3章10話 「あの時の末路」
(……?)
「よーし、それじゃ……いっくよー!」
ドリアンとミープは駆け出して、跳躍。
〔……!!〕
バリィィィィン……!!
岩肌に磔にされていたアンノウンは、ミープが放ったザイルナイフを闘気で吹き飛ばし、すぐさま逆襲に転じてきた。
「――うわっ!」
前蹴り……と見せかけて、鞭のように張られた刹那の打撃。
背後に忍ばせられた一撃――ミープは地上に叩き落された。
「……速いッ、!」
ドリアンにも迫る、嵐のように旋回する配線コード。
「……天啓……!」
ドリアンは長剣――煌星を振りぬいた。
「防刃」 【五行:土】
攻守一体の天啓。
体を一回転して速度と勢いを上昇させた、下から振り上げる逆袈裟斬り。
斬撃が周囲の空気と大地に干渉して、高質量の土の塊を形成。
「……うおおおっ……!」
土の壁の隙間を縫ってくる――過剰に伸びる蒼の焔と、アンノウンの背中から幾重にも展開されるコードの束。
(さっきよりもパワーが増している……!
あの方々に小さくしてもらっていなかったら、確実に負けていた……!)
アンノウンの圧倒的な力と攻撃範囲に、ドリアンは押されていく。
「リーさん、しっかり!
スパイスエッジ!」 【五大:空】
ミープは顔を地べたにうずめながらも、山刀――味覚刀を掲げた。湾曲する切先から、天へ向かう一筋の白いエネルギー光線。
「ドリアンだ!
美星」 【五行:金】
後方の援護を察知したドリアン。
そちらを一瞥もせずに、ひたすらに煌星を振り続けて、前から迫るアンノウンのパワーに対抗を続けている。
(やはり、この感覚……。
目の前にいるアンノウンは……)
ドリアンが繰り出すその技は、スローで再生しても視認が困難な速さ。
それでありながら、静と動を突き詰めた優雅さを素人目にも感じさせる美麗な演舞。
〔!!!〕
やがて、ドリアンへの攻撃は全方位――死角からも向けられ、速度も比例して増していく……。
ドッドッドッドッドッ!!
上からの波状攻撃は、ミープが刃先から放った光線で撃ち落とされていくが、後方への対応は間に合いそうにない。
「水鏡」 【五行:水】
正面を向いた垂直の切り上げ――逆風……。
虚空が裂かれ、その中から水でできたドリアン人形が飛び出した。
ドリアンと背中合わせに立った人形は、彼がカバーしきれない方角の攻撃を光速でさばいていく。
この天啓は、直前の自分の動きを水の分身にトレースさせて再現する、酔狂な者が使う技。
〈長官……!〉
ドリアンは今回の采配をした上司に念を送る。
〈察したな、その声は。
当然か、かつて共闘していればな〉
〈やはり、分かってて……!
今回の作戦……信じていいんですね!?〉
〈救い出す、必ずな〉
尚も拮抗中のドリアンは、目の前に広がる現実に疑念と不信感を抱きつつも、
(感情の乱れを戦場に持ち込むな!
僕は……マスターだろ!)
その剣先がブレることはなかった。
〔!!!〕
だが――遂にドリアンは大きく弾き飛ばされてしまった。
「チッ、」
崩れる体勢。
咄嗟に煌星を水平に薙いで、構える。
「木ノ刃」 【五行:木】
フゥゥゥゥ………………。
周囲の木々に茂る紅葉だけが揺れ動いて、途端に抜け落ちていく……。
集まりだした木枯らし……。
鋼の中心で廻る楓の陣が、防御シールドを構築。
「――ぐっ、!」
それでも、またも押し返されたドリアン。
ガードが簡単に崩されて、膝を突いて怯んだ彼に――すかさずの蒼。
「瞬爛」 【五行:火】
攻撃が命中する瞬間――ドリアンは一足早く消失……。
ついでに、水の人形の方も効果を終えて雲散霧消。
〔……??!??〕
今度はセンサーからドリアンのオドが消えたことで、アンノウンの方が怯んでいる。
「こっちも、見なよ!
天啓!
ホット・バーニング・スパイシー!」 【五大:火】
味覚刀から激辛の火炎放射。
後方支援をしていたミープは大きく踏み込んで、前に飛び出す。隙ができたアンノウンへと斬りかかった。
〔!!!?!?〕
灼熱の極上の猛火が、アンノウンの肉体を焼いていく。
〔……!!!!〕
「そおぉぉ〜〜れっ!」
ミープは、炎の中にザイルナイフを6挺投げ込んだ。
アンノウンの体にナイフが刺さったことを確認した直後、ミープは手に持つザイルを操作。
〔??!!!〕
燃えるアンノウンはザイルによって引き寄せられ、空中へと無防備で放り出された。
「ムラング!」 【五大:風】
味覚刀から、ふわふわネバネバした卵白のような液体が噴き出て、
〔!?!!?〕
四肢がべちゃべちゃの透明な球体に固められた、珍妙な恰好のアンノウン。
〈狙うは【一点】……!
手筈通り行う!
ミープ、準備はいいな!?〉
光速の回避天啓で身を隠していたドリアンが、タイミングを見計らったかのように姿を現した。
その位置は――アンノウンの真上。
〈覚悟オッケー☆〉
ミープは濃縮無垢なとびきりのウインクで返答。
「………………」
ドリアンは、瞑目……。
「…………!!」
そして――顔の左半分を覆っていた銀色の仮面を脱ぎ捨てた。
妖しく輝く、【金に染まった左目】。
〔!?!?!!??!?〕
アンノウンの左側の胸部に、小さな穴が空いた……。
「今だ、行け!!」
「任された!」
閉じた左目を抑えながら叫ぶ貴公子の指示を受けて、ハンターの少女がムーンサルトで大ジャンプ!
「金沌!
鮪泳!
蟲喰!」
天啓を流れるように連続発動させて。
アンノウンの体内に、1cm未満まで縮小された少女が侵入――
〈慎重に行け!
念の為、作戦以外の行動は取るな!〉
〈分かってる!〉
* * *
そこは――墨よりもドス黒い、無の境地のような空間。
鋼鉄の闇の中に飛び交う火花と、反響する鈍い切断音。
「くらえ、くらえ、くらえ〜〜!」
ミープは味覚刀を振り回して暴れ回っていた。
「腹八分なんて遠慮はいらないよ!
満腹になるまで味わって!」
ウオオオ……。
味覚刀も彼女に応えて覚醒。
「そりゃ、そりゃ、そりゃああ〜〜!!」
モグラの穴掘りのような勢いで、体内をゴリゴリと切断しながら食い荒らしていき……。
と、その時――
「……ウ、エエエエエエ……ッッ!!」
両サイドからの、弾力ある肉壁プレス。
ハエトリグモのように小さなミープの体は、首は、顔はぺしゃんこに押し潰された。
(このアンノウン……あの、お化けバグよりも……強――)
瞬時に潰れた彼女は、あっけなく破裂。
マスター賢者のミープは、今この瞬間――正式に死亡した……。
* * *
「な〜んちゃって♪
蟲喰!」 【五行:木】
細胞すら残らず爆ぜたはずのミープの小さな体が、ビデオの巻き戻しのように再生された。
「何度殺しても無駄だよ!」
リミース島でのあの一件。
死の淵にいたミープを救った、辰砂の奇跡。
あれから賢者庁で入念な検査をした結果――ミープは【死】という概念を殺されたことが発覚。
今の彼女は、命を落としても、すぐに五体満足で復活する。
【完全な生】を永劫に享受し続ける異次元の存在。天啓の使用回数も復活の度に全回復する仕様。
「このサイズなら、切る面積が少なくて助かる!」
つまり――アンノウンが賢者達に放った先のカウンターアタックによる誰かの痛々しい断末魔は、ミープの声だった。
あの時、ドリアンが賢者達の守護をするよりも早く参入したミープ。
放たれたカウンターの範囲がまだ広がる前に、その大半を一身に受けて命を落とし、また再誕したのである。
ドリアンが数百にも渡って斬り裂いたカウンターの光は、あくまでもミープが防ぎきれなかった一部だったのである。
死者を復活させるのではなく、死にかけていた者を死なない生物に再誕させる――それが、辰砂が偶然起こした奇跡の真実。
「……オブエッ!!」
アンノウンのあがきによる体内操作。
発生した肉の波。
潰されたミープは、再び命を落とす。
「蟲喰!
蟲喰!
蟲喰!
蟲喰!」
潰されて死亡し、また復活して体内を掘り進め、また潰されて死亡し……それを何度も、何度も繰り返して……。
「これが、ワタシの刃物さばき――!!」
彼女の執念の行動がようやく実を結んで。
アンノウンの胸部――紅く煌々と輝く宝玉が埋め込まれた皮を食い破り、かっさばき…………。
* * *
アンノウンを形成するための宝玉は、見事に日向と空の下に引きずり出された。
「……!」
〈リーさん!
エロ長官の話なら、これが弱点だと思う!
思いっきりぶっ飛ばして、壊しちゃって!!〉
外で警戒態勢を維持していたドリアン。
彼の金色の左目に浮かぶ妖しげなゲージが、満タン表示で点滅。
(あれは……まさか、【賢者の石】……なのか!?
それを破壊しろという作戦……本当に救えるんだろうな!?)
ルドメイシティで戦ったアンノウン――キッドバグの能力で、ドリアンは顔の左半分を失った。
しかし――彼の堕ちた左目は、戦闘が終わった後もまだ現場に残っていた。
キッドバグの能力を浴びて、金色に焼けた状態で……。
その左目を義眼に組み込み、そこにルードゥスの錬金術や再生医療などの諸々の合成を加えた結果――奇跡的にドリアンは新たな力を獲得。
「……やるしかないか……。
僕の役割を果すんだ……!」
現在のドリアンは――キッドバグと同じように、【左目で見たものを破壊させる】超強力な異能を手にした改造賢者なのである。
故に、複数人での任務は仲間を巻き添えにしたり、暴発するリスクがあるため、不死身であるミープ以外とは共闘ができない。
辰砂の監視という任務を受けていたはずの両者とも――辰砂の力と同じように、【人間】というカテゴリから外れていたのである。
ドリアンとミープは、これから一生――【人外】という烙印を背負って生きていかなければならない……。
それこそが、マインダーに辰砂を発動させてしまった【2人の処罰】だった……(と、始末書10枚)。
「…………!!」
紅の宝玉を捉える射線は、金の隻眼の視線。
リロードは完了している。
(クノ君……無事でいろよ!)
破滅を呼ぶ、水平線の先まで照らす光芒。
狙いは刻まれた辰砂。
第2射が放たれ、爆炎……。




