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3章26話 「雷の名は」





 点滅を続けるのっぺら人形――



(まさか――)


(あのヤロー……!!)


 その途端に、クノとアルシンの真理把握が名誉挽回。


 この事態を引き起こしたエクラシーの目論見(もくろみ)を、唐突に看破(かんぱ)する。





〔〔!!!〕〕


 同時に、檻に閉じ込められていたバグの一団が、人形から放たれた光を浴びて覚醒。



 バキ……バキバキバキ……!!



 クノとアルシンが何をしても砕けなかった檻が次々に破壊されていき……バグ達がブラックカーペットにドバドバと絶え間なく降下。




「!?

――ごめんなさい!」


 シノは咄嗟に海老蹴りを繰り出した。



「――きゃっ……!」


 シノの後ろ足が、背後で怯えていたファムの胸部にクリーンヒット。


 ファムは遥か後方に飛ばされ……室内から一瞬で消失。




「!!」


 シノの本能が未来を察知していた。


 友達に手痛い仕打ちをぶつけた彼女は、間髪を容れずに父親(エクラシー)の腕へとハイキック。




「…………ウ、ッッ!」


 シノの体が宙に浮き上がる。



「……娘が父に勝てると思ったか……?」


「シノ……!!」


 シノはエクラシーの()()に捕まり、首を絞められていた。



 エクラシーは人形を持っているので、片腕は塞がっているはず……。


 それなのに――



「今まで随分と手加減してきたが……私が抜剣(ばっけん)すればこんなものよ……」


 シノを掴んでいるのは、エクラシーの背中から唐突に生えた()()


 毒々しい紫に光るソレは魔神のように重厚で、魔王のような威圧感を放射している。


 源躍流(げんやくりゅう)とやらで、自分の魂を媒介にして【力を獲得】・【具現化】・【両腕に変質】……ということだろう。



「あなたは何故!?

何故こんなことをするんです!?!?」


「決まっている!

貴様らではなく、この()()()がリエントを救う英雄になるためだ!」



 異形な両腕の筋肉がグングンと増し――



「……ア、アアア、アアアッッ~~~……!」


 比例するように、シノの動きが弱まっていく……。



「シノ!!」


「おい、クソ野郎が!

なんで自分の子供を殺そうとするんだよ!?」


「ハッハッハッ、貴様らが私の道具だからに決まっているだろう!」




〔〔!!〕〕


 誰もが手をこまねいている間に――床一面のバグ達が人形に吸い寄せられるように飛びかかっていく……。




 エクラシーが掲げるその人形は、リエント東部のイーブタウンで今春亡くなった女性人形技師の遺作……を極秘に取り寄せ、そこにダクスで儀式に使用している人形の神聖な霊気を合わせたもの。


 技師の逝去後、この人形の元になった遺作はそっちの界隈やマニアの間で相応の値打ちがついた。それからは技師を追悼する、遺作を手にしたいなどの諸々の勝手が横行――早々に市場から姿を消した……という。




* * *



「シノ、シノ、シノ!!

やめろ、やめろ……やめろぉぉぉぉ!!」


 鉄格子を握るその手に、盛大なパワーを込めて何度も何度も引っ張った。


 クノの握力に、イザナギ改から送られたマナエンジンが上乗せ。



(砕けろ、砕けろ、砕けてくれえええ!)


 閉じ込められた当初から、何度も試みてはいた。しかし、檻は全く砕けなかったのだ。



 なのに、この局面だけはそれがひっくり返るなんて……都合が良すぎてあり得ない。




「ふざ……けんな!」


 アルシンが激昂。左手から発生させた毒ガスを、エクラシー目掛けて格子の隙間へと流した。



「――ふん!」


 正面からも、新たな両腕。

エクラシーは交差した両腕を盾にして、毒ガスを完全防御。両腕で握り潰すことで、中和までやってのけた。



「……クソッ!

4本も生やすとか、反則だろーが!」


(尻尾は隙間に通せない……!

せめて、天啓が使えれば……!)



 こうしてる間にも……。




「ア、ア……アア……!」


 狭くなっていく気道と激痛に悶えながらも、シノはマインの剣を発動させようとあがいている。



「無駄だ、ここで死んでおけぃ!」


「……!!」




 金属が擦れるような甲高い衝撃が響いた……。





「シノ……シノオオォォォォォォ……!!」



 空気が漏れたように、鉄格子を掴んでいるクノの力が抜けていく……。


 



「…………」


 手足がだらんと力なく垂れ下がっているシノ。



 彼女はもはや…………水分を蓄えているだけの置き物に過ぎなかった……。




「ハッハッハッハ……」


 軽快に残忍を見せつけてくるエクラシーは、持っていた()()を無造作に投げ捨て――



「来た……!

来た来た来た来た来たああああアアアアアア!!」


 狂ったように1つの言葉を連呼。




〔〔〔!?!??!?〕〕〕


 ダイブしてきたバグ達はおろか。


 バグではない人型のシルエットも、魂達も……。


 クノとアルシンを除いた鳥籠の中の全てが、人形に還るように取り込まれて、消えていく……。





 エクラシーが持ってきたこの人形の製作における背景は、先述したものだけではなかった。


 かつてD機関での訓練で死亡した賢者候補生達や、仕事で失敗をして処罰された兵士達の命(もちろん、機関上層部で隠蔽)の光――正真正銘のオドが、この人形には宿っていた。……それも、大量に……。



 この場に囚われていたバグや死者の魂達は、人形が備えていた高濃度のオドに誘導された。


 そして、ダクス特有の霊気と合わさり、【人形が纏うべき(けが)れ】として飲み込まれたのである……。




「これで……私は……!!」


 エクラシーは大きく上を見上げて、いっぱいに口を開く。




 そして――彼は躊躇いなく、穢れまくって禍々しい色に変貌したその人形を飲み込んだのだった……。




* * *



「ヤッタ……ヤッダァゾオオオオォォォォ…………!!」


 エクラシーはギラギラした瞳を、少年のようにキラキラに昇華させた。



「手に入れた……!

圧倒的な力、バグの力、死者の力、神の力……全てを!!

これで……()に勝てるー!!

ウフッ、フフフハ……フアハハハハハハハハハ!!」


 長年の悲願の成就(じょうじゅ)に、仏様が集う世界で罰当たりなまでに吠えている。



「喜べ貴様ら!

今から全員――【神化】した私の糧にしてくれる!

バグ……アンノウン……リエントのこれまでの歴史で死んだ魂達――それらは今や私の中……!!

神になった私は、リエントのあらゆる穢れや災厄を引き受け、全てを守護する偉大な存在となるのだ!!」


 自分の子供達を賢者にしたことも、死亡と報道された少年を育てたことも――全てはこのため。


 彼らが自分の野望を達成させてくれそうになった直前に割り込み、自身の体に彼らを取り込むことで消し去る。


 同時に、取り込んだ彼らの力で更なる己の肉体強化をし、自分だけで栄光を独占しようとしていた。




「ウフッ、ウフフフ、ウヒヒヒヒヒヒ!!

まさか……本当に神になれる日が来ようとは!

創造神に近づく最初の一歩を踏み出すのは、この私だ!

他には誰もいない!」


 1つの見方しかできないとでも言いたげな単眼。


 人の身の丈では消化できない独善がパンパンに詰まった巨体。


 自分以外の存在を嘲笑うための長い鼻。


 自分に楯突く者全てを吹き飛ばす両翼。


 他の皆が犠牲になっても、自分の命だけは絶対に護るべく広げられたドーム状のシールド。



 エクラシーはリエントの救世主たる英雄――しかもその草分けに自分がなりたくてなりたくて仕方がなかった。


 まるで、抑えきれずに肥大化した欲望を象徴しているかのように――彼は今や醜い容姿に様変わりしてしまっていた……。


 

* * *



「……あいつ……とんでもねぇことになってやがる……」


 果てが見えないエクラシーの思いに、アルシンは人生で最大の戦慄(せんりつ)を覚えていた。



(バグが現れない世の中にしたい……あの野郎のその気持ちは本物……!!

だけど……自分以外がそれを成し遂げることは絶対に認めようとはしない!

そして……奴は目的のためなら、本気でおれ達を――!!)

 



「――シノ!!」


 空間から逃がされたファムが戻ってきた。



「……首がっ、………ごめん……!

……待ってて、今治してあげるからっ……!」


 ファムはシノの体を強く抱きしめる。


 彼女の右手から漏出される花粉が、瞑目のシノへと降りかかった。



「……その能力――神になった私にこそ!

小娘、貴様から真っ先に取り込んでやろう!!」

 

 シノの救護を試みるファムの周囲に、輪舞(ロンド)で旋回する羽毛……。




「――ファム!!」


「……なに……これ……っ、」


 彼女が纏うマインの盾――純白の花嫁衣装が、鋭い両翼のハリケーンに切り裂かれた。



 ビリビリビリビリビリィィィィ!!



「きゃあああぁぁぁぁぁぁ……!!」


 儚い繊維の一片一片が、空しく宙に溶けた……。


 大抵の攻撃や反動すらも防御できるマインの盾が、一瞬の一撃で壊されて機能停止。




「ファム……!

逃げろ、逃げてくれ!」 


「逃げない……!!

わたしは……シノを助けるから!」


 全身が裂傷(れっしょう)にまみれても、ファムはアルシンの訴えをはね除けた。



「だから――」


 ファムはぎゅっと力を込め、大きく息を吸う……。


 (おのの)く瞳を閉じて、勇気を振り絞り――




「――邪魔しないでええぇぇ!」


「ッッ!!」



 アルシンの額からこぼれ落ちた汗。



 ポチャン……。



 左腕に冷たく落ちた水滴の波紋が広がり、アルシンの鼓動が加速――左腕の三角筋(さんかくきん)がむくんでいく。



「ゥゥゥ……」


 むくみはボコボコと波打ち、手のひら方面へと流れた。



 !!!


 流れの中で、今度は上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)が上下に激しく振動。



「ウウウウウウ……」


 前腕伸筋群(ぜんわんしんきんぐん)も、ハイスピードで圧迫と膨張を繰り返し……。



 ゴボゴボゴボゴボボボボボボ…………!!




 室内の空気が一変。



 高濃度の血で充満しているかのような、異様な臭気が漂っている……。





「!?

あの小僧……!!」


 ラリっていた魔神が、強制されたかのようにたじろいだ。

 

 彼の大きな単眼(ひとつめ)いっぱいに映されたもの。





「ウアアアアアアアアアアアアア!!」


 激情の雷鳴を轟かせるアルシンの左手に、【小さなハンマー】が握られていた。


 真っ赤に焼けている先端のヘッド部分から、シューウ、シューウ……と蒸気を上げている。


 イナズマの紋様が刻印された柄部はとても短く、アルシンにぴったりとフィットした手頃なサイズ。




 突然の覚醒による、アルシンの【新たなマインの剣】。



 その名は――【ミョルニル】。






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