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3章29話 「中の兄、外の弟」



 真打ち登場とばかりに、ド派手に参戦した男。



「遅くなってすまない!」


 彼の名は――賢者最強のブウェイブ。



「何しろ、()()()()から来たからな!

とにかく上を目指してきたが、正解だったようだ」


「そ、その格好は……」


 シノが示したのは、ブウェイブの背中からニュイッとはみ出している金色の腕。



「ああ、これか?」


 ブウェイブは陽気に笑いながら、


「マグヌスタイプのバグだよ。

殺生はできねぇから、()便()()突破してきた」


「それが……ですか……?」


 背中にたかっていたその数――数十体。


 全て気を失っているのか、グッタリと微動だにしない。破天荒に無理矢理引きずられてきたようにしか見えない……。



「とりあえず――その様子を見るに、()()が散々と迷惑かけたようだな……申し訳ない」


 ブウェイブは勢いよく頭を下げてきた。



「兄貴……?」


「も、もしかして……」


 クノとシノは当然の疑問と予想を述べようとする。



「ブゥウェェイィィブウゥゥゥ〜〜〜……!!」


 しかし、怨念を喉から絞り出すような、おぞましい重低音の響きに阻止された。



「またしても、私の邪魔をしに来たのか……!

この、不孝不弟(ふこうふてい)が!」


 相変わらず、ビフォンが作った精気の黒ゴムに緊縛(きんばく)されているエクラシー。肩越しに鬼の形相で、ブウェイブを罵倒している。



「そう言う兄貴は――甲斐性(かいしょう)なしの、人でなしまでに成り下がったようだがな……!」


 ブウェイブの身体から、熱気あふれるベールが発生。


 その途端に。彼に纏わりついていたバグ達が、室外や窓の外へと追いやられていく……。




「……ビフォン様」


「は、はい……!」


 その声の重みと迫力……そして唐突にフラれたことに、普段は物怖じしないはずのビフォンの背筋が、敏感に刺激された。




 ブウェイブは室内の中央――浮かんでいる(まゆ)の塊を指しながら、


「儀式の最終段階をお願いします……。

貴方が指揮官だ……!

皆んなの先導を頼みます!」


「……!

了解、任されましたよ!」


 ビフォンの面構えに、覇気と覚悟が装備された。



「私は……兄の折檻(せっかん)をしますので……!」


 無邪気に告げたブウェイブは、エクラシーを拘束しているゴムを思いっきり、片手のみで手繰り寄せる。



「ブウェイブ――貴様……!」


 すれ違いと同時に、ブウェイブの耳元で怨みのこもった呟き。


 エクラシーは、流れのままに室外へと飛ばされていった……。




「久しぶりに、家族()()()しようぜ!

兄貴……!!」


 ブウェイブも(いびつ)に緩めた頬で応えて、清々しいまでに揚々なステップで室内を後にした。



* * *




 …………生まれてから――自分には自由がなかった。



 D機関の代表を継ぐ後取りとして育てられた。



 人権も人格も否定され、全てはリエント北部を守護することだけを考えろと言われ続けてきた。


 バグが発生しない世の中を作り上げるためだけに生きろと言われ続けてきた。



 他に生き方を許されなかったから。



 それが正しいことだった。



 その考えは……自分の誕生から5年後に生まれてきた()も同じはずだった――



* * *



「……!!」


 自分を縛っていた、漆黒の忌々しいゴムが砕け散った。



「流石――【封印の力】のビフォン様だ。

気持ち85%くらいじゃないと、ぶっ壊せねぇな!」


 エクラシーの目の前には。


 手のひらをべっとりと(あか)で染め上げた憎き弟が、太々しい笑顔で立っている。



「まぁ、本当にそれくらいの力加減か分からんけどな。

俺は抑えるの苦手だからよ」


 その汚れた手をこちらに差し伸べてくるという、極まった品性のなさ。




 玉座の間へと続く、長い直線の廊下で相対した【兄弟】。



「相変わらず、奔放(ほんぽう)な奴め……ブウェイブ」


「兄貴だってそうだろ?

機関の代表になってから、やりたい放題……。

俺は最近まで防衛大臣から命じられて、アンノウン発生についての調査をしていた。

…………その時たまたま北部にいたから、独自に少し調べてみたことがある――」



 ブウェイブの唇に、


「……ッ、!」


 スパッと斜め方向の切り込み線……。




「――で?」


 問答無用に手刀を繰り出したエクラシーは、嫌らしく続きを促した。




「……あんたは立派に暴君してたようだな!

――そして!!」


 ブウェイブも、鳩尾(みぞおち)に膝蹴りでやり返す。



「――クノとシノのことだ!」


「……ごふっ……!

あの餓鬼(ガキ)どもの教育係には、まともな奴をあてがってやったぞ!

()()()()()()な……!」



 エクラシーは大きく後退して距離を取った。


 源躍流(げんやくりゅう)で、ボコボコと盛り上がる左腕を鞭のように変形させて……。




「それは……あの子達が――◯◯◯◯◯◯だからだろう!?

2人が自分の存在に疑問を持たないように、()()()()()教育を施した!

かと言って、機関特有の腐った思想はそのままだ!

ギリギリで人らしくあれるくらいの捻じ曲がった教育をしたんだろう!?」


 回避行動を取り続けるブウェイブの周囲には、タコの足のように分裂して、縦横無尽に迫る鞭の嵐。



「奴らは私の子供だ!

私の血も、遺伝子も入っている!

どうしようと、親である私に全ての権利がある!」


「ならば――母親の権利は!?」


「あるわけないだろう!

()()()()の関係の女に!

奴は機関とは何の関係もない!」


「どこまでもあんたは反面教師をしてくれる!

尊敬するよ!」



 エクラシーは右腕の方をイカ足に変質……。タコ足を華麗に、大胆に縫いながら接近してくるブウェイブへの包囲網を広げた。



「――ぬかせ!

貴様には私の夢を託した!

それをゴミのように捨てて、全てを私に押しつけた奴が意見など!」



* * *



「何故だ、ブウェイブ!

何故機関を抜けるんだ!」



 13年前……。




「俺ももうすぐ30になる。

閉鎖的なこんなとこにいつまでもいたくねぇよ」


 ブウェイブは追いすがってきたエクラシーを突き放した。



「毎日毎日、クソみてーな食事に、命懸けの訓練!

なんだ、【灰ふりかけ】って!?

なんだ、【まるごと牛骨生チップス】って!?

俺はいつまで経っても力の抑制ができねぇから、電気ショックの体罰三昧(ざんまい)

【バグを駆逐するために生まれてきたのに、それができないなら無能の極み】――いっつも鼓膜が破れそうなくらい聞かされ続ける!

俺達はいつまでこんな古臭いことしてるんだよ!

頭がおかしくなる!

気が狂うんだよ!」



 ブウェイブは胸ぐらを掴んで、27年間の鬱憤(うっぷん)をぶつけてきた。


 唾が顔面に吹きつけてくる度に、それが弟の本音なのだと思わせられた。




「お前には、才能があるんだ!

私よりもずっと!

私には、バグを滅ぼす英雄になど、なれはしない……!

お前は生まれた時……いきなり立ち上がり、2mも跳躍した!

それだけでなく、空中でもう一度跳躍をかました!

癇癪(かんしゃく)で建物の壁を破壊し、訓練中に発生した火だって飲み込んだんだ!

あの瞬間――私は勝てないと思った……!

兄である私が弟のお前に――生まれたばかりのお前にだ!

お前なら絶対に英雄になれる!

そう思ったから、今まで私は耐えてきた!

将来英雄になるお前を、兄として支えるために!

その私を見捨てて、お前はどこへ行くつもりだ!?」


「昔……授業で見せられた都市部の方に行くつもりだ……。

街灯に照らされていて、広々として、綺麗だった……。

大人になったら行ってみたいって、ずっと思っていた……。

それが希望だった……。

このままだと叶いそうにない……だから行く……!

もう、縛られたくないんだよ!」


「……そんなのただの逃げでしかない!

一時の感情に任せて、全てを投げ出して逃げるなんて……恥ずかしいと思わないのか……!

私の誇りの弟であるお前にそんな姿――ふさわしくない!」




《弟に機関代表を継がれるのではないか》


《情けない兄だ》


 エクラシーは子供の頃から、陰で大人達にそう言われ続けた。



 それでもよかった。


 弟なら、自分にできないことができる。


 自分の夢を叶えてくれるから。




「兄貴は……昔からそうだ……。

俺が愚痴を言っても、弱音を吐いても、全部否定してくる……。

機関を嫌がる俺に、機関を至上のものとして肯定させようとしてくる」


「それは……お前を激励しようと――」


「人の苦悩を否定して、自分の思想を押しつけるのは、俺にとって何の励ましにもならない……」


「!!」



 それなのに……。



「母さんは、俺を産んですぐに亡くなった。

兄貴には、母さんの代わりでいてほしかった。

常に俺に寄り添ってほしかった……。

なのに、なのに……!

兄貴はいつだって――機関を盲信する【哀れな犬】でしかなかった……」


「――何だと!?」


「結局、英雄を目指しているのは兄貴なんだ……!

俺はそんなものどうでもいい!

兄貴が英雄になればいい!

ここの代表にでも、なんでもなれよ!

機関が大好きで、人の心を持たない兄貴ならお似合いだ!!」



 信じられない返答に、エクラシーは言葉を返せなかった。



 その間に、ブウェイブは静かに立ち去っていく……。




* * *



 D機関庭園。



「――ま、待て!」


 足早に歩くブウェイブに追いついたエクラシーは、彼の肩を掴んだ。



「本当に行く気なら、私を倒せ!

でなければ――」


「――言ったな?」



 エクラシーの肩から腰にかけて、鮮血が吹き出した……。




「……ぐあっ……!!」


 その軌道は、エクラシーには見えなかった……。



「倒したぞ。

俺は本気だ……行く……。

あばよ、兄貴」


 土に崩れ落ちて悶えるエクラシーが見たのは、氷のように冷たい眼差しをした弟だった……。



* * *




「ブウェイブゥゥゥ……!!」


 弟がいなくなった庭園で、咆哮(ほうこう)を上げた。



「この傷も、痛みも、回復せん……!

貴様との決別の証として残しておいてやる!

私は、必ず貴様を超えてみせる!

機関が大好き?

否――私だけのやり方でな!!」



 肩から腰を強く撫でて独白したエクラシーは、妖しく嗤いながら立ち上がった……。



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