑星を創造した神――【アイン・ソフ】が眠っている神聖な地。



 しかし、そうは言っても。


 ここまで進んできた遺跡の内装は、そんな(おごそ)かさを感じさせない程に狭く、暗く、脆く、神を(まつ)るような要素は何一つない。


 どちらかと言うと、妖怪や化け物の隠れ家と表現した方が適切かもしれなかった。




「便利だな、それにしても。

灯りにできる天啓があると。

必要がないな、松明(たいまつ)や懐中電灯の」


 足音以外は静寂だった空気が、不意に破られた。



「タブレットを媒介とした天啓以外は使えないからな、私は。

故に、ここにはいつも持ち込んでいた、代わりの灯りを。

すぐに消えるからな、タブレットを点灯させても」


「長官」


 クノは冷たい口調でハンディーに返した。




「――わざとやってますよね、その話し方」


「兄さん……?」


「…………何故、そう思うんだ、今更?」


 ハンディーは少しの間の後、いつもの調子で逆に尋ねてきた。



「…………あなたのことが……分からないからです……」


 上手く言葉が出てこない。


 クノは、それが問いに対する正しい受け答えになっているのかも分からなかった……。




 それ以降は、再び誰も口を開くことなく歩き続けた。



* * *




 やがて、見えてきた本物の()()()



 遺跡の最深部に到着したのである。




 そこは――ドーム球場規模の空間。


 天から吊るされた永劫(えいごう)に蒼く輝く水晶が、最深部のみを照らしている。



「っ、」


「眩しいっ……」


 クノとシノは唐突の蒼に(まばた)き。



「これが光だよ、アイン・ソフ様が生み出す。

この光の発生源に原理などない、神の力故に。

こうして光を放ち続けてここに眠っているんだ、アイン・ソフ様は」


 若干弾んだような声音で、ハンディーは再び語り出した。




「あれは――」


 シノは片目を抑えながら、前方を埋め尽くす壁画を指差した。



 白い縦長の円が無数に固まって、1つの大きな球体を形成している面妖な絵が描かれていた。



「……ケサランパサラン?」


「違う、アイン・ソフ様だ」


「……ぷっ、兄さんったら!

珍しくこんな時に冗談言って!」



(……シノの前で……恥ずかしい……。

でも、シノはかわいい……!)


 顔を赤くしたクノを、シノが屈託なく笑っていた。


 なかなか拝むことができない最愛に直面したクノは満更でもなかった。



「実体が存在しないんだ、アイン・ソフ様は。

よって、【無限】を意味する(ゼロ)の光を幾重にも束ねて表現している、あの絵のようにね」


 ハンディーは答え合わせをしながら、そのまま前へと歩いていく。



 クノとシノも、その後を追う。


 ふと下を一瞥すると……。

足元は格子状の線が全体に描かれた床。巨大な碁盤(ごばん)の上に立っているように錯覚させられた。


 更に、床には線の他に。

正方形や三角形、アルファベット等を幾つも繋げて不死鳥を(かたど)る、神秘的な雰囲気を醸し出した地上絵も広がっていた。




「さて――」


 ハンディーは壁画の手前で立ち止まって、こちらを振り返った。



「始めようか……」


 そう言ったハンディーは――



「「!?!?」」


 頭に被った、ツートンカラーを取り払った。




 途端に。


 毛根が一切ない肌色の丸が、蒼の輝きに照らされた……。



* * *



深謝(しんしゃ)しております、大変。

恵んでくださったことを、古代の技術を。

バグへの対応に悪戦苦闘していた我々に、アイン・ソフ様」


 普段の飄々ぶりからは打って変わって。


 極めて神妙な顔つきと声色で、両手を組んでひざまずくハンディー。

喋り方は相変わらずだが、その風貌や姿勢はまるで――ビフォンらと同じ神職者。



「タブレット・アカシックレコード・次元観測モニター……。

全て、アイン・ソフ様の遺跡から発掘された聖遺物(せいいぶつ)由来の技術――。

堪えません、万謝(ばんしゃ)と尊敬の念に」


((…………えっ…………))



 クノとシノは、賢者が使用しているハイテク異次元の設備や錬金術の殆どの出自を初めて知らされた。



(そうか……!

それらの超技術を授かったことに感謝をするんだ……!

アイン・ソフ様の誕生を祝うこの日に……!)


(毎年、この日に長官はここに出張していた……。

その理由が……ようやく分かったわ……!)



 しばらくして。


 ハンディーは携えていた経櫃を開いて、何かを取り出した。




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