表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/142

3章22話 「門の先へ」





〔〔!!〕〕


 漆黒に染まった兄妹は、声のない叫びを上げていた。



「クノくん、シノちゃん!

今回の任務が終わったら、2人の食べたい物なんでも作…………買ってあげる!

お風呂も一緒に入ってあげる!

それから、マッサージもしてあげる!

新しい服も買ってあげる!

行きたい所があったら連れてってあげる!

だから――今はもうひと踏ん張り!!」


 そんなオドを求める2つの衝動を抑えるために、ベルウィンは癒しを唄い続けている……。




「……これで、【ニグレド】っていうのは成功なんだろ!?

次は……2人にくっ付いたバグ化の(けが)れを、人形にぶつければいいんだよな!?」


「うん!」



 降り注ぐ白い果汁が、バグの闇を抽出。


 抜き取られた穢れが虚空を漂う。


 それを掴み取るのは、伸びる赤い腕。




「人形さんよ!

受け取れエエェェェーーーー!!」


 祭壇の間の入り口上部。

(はりつけ)にされていた白い人形が、墨を被ったように塗り潰されていく……。



 ズブズブズブズブ……と、立てられた気持ち悪い音。



「穢れの闇に染まったあの人形…………目とオーブの有無以外はコモンのバグにそっくりだ!

これなら本当に、禊祓(みそぎはらえ)の効果も高くなるんじゃねぇか!?」


「かも!」



 アルシンの左腕と、


「それじゃ……あとはコイツらを元の姿に戻せばいいんだよな!」


「そう!」


 ファムの右腕が交錯して共鳴。



 クノをアンノウンから解放させた際の神薬が再誕。




〔〔!?!!!?〕〕


「クノくん!

シノちゃん!

辛いのは一瞬だけだから!」


 辰砂(しんしゃ)に伝わる調律の鼓動。





「うっ、…………皆さん……」


「意識が……引っ張られた……」


 2体のバグは……2人の人間に変化していた。砕けた骨もきちんと回復している。




「クノくん、シノちゃん……よかった……!」


「きゃっ、姉さん……!」


「む、むねが……!」


 スゴイ勢いでぶつかってきた。




「……へ、案外バグから人間に戻すのって、おれ達2人なら楽勝じゃね?」


 一方、アルシンは鼻をこすって得意げだ。


「もう、すぐ調子に……ううん、アルシンの言う通り、バグになっても人間にちゃんと戻すことができるのなら、誰も犠牲が出ないで簡単にできる方がいいよね!」


 ファムはそんな彼をいつものように咎めようとするが、今回は同調して柔らかく微笑んだ。




 ここで――ハンディーが天啓で与えた猶予が終了。


 周囲の時空が、通常の流れに切り替わった。




 ジジジジジジジジ……!!


 瞬間に、異次元の硬度をもった金属の衝撃。切断音の嵐が、静寂の時を脅やかすヘヴィメタルを奏でた。




* * *



「…………??!?」


 戻った時の流れを認識したと思ったのも束の間、クノは驚愕。


 あの磔の人形が、瞬きする間もなく消滅していたのである。




「…………ふうっ〜、」


 軽い呼吸をしながら肩越しでこちらを見やる、地に降下した巫女。



「どぉよ、私の高速の芸は!」


 ドヤ顔で息巻くビフォン。



 彼女は自分で投げた聖剣に大ジャンプで追い付き、みじん切りで人形を斬り裂いたのだった。


 その聖剣も、役目を果たしたのか、作るのにかけた労力に反してあっさりと消滅してしまっていた。



「「「ビフォン様、流石ですわ!!」」」


 巫女達は綺麗に整列し拍手喝采。さながら、お嬢様と取り巻きのやり取りだ。




(……リーさんの電光石火の伝煌切華(でんこうせっか)の方が速いもん……)


「あはは、私の剣術は師匠(せんせい)のソイツよりも遅くて当然よ」

 

「!!」


 ミープはビフォンの明確な返答に目を丸くした。胸元を抑えて胸中を隠すように後ずさる。




「心……読めるんですか……?」


「……う〜ん、読める……っていうより、見える?

私には、色々なモノの隠された裏が見えちゃうのよね。

でも四六時中見えてるわけじゃないし、いざとなったらオンオフ自由だから安心して。

変なことに使うつもりもないから」


「…………」


 ビフォンは周囲を軽く見渡しながら、警戒心を露わのマックスにしているミープに答えた。



〈喧嘩するなよ、ミープ〉


 ブウェイブが静かに念を飛ばした。


〈分かってますよ……〉


〈喧嘩するなよ、ミープ〉


 そうとは知らずに、ドリアンも同じ言葉の念を送る。


〈分かってる!!〉


〈何故、僕に怒る!?〉




「………………」


 それからブウェイブは腕を組んで瞑目。



「…………ちょっと、待ってろ……」


 やがて、皆に背を向けて誰かと念話を始めた。




* * *



 10月31日。午前10時。



「皆んな、ご協力感謝するわ!

よし、それじゃあ……!

第一段階が終わったことだし、第二段階と行きましょうか!

死の世界へ!!」


「人形の禊祓の方は、完了ということでよろしいのでありましょうか……?」


 張り切るビフォンに、シノは半信半疑で尋ねる。


 わざわざ時空を止めて、兄とバグ化までして行なった(危険な)儀式。その効果がきちんとあったのか気になるのだろう。



「…………え〜〜っと、…………シノちゃん……。

大丈夫よ、成功したから!

私には分かる!」


 ビフォンはしばし(まばた)きを繰り返した後、笑顔でこちらに歩み寄ってきた。



「クノ君、シノちゃん……ありがとう。

そして、ごめんなさい……。

あなた達には真っ先にお礼言わなきゃいけなかったよね……!

ベルウィンちゃん、アザ……アルシン君、ファムちゃん……あなた達もありがとう!」


 一人一人の手を取って、万謝を告げるビフォン。


 その口ぶりからして、彼女は聖剣作りのことだけではなく、



(……ぼくとシノがさっきバグになったことを知っている……?

あの時のビフォンさんは時の流れの外にいたのに……本当に色々なモノの裏が見えるんだ……)


 その瞳だけが持つ、彼女の特性。


 それは――マインが持つ真理把握に近いのかもしれない……とクノは感じた。






「……てっ、成功したってことは……!?」


 目を見開いたクノは、思わず天を見上げた。



「全員、聞いてくれ!!」


 丁度その時――念話を終えたブウェイブが大きな声を上げる。



「賢者庁本部……それから、現時刻バグが発生している地区からの入電だ。

発生していたバグが突如、次々と絶え間なく消滅している……とのことだ!

まだ10数ヶ所でしか確認はとれていないが、恐らくは全ての地域で共通のことが起きていると思われる!

また、この時刻に各地で発生するはずだったバグが軒並み現れていない。

クリア観測士の話によると、次元壁の震動が急激に安定し始めた――つまり……」


「……バグの発生に……終止符が打たれた……!?」


「確定ではないが、その可能性はそれなりにある……!!」




(いくら(物理的にも)骨を折ったとはいえ……)



(…………こんなに、あっさりと……?)



(有史以来、リエントを脅やかし続けた存在が……?)



(…………実感が全く湧かない…………)



 クノとシノが周りを見渡すと、誰もがそんな表情をしていた。




〈よくやったチミ達!!

やはり、僕のニグレド戦術は絶大だった!!

このままアルベド・ルベドへと至らせて、本物の賢者の石を……僕が――〉


 ルードゥスからも(ねぎら)いが来たが、誰の脳にも入ってはいない。彼の功績も確かだろう……多分。




「じゃあ、これで任務を終了しても……」


「まだよ」


 ベルウィンの発言を即座にビフォンが却下する。



「儀式も、禊祓も、それ自体は成功した……。

でもどこまで効果があるのかまでは、恥ずかしいけど私にも分からない……。

だから死の世界に赴いて、バグ化して亡くなったと思われる人々の魂を清める……。

できることを全てやって、初めて仕事が完了よ。

どの道、バグと戦うということを生業(なりわい)としているあなた達には、バグについての情報――真実を知る責任があるんでしょ?」



 そうだ。



(ぼく達は、数えきれない程バグを倒している……。

もし、それが【人】だったなら……。

あの時倒した【アンノウンが人】だったなら……)



 クノは握り拳を固めて、祭壇へと進んでいく。



 このままでは、終われない……。



「兄さん……!」


「待てよ!」


「キミ達、先輩を差し置いてカッコつけちゃダメ!」


「全くだ、ここからは僕達のターンだ!」


「ポキポキ……

(指を鳴らす音)」


「みんな、歩くの速いですよ!」



 仲間達が後ろから走って来る。




「……そうこなくっちゃ……!

留守番、頼んだわよ」


「お任せください……!

どうか、ご無事で!」


 ビフォンも巫女達に託して祭壇を駆け上がる。


 その背に、巫女達は深々とした祈りで答えるのだった。

 



「姉さん、行って来ます!」


「今度は、わたくしと兄さん2人で……いえ、全員で帰って来ますから……!

必ず!!」


 クノとシノは、祭壇の頂でベルウィンを見下ろす。


 開かれた門の先――眩い光で煌々(こうこう)と輝く家族の表情は、ベルウィンには見えなかった。



 死の世界では何が起こるか分からない。身を守る術をろくに持たないベルウィンは、一緒に行くことはできないのである。



「うん、いってらっしゃい!!」


 それでも、彼女は家族を屈託なくいつものように送り出した。



 普段の、任務地から離れている賢者庁の自室とは違って、今は2人に最も近い場所で帰りを待つことができる。



「私のことは、心配しないでね!」


 それだけでも、ベルウィンは嬉しかったのだ。




「行くわよ!!」


 ビフォンの快活な号令を合図に。




 はい……!!!!!!!!




 8人は門をくぐり、死の世界へと入っていった……。




* * *




(絶対に大丈夫……!

私の家族は……死なない……!)


 彼らが姿を消した後に込み上げる、不安の激情。




「……!?」


「…………」


 それを必死に抑えていたベルウィンの頭を、巫女の1人がそっと優しく撫でた。




「……ありがとうございます……」


「ふふっ」


 気が(ほぐ)れたベルウィンは、座り込んで晴れやかに門を見上げる。



(そう、わたしがみんなを信じないとダメだよね!)





 祭壇の間で帰りを待つ彼女達の背後に――



「……………………」


 マッシブな黒い影がゆっくりと迫っていた……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ