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3章エピローグ 「任務終了」




 口に何かが押し当てられた。



 温かくて、甘い心地……。



 良い香りがする……。



* * *




「――!!」



 ゴツン……!



()っダァ……ッ!」


 勢いよく飛び起きた少女は、自身に唇を重ねていた少女の額と激突。




「姉さん……!」


 目覚めたシノの前にいたのは、おでこにたんこぶを作ってのけ反るベルウィンだった。



「「シノ!!」」


 直後、今度は死角から現れた影が覆い被さってきた。


 そして、しとやかに握られる手。



「…………にい……さ…………?

……ファム……?」


「…………っん……シノ、よかった……!

わたしが回復しても、全然起きなかったから!」


「心配……したんですよ、シノ……!

身体……何ともないですか!?」


 シノの手を撫でながら涙を浮かべているファムと、顔を赤く染めて声を震わすクノ。


 その背後や周囲には、仲間達もいた。



「よかったああ〜〜!

一件落着だねっ☆」


「うん♡」


 ミープとベルウィンは、カップルのように腕を組んでイチャイチャを始めた。




 ………周りのこの状況からして――




「身体は……特に何とも……大丈夫……。

あの……わたくしだけ……気を失って……?」


 シノは首や腕を回して調子を確かめながら、クノに目を合わせて尋ねる。



「いえ……ぼくも、他の皆さんも同様ではあったのですが、シノだけなかなか目が覚めなくて……。

…………本当に、心配しました……。

また……死んでしまうのではないかと…………」


「…………ごめんなさい……兄さ……ん……。

皆さんも、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした……」


「無事だったんだから、気にするな。

それよりも、今はゆっくり休んでくれ!」


 ブウェイブの大きな手のひらが、シノの頭をすっぽりと包み込んで、ワシャワシャと髪の毛を弄ってくる。



「そうそう!

ちゃんとやるべきことをやり遂げたんだから、いいじゃねえか!」


「あはは、同感!

…………えっと……シノちゃん、ありがと!

お仕事完了よ、お疲れ様!」


 勝ち気なアルシンとビフォンも、シノの回復を祝福しに現れた。




「…………そっか、無事に……帰ってきたのね」


 そう。


 ここは、ダクスの姫ビフォンが治める城――祭壇の間。





「けど、ノンちゃん!

ベルちゃんスッゴイよ!

ノンちゃんへの揺るぎのない愛♡」



 ミープはわざわざ自分の髪をポニーテールに変えて、持っていたカラーボールで髪の色まで水色にして――



「私は……助けたい……!

大切な家族を……!

何度もこんな目に逢ってる家族を……!

私が助けるんだ!!

私は家族のためなら、そんな最悪の運命にあらがってみせる!!

…………だっけ?

で、そっからの全力キス♡」


「ちょっ、…………茶化さないでよ!

シノちゃんが本当に起きないから、色々試そうとして必死だったんだから!

この町の占い師さんにも、【最悪なことが起こるけど受け入れろ】って言われてて……。

もしかしたら、その最悪なことが【シノちゃんが目覚めなくなる】ことなんじゃないかって思ったら……内心はパニックでパニックで――」


 一言一句完コピして披露するミープに、ベルウィンは真っピンクの超絶早口で弁解している。




(……姉さん、ありがとう……)


 2人のやり取りを微笑ましく感じながらも、シノは改めて辺りを見渡す。



 すると……明らかに欠けている存在がいた。



「…………?

あの人は……?」


 その言葉だけで、全員が強張った顔つきに変化した。



「俺の兄のことだろ……?

奴は――」


「ぼくから話します……。

見ていたのは、ぼくだけなので……」


 クノが、感情を抑えたような静かなトーンで語り始めた……。




* * *



 枉死城(おうしじょう)が崩壊したあの時――クノは生きることを諦めた。



「………………!!」


 しかし――瞑目したクノと、彼の腕の中で眠るシノの体が、天から垂らされた謎の影に掴まれたのである。




(…………これは…………)


 見る見ると地上を目指して上昇を始める影。





「どうして…………」


 クノは生まれてから初めて、()()()()()のだと悟った。

 


「真の英雄になるのは……この私だ!!」


 実の父親だとは微塵も思いたくないこの男に……。




「驚いたか、小僧!?

あれだけ不孝不弟(ふこうふてい)に暴走されれば、嫌でも起きるわ!」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして上がってくるクノを見下すエクラシーは、嫌らしく嗤っている。



 現世にまだ帰れていなかった彼は、黒焦げになった腕を源躍流(げんやくりゅう)で変形させて伸ばした。


 そして、奈落へと堕ちていく自分の息子と娘を引っ張り上げたのだった。




「何のつもりで……!?」


 互いの顔の位置が平行に重なった。


 クノが超至近距離で見るエクラシーは、相変わらず醜悪(しゅうあく)全開な(つら)をしていた。



「私が英雄になるための神の肉体を、邪魔しに来た貴様らが滅ぼした……!」


(邪魔しに来たのはそっちでしょう……)


「その結果!

貴様らが、【リエントからバグを消滅させた栄光】を手にし、【英雄】になるというのであれば!

私がここまで積み上げてきたものが全て無駄になる!

……そのような結末は、断じてあってはならない!!

ならば今の私に残された道は――【英雄の危機を救う真の英雄】になること…………だッッ!!」



 エクラシーは自分が言いたいことだけ言って、クノとシノを投げ飛ばした……。




「――!

あなたは――」


 クノとシノはゲートへと放り込まれた。



 たちまちに2人の肉体が消えていく……。




 同じタイミングで、12時の鐘が鳴り――閉じられるゲート。




「私は2人の英雄をリエントに送り届けた、リエント史上――至上(しじょう)の英雄(駄洒落ではない!)!!

私は貴様らのいないこの世界で、永遠に独りぼっちの英雄として暮らすのだ!

フハハハハハ――」


 鼻を伸ばして、腰に両手を上げて。


 高らかにエクラシーは嗤っていた……。


 その声を聞く者はもはや誰も……バグすらもいないというのに……。




 それが…………クノが見た、父親の最期の姿だった……。



* * *



「…………という感じです……」


「そう……だったのね……」



 エクラシーは、確かに人を救った英雄になった。


 彼はそれ以前にも、曲がりなりにもリエント北部をバグの手からこれまで守護してきた。




 それでも…………クノは彼を肯定することはできなかった。


 それをすると、これまでの行いの全ても肯定してしまいそうな気がして……。




「兄貴は……逃げただけだ……。

それも、勝ちではなく、負けのな……」


 やりきれないブウェイブは、壁に拳を何度もぶつけている。




「ごめんなさい……。

あの人……すごく誠実な人に見えたのに……。

本当はそんな人だったなんて、気がつかなかった……」


「私共もです……」


「この処罰はなんなりと……!」


 一方で、ベルウィンとビフォンの従者の巫女達は、罪悪感に苛まれていた。


 エクラシーを門の先へと通したことで、結果的に枉死城での数々の暴挙を生み出してしまったことを気に病んでいるのだろう。



「もう終わったことよ!

あの人の行動は、私が儀式を行う上でなんだかんだ助けになったから問題ない!

だから、この話はお終い!」


 ビフォンのサバサバとした一言で、暗くなりつつあった場の空気は戻っていった。



 やがて、他の皆んなも気持ちを切り替えて、これから先の行動方針を検討していた。


 もしもこれ以降――バグの発生が一切途絶えることとなれば、()()()()()()()()()()()()()()からだ。




 有史以来、バグとともにあったリエント。



 バグの時代がいよいよ世紀末を迎えて……。



 これからは、バグが発生することのない新時代が始まろうとしているのか……。




* * *



「………………」


「あの――」



 壁に寄りかかっていたドリアンの右目が開かれた。



「……クノ君」


「大丈夫……ですか?」


「…………すまないな」



 ドリアンの顔は影を帯びており、その表情も感情も捉えることができなかった。



「あの結末に納得していないわけではない。

気持ちの切り替えも済んでいる。

ただ、どうしても……あの子が生きていた時のことを思い出してしまってな」


「…………ぼくも、分かります」


「……あの子は昔から霊感が強くて、見えない存在と会話をしていることがあった」


「……………………。

そう……ですか」


「……生まれて間もない子供は、【生の世界】と【死の世界】を隔てている境界線の狭間にいる……だから、【子供は幼い頃の間だけ幽霊が見える】という一説もある。

もしポースが今も生きていれば、あの子の霊感は成長したことによって消えていたのかもしれない……」


「………………」


「……だが、もしも今の僕にその力があったのなら――たとえ成仏してしまった幽霊でも言葉を交わすことができるのではないか……。

ポースの存在をいつでも感じることや、話をすることだってできるのではないか……そんなことを考えていたんだ」


「…………同じことになったら、ぼくもそういう風に考えますよ」


「クノ君……」


「気の利いたことを言える自信はないですけど……。

何かあったら、これからもぼくでよければ聞きますよ」



 ドリアンは急に小さな笑い声を上げた。



「?」


「子供の君にそんなことを言われるとはな……やはり、あの子と似ている。

ありがとう。

……だが、これから――か。

君はこれから()()()()()()()()()()()()()のだろう?」



 !!



 すっかり忘れていた……。



「まぁ、バグが今後現れないのなら、僕達も結局は同じ道を行くことになるのかもしれないが……。

けど、まずは君からだ。

どうするつもりだ?」



 ……………………。



 ……………………。



 ドリアンは、黙りこくったクノに見かねた様子で告げた。



「…………前にも言っただろう?

君は賢者に必要な存在だ。

僕の方から長官に――」


「ドリアンさん」



 しかし、クノは食い気味に――



「決めました。

ぼくは調()()()()()()がある。

ぼくは、ぼくの道を行きます」




 

ここまで読んでいただきありがとうございました!


次回から最終章である4章に入ります。

クノが調べたいことから始まり、まだ明かされていない謎や真実をどんどん明らかにして、完結へと向かっていく話になっています。

そして、リエント最大規模の戦いがこの後待っています。

全部で50話程度になる予定です。

よろしくお願い致します!

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