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1章5話 「天啓指導」



 賢者庁地下20階。


 【トレーニングルーム】と書かれた扉の前。

クノとシノを先導していたレディクの足が止まる。




 レディクはクイクイッと、サムズアップで(うなが)す。


「入って、さっき()()しておいたから。

中で待ってるはずよ」


「え?」


 自動ドアが開いた。

瞬間、花弁と春風がふわっと、顔中に吹き付けてくる。




 暖かい日差しがスーツをすり抜けて、肌の中へ差し込む。

緑豊かで広々とした庭園が広がっていた。





「よう、俺に天啓の使い方を教わりたいようだな!」


 中心にぽつんと生えた細い切り株の上。

会議室での賢者承認試験の場に参加していたあの補佐官が、腕を組んだ雄々(おお)しきフォームで立っていた。



「政府執務室で防衛大臣の補佐官をやってる『ブウェイブ』だ!

他にも賢者のピンチヒッターや、戦闘指南……いわゆる講師もしているがな!」


 クノとシノの技の解説をしていたあの男だ。

彼は会議室での飄々とは打って変わって、爽やかな笑顔でハキハキと自己紹介をしてくる。



「賢者では古株だが、補佐官としては実は1年目!

つまりは、お前達と同じように新米だ!」


 オレンジの金平糖のような、派手に爆発した頭。


 明るい緋色の瞳に日焼けした肌。


 180cm以上はある筋骨隆々なボディ。


 それに、なぜか着用している特攻服。


 これらの特徴はまるで、自らを体育会系の熱血漢だとアピールしているかのようだった。




「この人とは昔から付き合いがあってね。

戦闘のスペシャリストなの。

()()()()退()した私よりも全然頼りになるし、信頼できるわよ」


 レディクは、スタスタと部屋の外へと向かって歩いていく。

自分は参加する気も、見守る気もないようだ。



「「レディクさ――」」


 自動ドアが開き、レディクが境界を超えた瞬間に閉められる。



 本当に彼女は帰ってしまった……。




(………………早い…………)


「相変わらずのクールぶりだな、アイツは。

まぁ、照れ臭くて帰っただけだから、気にせんでくれ。

ああ見えて、熱い血の持ち主なんだ……っと!」


 心細さを和らげるような軽い口調のブウェイブは、切り株からアクロバットな空中縦回転。


 呆けているクノとシノの前に、スマートな躍動(やくどう)で降り立った。




「じゃあ、早速始めるが……準備はいいか?」



 一気に重さを帯びた声。

クノとシノの体がビリビリと強張った。



「「……は、はい、よろしくお願いします!」」


 2人は姿勢と威勢を整えて、息ピッタリの返事をする。




「よし!

まずは目を閉じて、天啓を発動してみろ!」


「「…………天啓!」」


 クノとシノの肉体に宿る、生命エネルギーのオドが(うな)りを上げた。


 地肌にも、目には見えない空気中のエネルギーであるマナが混入。




「…………ぐっ!」


「…………はぁっ!」


 体が途端に、自分じゃなくなったような感覚。

無理矢理何かに動かされているみたいだ。


「苦しいのは承知、そのままその状態を維持するんだ!」





(本当に、苦しい……)


(痛い、キツイ……吐きそう……)




 それから、1分近く経過して。


「今お前達の体で渦を巻くエネルギーは……2種類存在する。

どちらがオドで、どちらがマナなのか……分かるか?」


「分かりませんわ!」


「分かろうとしろ!

ただ自分の体の中だけに、意識を向けるんだ!」


 厳しい言葉とは裏腹に、その声色に冷たさは感じられなかった。





 苦痛に耐えて、ジッと瞑目…………。




「ですが、この痛みの規模は…………エネルギーが何種類もあるようにも……」


「武術の極意は、呼吸による筋肉の連動!

受けた衝撃の吸収、体内エネルギーの操作!

今までの経験でお前達が得た技術を思い出せ!!」


「「!!」」


 2人はその言葉に血路(けつろ)を見出した。




 閉ざされた暗黒の中に身を置き、暴れている自身の内部に意識を集中……




(確かに……わたくしの体を激しく巡っている、この力の感じは……1つじゃないみたい……)


(全く違う構造、別々の原理のモノが、互いに強烈に自己主張をしている……。

だから体に防衛本能が働いて理解をさせないんだ……)


(そして、この感じ……)


(大別すると……血が(たぎ)る感覚と、限界まで深呼吸した感覚……。

それだけに終着していく……)


(オドは元々、その身に宿っていたもの。

だから、まだ体に馴染み苦痛が少ない方の感覚がオド……)


(ならば、その逆が……マナ!)





 心の中に、晴れ渡る青空。


 一気に視界が開けたように、先程までの痛みや雑念が消え去っていく……。





 元々オドの制御技術に関しては、D機関での(拷問と虐待という名の)訓練により確立されていた。


 呼吸と瞑想からの、筋肉の収縮と膨張に対する体の連動。

体内に宿る生命エネルギーを、自分の望む方向へと自在に行き渡らせる。


 ならば、オドが高濃度になろうとやることは同じ。

マナに対しても、オドの配分を認識しながら応用すればいいだけのこと。




「流石だな、もう真理に一歩近づいたか。

やはり……」


 ブウェイブは神妙(しんみょう)な顔つきで何かを呟いたが、すぐに先生モードに戻る。




「こっからが大事だ、よく聞いて覚えろ!」


「「は、はい!」」


「天啓は【五行(ごぎょう)の法則】または【五大元素(ごだいげんそ)の法則】が作用して放たれる!

()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()によるものだ!

この基本法則の応用と、今の実践を駆使すれば、天啓発動で生じる強烈な反動を無効化することが可能だ!」


(そんなの、初耳!)


(何故、これを説明しなかった!?)


 クノとシノは衝撃の事実に唖然(あぜん)とする。

前回のは何だったのだろう……。



「お前達はオドとマナがまだ活性化されている状態だ。

試しに、お前達が前回使用した天啓を使ってみろ!

一度使った天啓は脳内にアーカイブとして残るから、意識しただけで素早く発動が出来る!」


 2人は言われた通りに、前回自分達を悲惨な目に遭わせた、()まわしい異能をイメージ。




陽鏡(ようきょう)!」 【()


「ルネス!」 【(みず)


 天啓の技名が自然と出てしまう。

天啓のトリガーとなる言霊――ロゴスが技の出力を得るためにそうさせているのだ。



「オドとマナの違いを理解した今のお前達なら、それぞれの天啓にどちらの力が中心となっているのかが分かるはずだ!

そして、中心とされなかったもう片方の力を体外に(まと)うように移すことで、天啓の反動を抑えられる!」


(そうか……つまり。

この感覚、ぼくが発動している天啓は……オドを中心としている五行の天啓!

だから――もう1つの力であるマナを、体内のエネルギー操作で外に纏えば、反動を無効化できる!!)




「よし!

お前達の天啓を、あの遠くの的に目掛けて全力で放て!

反動を抑えるのを忘れるなよ!」


 ブウェイブが勢いよく指を差した方向には、遠方に(そび)え立つ巨木。

幹の中心に、赤い◎が手書き感満載で描かれていた。




「「はあああああ!!」」


 痛みも反動もなく体にしっかりと馴染んだ感覚の天啓。

明らかに前回以上に使いやすく、威力の向上も感じられた。




 (まばゆ)い太陽の光線と、海賊を彷彿(ほうふつ)とさせるドクロは、巨木に一直線に向かい、◎へと……。





「「…………あ…………」」


 激しい二つのエネルギーが衝突。

◎の直前でお互いの放った天啓がぶつかったため、見事なまでに惜しくも、天啓同士は相殺(そうさい)されて失敗に終わってしまった。




「ごめんなさい、兄さん……」


「いえ、放つ際にぼくの軸が合っていなかった……。

ぼくの責任です」




「やるじゃないか、流石飲み込みが早いな」


 責任を感じ合う2人の肩に、大きくて力強くも暖かく、懇篤(こんとく)な手のひらが乗せられた。


 振り返ると、ブウェイブが()()()()()()()()でこちらを見下ろしていた。



「俺が教えた()()の中では、この領域に最速で到達したのは、最年少であるお前達だ!

その才能と努力……お前達はそんなに誇りたくないかもしれんが、使い方次第で人も世界も味方してくれる!

それを忘れるなよ!」


「「は……は、はい!」」



 褒められたことが嬉しかったわけではない。




 ただ、ブウェイブからの言葉も()()だった。


 口先だけの肯定か、偽りのない肯定なのかは、表情や声色、言葉そのもので察することはできる。

本部の()()()()は前者だが、ベルウィン、レディク、ブウェイブにおいては後者だった。



 ここには信用に値する人間がどれだけいるのかと思えば、



(もしかして……いい人って結構いる?)




「今日はもう遅い!

一日中翻弄(ほんろう)されまくって疲れただろ!

明日は仮にバグが出ても、お前達が出撃しなくていいように俺の方から手を回しておく。

ゆっくり休んでから、明日またここに来い!

天啓について他にも重要な話があるし、バグのことでも知りたいことがあるだろう!」




 クノとシノが賢者になった日。


 それは初めて()()されて、()になれた日だった。





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