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3章25話 「ノスタルジア」




 タッタッタッタッタッタッ……。



「……そう言えばさ、ドリアン」


「何だ?」


 どこまでも続く廊下を超速で駆けるビフォンとドリアン。



「『ポース』君、元気してる?」


「……!」


「今は13……くらいだっけ?

足速いし、勘が鋭いし、霊感も強いし……才能あったわよね!

あなたが賢者になってからあの子……あなたに憧れて毎日稽古頑張ってたわよ!」


「…………ああ、才能は僕なんかよりも、ずっとあった……」



 一緒に枉死城内部に侵入したはずのミープがそこにはいない。


 城に入った瞬間に、彼女だけは運悪く別の場所に転移されてしまったらしい。




「でも、それからすぐに私はダクスの棟梁(とうりょう)になった。

あれから一回も帰ってない。

だから、両親やあの子達にも会ってないんだ。

今日偶然あなたに再会したから、なんか気になってきちゃって」


 幼馴染と巡り合うように二人っきりになったせいか、ビフォンは明るい調子で並走するドリアンに話しかけている。



「………………君には隠せないよな」


「えっ?」


「皆んなは知らない。

でも君にはどうせ見抜かれるだろうから、君にだけは話しておく――」





* * *



「……そんでさ、闇颯隊(あんさつたい)の中で裏切り者が出るんだ。

そのせいで、どんどんどんどん仲間達が死んでしまうんだよ」


「はい」


「最終的にナハトは1人になっちまう」


「はい」


「ナハトは孤独になってもひたすら戦い続ける。

悪代官はそれまでとは比較にならないレベルまで勢力をつけていき、血みどろの嵐。

世界の被害は瞬く間に広がっていき、人類の殆どは滅亡……」


「うわぁ……」


「しか〜し!

ナハトは全ての敵を見事に斬り伏せた!

だけど、余りに壮大なスケールの最終決戦……。

世界は崩壊していき、もはやそれを防ぐことはできなかった……。

ナハトは世界を救うことに見切りをつけて、自分を雇ってくれる新しい部隊を求め、別の星へと旅立つ!

それで、第一作はジ・エンド!」


「後味悪いですね……。

ていうか、ぼくはそういうの詳しくはないですけど……多分ソレ、子供向けのアニメじゃないとは思いますよ」



 相変わらず捕まったままのこの2人。


 彼らはこの状況で一体、何の話をしているのだろうか……。



「ナハトにとっては、途中から世界のためとかの大義は関係がなかったんだよ。

ただ自分達を裏切ったヤツへの復讐、死んでいった仲間達の(とむら)い。

――そして、自分に与えられていた任務を最後まで真っ当するために悪を討つってことが原動力だった……。

幼少期から天涯孤独で闇颯隊に拾われて育ったナハトは、どこまで行ってもとことんダークな世界でしか生きられないから、そういう道を進み続けるしかないっていう悲劇的なヒーローなんだよ」


「重いですね……なんだか少し、シンパシーのようなものを感じる……」


「でも、ナハトのそんな姿に、おれは子供ながらに惚れたっていうか?

気づいたら夢中で続きを観てた。

ヒーローになりたいって願望が心の内に自然と芽生えてたんだ……。

みんなの役に立つために賢者を目指そうとしたのも、その影響もあったんだ……」


「……ぼくには、難しい……。

……だけど、」


「?」


「面白いですね、あなたとこういう話ができるとは思わなかった。

それに、ぼくの知らない世界を教えてくれるのも、勉強になりますし」


「お、案外ノリいいじゃねぇか!

お前ってもっと、真面目でお堅いヤツだと思ってたぜ!」


「ふふっ、」



 談笑しつつも、クノは鉄格子の外――どこか遠くを物憂げに見つめていた。




「……お前って、めちゃくちゃ大人っぽくて落ち着いてる奴だと思ってたけど、ここに来てからはその印象以上に冷静つーか?

………………気づいてんだろ、お前?」


 核心を突くような声色の言葉尻が、クノのとなりの牢から飛んでくる。



「…………」


 ぼんやりと視線を傾けると、寝転がっていたアルシンが神妙にこちらを見つめていた。



「……ええ。

あなたもですか……マインの真理把握の力なのかな……」


 亡者の世界にいるという空前絶後の渦中。それなのに、クノは先程から依然として他人事のように動じていない。


 アルシンも同じ。ここに放り込まれてから楽観的が極地の頂点を突破している。



 2人とも、気を紛らわせようとしているのではない。


 何かを()()しているからこそできる振る舞い。




「……感じるよな?」


 起き上がったアルシンが、鉄格子に手をかけて力を込めた。


「はい……」



「なんか、こう……みなぎってくるっていうか……もう少しで新しい力に目覚めそうっていうか……」


「はい……」



 ……………………。




「はいぃぃ!?

何の話ですか!?」


「身体中の鼓動がうずいて、何かが出てきて覚醒を目前にした感覚……そうだろ……!?

だから、そんなに余裕ぶってるんだろ……!?

休もうなんて言い出して……!」


 アルシンは鉄格子に顔をうずめて、前のめりで語っている。


 ものすごく、恍惚としている。何かアブナイモノが(たかぶ)っているようだ。



「……違います」


「……はああああ!?

おれはここに来た時から、ずっと身体の中でそんなふうになってるんだけど!

テキトーってるわけじゃねぇぞ!」


 素っ気なく首を振ると、アルシンがギャアギャアと喚き出した。




「……なら、ぼくが感じてるのとは違うみたいですね」


 クノは振り返って、人差し指を外に向けて(かざ)す。



「安心感、切なさ、心地良さ、それに――【懐かしい感覚】がするんです……。

だから、根拠もなしに【何とかなる】って本音で思ってしまう……。

ここに来てから、まるで第二の居場所のような不思議な気持ちが湧いてきます……」


「お前……」





(催眠術……?

洗脳……?)



 クノの胸が高鳴り始めた……。



(違う――100回は反芻(はんすう)して思案したけど、答えは変わらなかった……)



 これまで感じたことのない感情。



(あまり考えないようにしていた……。

でも、思い当たることが一つ、ある……)



 そして、それを考えた途端に込み上げてくる緊張。



「あの、笑わないで聞いてください……」


「お、おう……」



 大きく深呼吸して、心のざわつきを整えて……。



「……あそこに――」





「ククク……」


「「!?」」


 もう少しで、口から言葉がこぼれそうになったその時だった……。




「ハハハハハハハハハハ……!!」


 愉快愉快の足取りで――入口の方からやって来た長い影。




「あんた…………行方不明だって聞いてた……。

アンノウンになったクノにボロ負けしたから、バツが悪くて涙の自宅警備になったと思ってたぜ……」


 割れまくった上半身の全てを露出させた大男――エクラシーが姿を現した。




「……どうして、あなたが……?

ここに通じる門は、警備されていたはずですが……」


 脳を駆け巡る電光が、クノに一つの予感を生み出す。


 真理把握はその答えをはっきりと教えてくれず、肝心な時に役に立たない。




「――まさか……姉さん達に……何かしたわけじゃ、ないですよね……?」



 愉悦に溺れた白い歯が、こちらを嘲るように見上げてきた。



「ふっ、ナニカしてほしかったのか?」


「!」


「それは期待に添えないことをした。

正規の手続きを踏んでくるべきではなかったな……」


「手続き……!?」


「私の身分を証明し、【貴様らを援護するアイテムを渡すためにおっとり刀で駆けつけた】と、偽善者ぶって口にした。

それだけで、容易く門の先まで通してもらえたぞ、ククク……」



 リエント北部を守護するD機関は、北部で発生した事件全てに介入することができる。


 故に手続きなど、D機関所属であることを証明するモノを提示するだけでいいのである。


 逆に賢者達は政府所属であるのにも関わらず、北部では行動権利外である。そのため北部での活動の際はそれこそ、面倒な正規の手続きや交渉なんてモノを毎度のように行わなければならなかった。




「だが……あのような弱い小娘どもなど、()()()()

――貴様らは視界に入る雑草の全てを抜くか……!?

利用価値すら持たない無能な奴らに、ナニカをするメリットなど皆無!」



 血管がピキッと割れる音がした。


 それは、自分の体から発したものだったのだろうか……?



「取り消してください……その言葉――」


 エクラシーの背後で、平静とした反抗。



 瞬間――明かりを灯されたように光に満ちる室内。



「――わたくしの家族である姉さんを、それから他の皆さんも侮辱しないでください……。

あの方達は能力も人格も優れていますわ――あなたよりよっぽど」


 手を繋いで現れた、2人の少女。



()()……やはり無事でしたか……!」


()()()……!」



 エクラシーはのんびりと肩越しに彼女達を見やる。


「誰かと思えば、そこの餓鬼(ガキ)に無様に殺された貴様か……久しいな。

(むくろ)の小娘もいるのか……。

5年も(つい)やした挙げ句にようやく蘇生とは……人生を無駄にしたな、片腹痛い!」


「……っ!!」


 ファムは肌を蒼く(あわ)立たせた。


 醜悪(しゅうあく)なオーラに圧倒された彼女の全身から、力が抜けていく……。



「……おれは……一応あんたに感謝はしてる。

だけど、もう用済みだ。

痛い目見せてやってもいいんだぜ、代表さんよ?」


「……ええ、友達を愚弄(ぐろう)した今の言葉も訂正してもらいますわ……」


 アルシンとシノは静かにエクラシーを睨みつけた。

 


「…………益のない話や煽り合いは一旦やめましょう。

あなたが持ってきた【アイテム】……というのは?」


 クノが2人を制して話を戻す。



「……コレよ!」


 グリグリグリ、グチャグチャアアッッ……!!


 エクラシーは例の傷の中心――胸元に手を突っ込み、痛々しい音に乗せて体内を弄り始めた。



「全ては予定通り……創造神(アイン・ソフ)の導きのままに……」


 エクラシーが体内から勢いよく取り出して、これ見よがしに掲げたのは、



「人形(どこかで見たような)……?」


「ビフォンさん達が用意してたヤツとは、何か違う……」



 現れた、無地で真っ白のっぺらぼう人形から、謎の発光現象……。




〔〔〔!!!〕〕〕


 その発光は、檻の中にいるバグ達を覚醒させた……。



「ご苦労だったな、貴様ら!

後は真の神になる私の(ふみだい)になるがいい!!」



 


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