3章15話 「真理会話」
ウワワワワアアアアアアアン!???!!
イカレた断末魔をもって、クノをアンノウンへと変えた元凶は滅んだ。
「…………これで、何もかも終わったのよね……?」
「はい……」
「…………」
その石に引導を渡したマインダーの者達は、互いに見つめ合って並ぶ。
「初めて、辰砂を手にした時みたい……」
「確かに……」
「その内、元に戻るさ、何かのきっかけで」
4つのマインが高純度で共鳴したことで発生した現象――そう、マインダーの4人は異次元空間の中に転移してしまっていたのである。
「邪悪な辰砂の意思が消えても、ぼく達に刻まれた辰砂そのものは消えないんですね」
クノは自分の心臓に手を添えて、その鼓動を深層で感じながら言った。
「……じゃなければ、おれとファムだってマインを発動できねぇからな……」
「シノさんもでしょ!
あなたが一度殺した!」
「……あ、ああ……」
後ろからファムに頭を叩かれたアルシンは、バツが悪そうにそっぽを向いた。
4人のマインダーは、変わらず物憂げな表情で並び立つ。彼らは各々使用できる武器や能力は異なる。
けれども、
「「アルシンさん……。
ファムさん……」」
――真理把握。
これだけは、マインダー全員が共通して持つ能力。
「……ああ……」
「はい……」
漠然とでも察していく。
悟っていく。
目の前に立つ相手の、胸の中にしまっている気持ちが……。
「特にアルシンさん……言うのが遅くなりましたが、すみませんでした……。
あの日――ぼく達は、あなた方に厳しい言葉を言い放った……。
それが遠因で、このようなことになってしまったのは否めません……」
「わたくし達はずっと、後悔していましたわ……。
あなた方が平和に暮らせていた生活を奪ってしまって、申し訳ありません!」
察しても、悟っても。
本当に分かり合い、和解するには、自分の口でその思いを話さなければならない。
人間には、言葉を話す能力があるのだから……。
「…………いや、おれ達は別にあんたらのことを悪く思ってるわけじゃない。
あの時言われたことも、それからの結末も。
悪いのは、あんた達に散々迷惑をかけたおれ1人だ……。
謝るのはおれだけでいい……。
本当に、ごめん……!」
「あなた達がわたし達のことで苦しむ必要なんて……本当はなかった……。
忠告をしてくれたのに、わたし達が無鉄砲な行動をしたせいなんです……ごめんなさい!」
どれだけ今更だと思われようと、目の前にいる相手に自らの思いを伝えなければならなかった4人は、寄り添って重なった。
手を取り合う。
壊れていたものを繋いで修復するために……。
新しい関係を作るために……。
「…………あの、」
ファムがおずおずモジモジと口を開く。
「わたし達のこと……許していただけますか……?」
相手の気持ちが真理把握でとっくに分かっていても。
「ファムは悪くねぇよ。
けど……おれのしたことは、そう簡単には……」
自信を持てないでいる2人に、クノは告げた。
「…………正直。
ぼくは……こうしてシノが無事に戻って来てくれただけで十分です……。
ですから過程は色々ありましたが、ぼくとしては、もう水に流し終わってます」
「わたくしも、兄さんのいる世界に戻れた。
ファムさん――あなたのおかげですわ。
ありがとうございます」
兄妹は、自分の素直な感情に従うことに決めた。
(もう、わだかまりにいつまでも縛られる必要も、縛る必要もないわ……。
赦すも赦さないも、人の意思……)
(どちらを選択するかによって、この先の自分達が決まるのなら。
自分が楽になる方を選べばいいんだ……)
モストおばさんとのわだかまりにも決着をつけているのだから、彼らにだって同じことをする。
「…………ううっ、お二人とも、ありがとうございます……!」
「……っ、本当に、すまねぇ……」
偽りない気持ちを伝えられたアルシンとファムは、揃って顔を赤らめ、その瞳を揺らす。
「……本当に、本当にっ、…………ううううう!」
「……あ、アルシン……!
よがっだね、わだじ達……!
時間がずごぐががっだげど、やっど終わっだんだね!」
そして、滝のような雫流れる頬に無垢を描き、心の底から絞り出したくぐもる声を震わせ続けた……。
やがて、彼らは共通の悟りに行き着いた。
和解を望む彼らの共鳴した深層が具現化したことによって、4人は別次元に転移したのだということに。
誰の邪魔も入らずにこの4人だけの空間で胸の内を伝え合うために、この現象が発生したのだということに……。
* * *
「――さっき話した通り、5年前のアンノウンは、おれとファムがマインで暴走した融合体。
おれ達にはあの時の記憶は殆どない。
でも体が覚えているし、真理把握もあったから分かるんだ。
だから、辰砂の持つ危険性は嫌という程理解していた……。
辰砂の存在自体はおれ達を拾った機関の連中にバレちまったけど、その本質は隠すことにした。
バレたら奴らに【バグ】として殺されると思ったから……辰砂のことも死の世界で手に入れたと偽ったんだ」
アルシンはこれまでの簡単な経緯と隠されていた裏側を、彼自身の本音で語っていく。
「お前らを襲ったのは、ファムを生き返らせるための猶予がなくての焦りもあったけど……辰砂に選ばれたクノも、シノも……アンノウンにさせたくなかったんだ……。
最近、アンノウンが流行ってるって聞かされてもいたしさ。
だから、一度あんたらを殺してでも辰砂を抜き取って、その後あんたらをファムと一緒に蘇生させようと思ったんだ……」
「そうだったんですか……。
ですが、その割には何故――アンノウンと辰砂の因果関係をぼく達に言ってくれなかったんですか?」
アルシンがその重大なことを話したがらなかったこと。クノはそれが気になっていた。
「ぼく達は協力できることなら、範囲内の全力で力を貸したはずです。
お二人はぼく達にとって、忘れられない存在ですから。
たとえ、出会った期間が極僅かでも……」
通常よりも抑えた声量とトーン。それでも、その言葉には熱を込めて。
「そうだよな……ごめん!
おれは馬鹿だから考え過ぎて、余裕がなくなってた……。
何度も言うけど、こうなったのはおれ達の自業自得でもある
(流石にここまでの目に遭わされるのは、酷すぎると何度も思ったけど)。
だから、あの時に忠告してくれた2人を巻き込みたくはなかった……、それから…………」
アルシンは言い淀んだ。目線をそらして、むずがゆそうに頭をかいている。
「「?」」
クノとシノは首を傾げた。
ファムの方はアルシンが言おうとしていることが分かっているのか、顔を曇らせている。
「分かんねぇのか……?
今までの話で察しないか……?
アンノウンと、辰砂だぞ?
それは、おれ達だけの間の話だと思うか……?」
!!
クノとシノはやっと気がついた……。
(まさか……)
しかし、それを口にする前に、
「「!?」」
全員のマインが完全に解除されていく……。
そして――霞んだ空間が急激に明けていった……。
* * *
「うっ!」
「!」
バチン! と、電気ショックを与えられたような感触が意識に走った。
呻き声を発した瞬間。
「クノくん、シノちゃん!!」
クノとシノの首に絡みつく、ふっくらと鍛えられた両腕。胸に押し当てられる突起物。
「「うげっ!!」」
結構力が強い。それでもいつもの2人ならこの程度、失礼ながら大したことないのだが、意識が戻ったばかりの不意打ちでコレはキツイ。
「ね、姉さん……」
「クノくん、もう大丈夫だよね!?
シノちゃんは、幽霊じゃないよね!?
2人とも、おかえりなさいって言っていいんだよね!?
ね、ね、ね!?」
そこにいたのはベルウィンだった。家族の安否を誰よりも気にする彼女は、2人の体をユサユサ、グワングワンと激しく動かしている。
「全て……イエス……ですから、」
「一旦、落ち着いて……ください……」
「あ!!
ごめんなさい!!」
まだぼんやりとするクノの視界に、揺れる水に濡れた球体が映った。
「クノくん…………。
シノちゃん…………。
本当に、2人とも戻ってきてくれてよかった……ぐずんっん……!!」
垂れる鼻水を全力ですすり上げ、ぐしゃぐしゃに崩れた真っ赤なベルウィン。それを見たクノの胸は、トゲでも刺さったかのように痛くなった。
「姉さん……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……。
必死にぼくを助けようとしてくれたこと、この心と体が覚えています……。
ありがとうございました……」
「ううん、私は自分にできることを――」
「全くだ、感謝するのだな、彼女に。
皆にも」
ドアが開け放たれて、偉そうな声が割り込んできた。
「……長官……」
上司のハンディーがヌルッと姿を現した。その左手はゴム手袋で覆われており、右手にはアタッシュケース。
「言っておくよ、まずは。
災難だったな、2人とも。
だが良くないな、脱走するのは――クノ」
相変わらずの面倒な話し方だが、その声には厳しい火が灯っていた。
「…………すみませんでした……」
「長官、今回の件は無事に事なきを得たので、どうか――」
「そうですわ、兄はわたくしのために――」
「いや、与えるよ、罰を。
今回は許すことはできない、私が仏でも」
本人の謝罪も、両手の花からのフォローも一切受け付けない態度。今日の長官は珍しく、その立場らしく威厳があふれており、口調の節々にも怒りがこもっているように見えた。
「君は多くの人を【殺した】、マインで暴走して」
「!!」
「罰を受けるに値するよ、十分に。
結局は生き返ったとはいえね、全員無事に。
まぁ、行方不明だが、1人は」
長官は大きく溜めてから、人差し指を突き出して、
「――賢者を抜けろ、責任を取って」




