3章28話 「集結」
「ファムさん……シノを治してくれて、ありがとうございます……」
「ううん、わたしにできることをしただけ!」
檻から脱出したクノは、ファムの手を慇懃に握って、微笑みを交わす。
「……餓鬼どもに遅れをとるなど……まだこの肉体が馴染みきってないのか……!」
マインダー全員に翻弄されまくったエクラシー。
即再生を行いながら、こちらを般若のような形相で睨みつけている。
「尻尾の縮小及び貫通力の強化……。
相当な時間と精神力……それから体力も消費し、援護が大幅に遅れてしまいました……。
申し訳ありません」
「最後に勝てばいいんだよ!」
「その方が、主人公らしいしね!」
「……つーか、お前やるな……!
あの気配の消し方!
そして、そのナイフのような尻尾で……ズブリ!」
「うん、兄さんすごいわ……!
わたくしも、兄さんが援護してきたことに気がつかなかった!」
「あれは……尻尾の性質を変えよう、変えようと念を入れて生じた副産物です。
単なる瞑想のようなもの……。
それより――アルシンさんとファムさんは、マインの剣に新能力を目覚めさせた……。
シノの空中での軌道も美しかったし……。
それに、皆んなはぼくの勝手な行動に合わせて、瞬時に的確な連携を取ってくれていた……。
皆んなの方がすごいですよ」
「わたし、回復しか役に立てないって思ってた。
だから、他にできることを増やせたのが……すっごく嬉しい!
アルシンも……カッコよかったよ!
もちろん、クノさんとシノも!」
戦闘の最中なのに、対戦相手を全く見ていないマインダー達。
「何なのだ……コイツらは……」
仲良く互いを褒め合うこの空気……。
エクラシーにとっては気持ち悪いことこの上ない。
同時に、自分がとてつもない侮辱を受けている気分だった。
「……ええい、もういい!」
癇癪に身体を焼かれたエクラシーは、せっかく手に入れた神の肉体を自ら瓦解させて、脱ぎ捨てた。
重りを外して、服も脱ぐように……。
* * *
英雄志望の男に固着していた神は、幾つもの螺旋模様が刻まれたヘドロ色の繭と化した。
宙に投げ捨てられたソレは、室内の中心に平行移動。そして、クレーンの振れを止めるようにピタリと中央で停滞。
「さて……。
神になるなどとぬかした、馬鹿の夢が潰えたところで……。
そろそろお話の続きです。
あなたには聞きたいことがまだあります」
すっかり元の人間体に戻って俯いているエクラシーに、クノは言霊のボディブローを冷淡にぶつける。
「元々、兄さんもわたくしも……あなたのことを父親どころか……人間だなんて思っていませんわ。
これ以上、独りよがりな振る舞いで皆さんに手を出すのなら……容赦はしません!
ええ、今ここで再起不能にしておくべきですわ!」
「……でも、わたしの死体とアルシンを拾って、何年も面倒を見てくれたことにはちゃんとお礼を言わないと……」
「……確かにそうだけど、あの生活を面倒見てくれたって言わないと思うけどな……」
「皆んな……今はぼくに喋らせてください……」
その時――
ビビビビビビビビ!!
「!?」
膝を突くエクラシーの身体に、静電気のような刺激が疾った……。
「……やめだ、やめだ!
腸が煮えくり返る!!」
エクラシーは相当の穢れを纏った人形を飲み込んだことで、一度はその身を神の肉体に変化させた。
今の彼には神の力を使う適性と、扱う上での耐性が備わっている。
それ故に、彼は神の肉体を何度でも自由に着脱できる。
「もう、許さんぞ!
貴様ら!!」
だからこそ――エクラシーは野望を簡単に手放したのだ……。
「一太刀で刀の錆にしてくれる!
1人残らずな!!」
今は慣れたスタイルで本気を出すことを優先して――
「まだ……やる気ですか!?」
「往生際の悪いおっさんだぜ!」
「ええ、本当に!」
「……油断はしないで!」
クノ達は、迎え撃つ態勢を即座に整えた。
「「「「無斬……」」」」
瞬間――エクラシーの声が、何重にも反響。
源躍流――奥義。
「何かくる――!?
気をつけて――!」
「「「「1人一殺……」」」」
エクラシーの姿が、消えた……。
「!」
目の前に広がる、長い鋼。
ターゲット一人一人に、瞬く間に迫る的確な両断――
「「「「真打ちを見せてやる」」」」
現れたエクラシーは……【4人】。
クノ達は各々背後に跳んで、長剣の唐竹割りから逃れる。
出遅れたファムは掠ってしまったが、身に纏う硬質な仏炎苞のおかげで特に支障はなかった。
「…………なにっ!?」
クノの着地と同時だった。
直前の一振りで裂かれた空気が、風の刃と化して襲いかかってきた。
他の3人に対しても、同様のことが起きている。
クノは尻尾を叩きつけて防御。
シノは機敏に身を捻って軸線上から外れる。
アルシンはミョルニルの電気ショックで払い除けた。
ファムは花びらを盾にして身を守る。
「……ッ!」
二段構えの攻撃を対処した次の瞬間。
今度は時間差で地を割る衝撃波が、風の刃の後ろから襲来。
クノはライトセイバーを出現させ、蒼の焔をビームにして防衛。
シノは宙を跳んで、高速連のフルツイストで避ける。
アルシンはミョルニルでぶん殴り、真っ向から衝撃波に対抗。
ファムは花びらに乗って、空中に逃れる。
「――どうなってやがる!」
相手が繰り出した斬撃はたったの1回……。
それなのに、こちらに襲いかかる攻撃はまだ終わらない。
それも……向こうは分身しているので×4。
四段目の攻撃は、エクラシーの姿形そのもののオーラが繰り出してくる斬撃。彼の異常な執念が生んだ化身――とでもいうべきか。
……これに至っては、回避行動は全く意味がなかった。
何故ならば、その化身は無駄のない体のさばきと最短ルートの歩法で、空中にいようとどこまでも追いかけてくるからだ。
実際に斬られて化身を消滅させるしか……対処法は存在しない。
「……!」
更に――【一振りで四段構え】のこの斬撃。
四段目を繰り出した後は、二段目の風の刃に戻ってまた順に繰り返され、永久に続いていくのである。
「そんな……!!」
対象の【命を完璧に切断するまで】は、何回ループしても終わらず、ループの度に速度・強度・威力が増していく無限の斬撃――それが無斬。
(加速し続ける動きについていけない……!)
(これで、14サイクル――マインで弱体化させたくても、間に合わないわ……!)
エクラシー本人に攻撃を当てて無斬を止めたくても、過激なエンドレスへの対応で精一杯。
(クソッ、隙がねぇ!
そろそろヤベェぞ……!)
(わたしのシールドが……もう、全部切られる……!)
次第に追い詰められてきた4人に、平等に伸びる刀身。
切られる――誰もがそう思った時には、
髪が。
頬の肉が。
瞳が。
両手が。
両足が。
心臓が……無慈悲に断たれていた……。
* * *
「…………グッ……!!」
冷酷に切り裂かれた少女の傷から、爆ぜて飛散する鮮血。
足を失った少女はなすすべなく崩れ落ち、頭から血溜まりに伏した。
「ミープさん……!!」
「……今、再生してるから、だいじょぶ……。
……不死身のミープちゃんなんで……。
回復も、蘇生も……しなくていい、から……っ、」
顔面は蒼白となりながらも。
その口角は大きく吊り上がっていて、彼女から負の感情らしきものは見られなかった……。
「……すみません……ミープさん、大好きです……!」
「……ありがと……わたしも、ノンちゃん好き……」
乱入したミープが、入り口に一番近い位置にいたシノを庇ったのだ。
シノは気丈に振る舞うミープの手を握り、肩を抱き寄せてギュッと懇ろに温める。
「……チッ、邪魔が入った――」
エクラシーは眉をひそめた。
標的ではないが、【命】を斬ってしまった。
役割を終えた斬撃の1つが消滅。
「!?!?」
続いて、エクラシーは目を見張らされた。
背後からの不意打ち――黒い精気のゴムによって、全身を拘束されてしまったのだ。
それだけではない。拘束された途端に、自分の一振りで発生した分身達の動きまでもが鈍くなっている。
(これは……この感覚は――小娘の力ではない……!)
術が黒いゴムによって【封印】されてしまった――そう考えるのがこの場においては妥当だった。
このままだと、すぐに分身達も消え果てる……。
(……焦ることはない。
その前に奴らは切り裂かれる!)
エクラシーは、余裕の笑みを浮かべた。
「――なっ、、!」
……が、エクラシーはすぐに大口を開けて硬直。
分身達の側面から――謎の爆撃が発生。
偶然にも、直線上に並んだ位置取りになっていた3体の分身達は、即座に破砕されてしまった……。
* * *
「やるじゃない!」
「凄いな……3体同時撃破を可能とするまでに進化するとは……」
「これが――【解放の力】よ……!」
ミープに続いて駆けつけてきたのは。
黒い精気を腕に纏うビフォンと、エクラシーの分身達を左目の能力で一掃したドリアン。
「ちょっと、巫女さん!
ワタシよりも来るの遅いしィ!
途中ハグれるしィ!
てゆーか、何でゴールに到着するまでこんなに時間がかかってるわけェ!?」
「城の内装が入り組んでやがるし、そこを歩く人によって建物内の構造が変わりやがるんだから、しょうがないでしょ!
これでも早い方よ!
(……多分ね……)」
あっという間に完全復活したミープは、ビフォンに対して人差し指をブンブン振って、抗議と地団駄。
「……皆さん!」
「これで、全員揃いましたね!」
「……いいや、1人忘れてるぞ!」
時速200kmで、部屋に飛び込んでくる何か――
「僕の天啓よりも……速い――!」
室内のブラックカーペットが、バチバチ火花を散らして滑走するソレに抉られ、ヘナヘナ粉々の塵芥。
「よぉ、皆んな……。
それから――兄貴」




