3章6話 「クノVS.アルシン③ ~どちらが倒れるか~」
「……はぁ、はぁ、はぁ…………」
「…………くそっ、」
クノとアルシンは守人の里の林に落下した。
クノの意識が朦朧とふらつく。彼に抑え込まれるアルシンはミント色に輝いている。
「……やろぉ……!
おれは……まだ……」
(焼かれた両目も左腕も、もう回復されている……!)
マエヘススメ……。
「――天啓!
連潰!」 【五行:金】
「…………!!」
あがきを止めないアルシンに、斧を振り下ろすような勢いでの急所部位潰し。回復されているといっても、彼が戦えるだけの体力は残り僅かなのは、一目瞭然だった。
「負けねぇ、負けねぇ、負けねぇ……!!」
無慈悲に降り注ぐ鋼鉄の雨にも屈せずに、アルシンは全身に力を込める。
「水破!」 【五行:水】
「……ッッ!」
真上から、内臓破壊を起こすワンインチの鉄槌で、アルシンの目論見は阻止された。
「――うああああああああああ!!」
それでも彼は止まらなかった。
その左腕が、今までで一番の大きさまで成長。
!!
「……うぐっ!!」
クノは、強引にアルシンから弾かれた。
「…………はぁっ、…………っっ、ぐっっ、うぅっ……!」
クノは全身に衝撃を分散して、ダメージの無効化を試みる。
(……この威力……受けるタイミングがズレていたら、天啓のコンボが途切れていた……)
天啓のコンボはまだ続いている。あと1回は繋げられる。
「………………あああああ!!
痛い、痛い……!!」
しかし、漏れ出してくる苦しみ。
ダメージの無効化は不可能だった。どうにか軽減させられただけで儲け物。
「……っっ……くっ……」
クノを弾いて苦しめたのは――殺人鬼が用いる凶器のように鋭く、悪魔に魂を売ったように残忍な、血塗られた赤い突きだった。
強靭で頑丈なはずのクノの鳩尾には、大きな穴が空いていた……。
「……はあっ、はあっ…………。
どうよ、おれの火力は……?」
観念しないアルシンは立ち上がる。
左腕が更にボコボコと膨張。
何もかもを吐き出すように脈打っていく……。
【源躍流武術】――これまでアルシンが繰り出していた技の正体。
自分の魂やオーラ、意識などを知覚。
それを固形化の後に肉体に直接付加させて、体の一部分を物理的に強化する超技術。
腕の巨大化や、拡張に分裂。魂を使ったバリアやクッションなどの様々な身体変質により、人間を超えた力を得ることができる。
「そしてこれがッッ……!
おれの、全てだアアアアーーーーー!!」
プシュウウウウウウウウウウ………!!
血塗られた手のひらが、ドラゴンの顎を思わせるように大きく開き……。
中心の穴から放出された、最大濃度の毒ガス。
その発射角度は極めて狭く、完全にクノ個人だけに向けられていた。
(!?!?
尻尾も、ライトセイバーも出ない……!
今の一撃を受けたせいだ……踏ん張りも集中力も低下している……!)
その場にただ静止するクノの瞳孔が波打ち――熱を帯びて紅に染まる……。
(――だったら、マイン……!
身体の力を限界以上に引き出せ!!
でないと負ける!!)
サイテキナノハ。
「天啓……!
根枝!!」 【五行:木】
クノ専用のこの天啓は、無防備なまでに直立不動の体勢でないと満足な効果を得られず、不発に終わりやすい。
「………………」
クノに襲いかかる毒が光の粒子と化した。
シュウウウウウウウゥゥゥゥゥ…………。
そして、彼の体内を強化する源として吸収されていく。
「な、なに……!?」
(防御カウンター特化の特性を活かした天啓に、マインのエネルギーをフルで上乗せすれば……!!
万物を殺す毒だって……!!)
自分の真なる全力を覆されたアルシンは、動揺を隠せなかった。
「…………ぜぇっ、…………どうです……?
ぼくも……あなたの本気を、奪わせていただきました……!」
溜まる唾を吐き捨て。
クノはすかさずにアルシンへとダッシュ。
「……く、やってくれたな……!
こうも簡単に……!」
アルシンは舌打ち混じりに反撃の構えに入る。
(――だがな!
あんたの軌道も、速度も、出す技も、タイミングも全て……簡単に読めてんだよ!
返り討ちにしてやる!!)
この劣勢でアルシンヘ囁いた――【真理把握】の力。
【クノは戦いの最初に生じたクロスカウンターを避けるために、頭だけをそらしてパンチを打ち込んでくる】。
ならば、そのタイミングに合わせてこちらが攻撃し、クノが怯んだ隙に一気に畳み掛ければ、形勢を変えられる。
これこそが逆転の一手。
(来いよ……!!
おれの間合いに、入って来い……!
トドメを刺そうとしろよ……!)
ブレなくキレのあるフォームで、アルシンヘまっすぐに伸びてきた――クノの右拳。
(今だ、盤上をひっくり返す……!)
キキキキィィィィィ……!!
突然の甲高い摩擦音。
「……がはっ、」
先程のダメージが尚も応えているのか、クノは穴の空いた鳩尾を押さえてスリップし、そのステップをストップさせた。
「!?」
偶然にも、クノがそらしたのは頭ではなくタイミングとなった。
それによって反撃が空振りしたアルシンの体幹が、僅か数10cmブレた。
もし相手が一般人であるのなら、そのブレは取るに足らない微々たるもの。
だがアルシンが今対面している者は、多くの武術を身につけ、幾つもの死線を潜り抜けてきた少年。
すなわち。
アルシンの犯したミス。
それはまさに――対面者にとって絶好の綻びだった。
「!」
そのチャンスを、クノは今度こそ逃さなかった――
「……むぐううぅぅ…………っっっ!!」
正中線を駆ける一撃が、宙をすり抜けて貫通。
黒い仮面は砕け、人中に絶大なインパクトが巡った。
「……最高濃度の毒……パワーだけお返しします!!」
毒の性質ではなく、毒の威力だけを取り込んだ渾身のストレートリード。綻びをふんだんに利用して、きっちりとクロスカウンターも防いでいる。
(コイツ……!!
運に助けられやがって……!!)
アルシンは自身の生気をミント色にして操ることで、傷の姑息療法を可能としている。エクラシーから教わった源躍流の一端。
それでも、疲労は治すことができず、治癒に使う体力自体が既に尽きていた。
(まだ、まだ……!!
こんな負け方、認めねぇ!!)
「辰砂さんの完全な力……!
姉さんの新作……!!
……シノの、無念……!!
ぼくの軌跡と思い……!!
全てをこの体重に加え、奇跡に変えて解き放つ!!」
イザナギ改の後部から、視認不能なマナエンジンの噴射。繰り出したクノの拳に、最高級のブーストがかけられた。
沸騰したやかんのように、マナが外にあふれ出していく……。
ポンプのように押し出されてたぎるオドが、身体中に満ちて……。
「負けて、たまるか……!
負けて……たまるか!!」
「…………!!」
マインの反動と、アルシンの火事場の反撃。
クノの瞳に映る景色が歪んだ。鮮血が噴き出して、火山の噴火のように周辺に飛散する。
「おれは……!
おれだって、5年半も!
あんたらの忠告を無視した責任を取るために!
おれなりに考えて!
おれの道を進んで!」
湾曲して伸び、押し寄せる赤黒い左手。
「ファムのことだけ考えて!
あんたらが育ったクソみてぇなこの場所で過ごして!
奴らの言うことを聞いて!
あらゆる地獄を超えてきたんだ!
そう簡単に、終われないんだよォォォォ……!!」
ザクザクザクザクザクザク……!!
烈火の如く疾る爪。
幾つもの凄惨な傷のアートが、クノの顔に書き殴られ続けていく。
「うおおおおおおおああアアアアアァァァッッ!!」
クノの焦点は、すっかり昇天してしまっていた。
クノも限界が近い。アルシンの必死の抵抗を受け続けながらも、最後の一撃に全てを込めている。
この勝負の行方は、どちらが倒れるのが先か――それで決まる。
「勝つのは――」
「みんなを救うのは――」
互いに無意識に飛び出す言葉。
「「ぼく(おれ)だあああアアアアアーーーー!!」」
そして、遂に――
「…………グアッッ!」
地に崩れ落ちた少年。
彼の頭の上を抑え付けていたのは、自分の体重の5倍を超える質量の異物だった……。




