3章5話 「クノVS.アルシン② ~殴り合い語り合い~」
戦闘が開始してから、かれこれ1時間余りが経過。
ハイスピードの二重螺旋は、回数を計測できない程に交錯を続けていた。
縦横無尽にグリグリと動く螺旋の速度は鈍ることなく、むしろ時間が経つ度に軌道も鼓動も過激になっていく……。
(しぶとい、コイツ……!
毒を出す暇がねぇ……!
仮にあったとしても……体力の消耗で威力が落ちた劣化品になっちまう……!)
(手を緩めるな……!
ドリアンさんのスピードを思い出せ!
シノのように、速く!
2人のように速く攻撃を繰り出し続けろ!
……ぼくは……勝って取り戻すんだ……!!)
とはいえ、螺旋の中にいる瞳を紅く充血させた当事者両名の体力は、確実に低下していた。
互いに全力以上……全霊以上で、肉体が爆ぜても構わないと言わんが如くに激突し合っていたからである。
しかし……これだけの激しい乱闘をして、終いにはボヤ騒ぎまで起こしていながらも、塔の中にいる機関の人間は誰も駆けつけてこない。クノがアルシンを始末する光景を、内部の安全圏から観察しているのだろう。
(絶対にシノを……取り戻す……!
そのために……前へ……前へ……前へ……!!)
己を鼓舞して鞭打ち、戦意を保ち続けようとするクノの視界が歪んだ。
マエヘススメ……。
「…………!?」
感覚が明後日に飛んで失神しそうになった。
この戦闘中、肉体とマインを酷使し過ぎた結果だ。
自分に言い聞かせる言葉だけが一人先行して、それに引っ張られるように体が動いている。
「…………っ、!!
限界に、マ……K、る・KUAアアアァァッッ!!」
(~~~~~っっっ、!!)
至近距離でのラリった咆哮。
アルシンは耳鳴りを起こした。緩んだ軌道の隙間に潜り込んできた貫手が、彼の脇腹に直撃。
「――ぐおお……っ……!!」
「あなたは!
ファムさんの!
マイン能力で!
この世に再誕することが!
できたと!
聞きました!
そして!
そのファムさん自身を!
蘇らせるために!
あなたは!
ぼく達の辰砂を!
欲している……!」
アルシンが身に纏う、漆黒の鎧と仮面の至る所。
区切られた言霊に乗せられた重い衝撃が、何発も打ち込まれていく……。
「ですが!
あなたなら!
分かるはず……です!!」
「……ぶっ……!」
アッパーカットを顎に受けたアルシンは、ゆっくりと宙を舞って背中から不時着。
「ぼく達の辰砂の力では……死亡した人間を蘇生させることはできない……。
それができるのは、あくまでファムさんの――」
「――そうじゃ……ねぇっ!!」
「うっ……!」
即座にリカバリーしたアルシンの反撃。お返しとばかりに、クノの顎に左フックをぶち込んできた。
「確かに!
おれ達の、辰砂とマインでは!
死者を蘇らせることは!
不可能だ……!
だからおれは!
辰砂を!
【素材】として!
使うんだよぉぉ!」
これまた張り合うような反撃。
クノの上半身の節々を左手のみで殴り続けるアルシン。
クノに触発されたのか、遂にアルシンは、今まで語ろうとしなかった自分の目的に関する単語を出してきた。
「素材……!?」
胸部に強烈な打撃を受けて、クノは地を滑りながら後退させられた。込み上げる胃液と唾を吐き捨てつつ、受け身を取る。
「ファムがいる死の世界の扉を開くための【鍵】……!
おれとファム、あんたと妹……!
4つの辰砂があれば!
それを……作れるんだアアーーーッ!!」
拳の嵐、雨霰が今度はクノの顔面に襲いかかる。
「……ファムは、まだあっち側で独りぼっちだ……。
こうなったのは、全部おれのせいだ……!
だから、おれの手で助けなきゃならねぇ!!」
「…………だからって、」
しっかりと見切ったクノは、針の穴のように小さな隙の瞬間を逃さなかった。
あえて体をゼロ距離まで接触させて、懐に潜り込み……アルシンの右腕を掴んで、
「……な!」
関節を捻って投げ飛ばし、地面に叩きつけた。
「ぼくとシノを殺す理由がどこにあるんですか!?
始めから、ファムさんを救うために協力してくれって!
そう言ってくれたのなら、ぼく達の辰砂で一緒にできた――」
「あんたらの協力なんているかよ!
あんたらは辰砂を持つべきじゃねぇんだ……!
あれを手にするのは、おれだけでいい!!
だから、辰砂を奪うためにあんたらを殺さなきゃならねぇ……!!」
仮面から露出している決意の瞳が、年齢相応のあどけなさに変貌し、空の下のクノを真っ直ぐに見上げてくる。
「…………!」
彼は一滴の大粒の雫を、空へと飛ばした。
「…………アルシンさん……。
あなたは……」
「それに……おれが選択したこのやり方なら、全てが上手くいく……!!
これは確信だ!!」
「!」
クノは、再び力を入れてきたアルシンが起き上がれないように、V1アームロックで強く押さえ付ける。
「……こ、この……!」
「全てが上手くいくだって!?
善良な人間を殺すやり方の、どこが!?」
クノはマインのエネルギーを展開――純粋な質量に変換し、アルシンの左腕を重力で押し潰した。
「その殺す善良な人間だって、最終的には助かる!!」
発生させた重力の塊は、尚も力を増し続けるアルシンの左腕によってはね返されてしまった。
(捻挫させたというのに……彼のパワーはまだ湧き上がってくる……!)
吹き飛ばされたクノへ飛び付いたアルシン。
クノの髪の毛を掴んで一頻り引っ張った後、鬼のような投擲で彼を場外へと追いやった。
「――うわあっ!!」
「…………死の世界に行くことができれば……!
ファムも、殺したあんたの妹も、今から殺すあんたも……!
全員をそこから連れ出して、生き返らせることができる……!!
つまり、あんたらは鍵を作るために!
一時的に死んでもらうに過ぎないんだよ!」
高度350mから地上へと落下していくクノに、アルシンの容赦のない追い打ち。
「……ウグゥッッ……!!」
顔に引っかいてきたり。
耳を引きちぎらんばかりにつねってきたり。
鼻を潰そうとしてきたり。
首に噛みついたり。
もはやアルシンは何でもあり。
「グゥゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ…………!!」
あまりの痛みに――クノは初めて泣き叫んだ。
消滅していく体力。
断末魔に等しい悲鳴。
「これで納得しろ!
すぐにあんたらは生き返る!
だから、今はおとなしく……死んでくれェェ!!」
落下中のクノを無遠慮にタコ殴り。急所を狙って地獄突きや金的まで繰り出してきた。
「…………、っ、!!」
だが、甘い――
「……はぁ……はぁ…………。
真理把握ではないけど……あなたの言葉に嘘はない……。
それは分かるし……ぼくもシノを助けたい……ファムさんだって。
……だけど、」
「!?」
「ゴフッ……!
――あなたのやり方をぼくは認めない!」
おびただしいアルシンの攻撃に耐えきったクノの応酬。血を吐きながらも、彼の顔面に一撃。
「人を殺したあなたに、ぼくとシノの命を背負わせる気はありません!!
そんなやり方じゃ、ファムさんも救えるはずがない!」
「……るせぇよ!
じゃあ、あんたは他にやり方を示せるのか!?」
「知りませんよ!
でもぼくは……犠牲を出さないやり方を探します!
そして、あなたはぼくに協力してもらいます!」
「断る!
第一ねーんだよ、んな都合のいいやり方!」
「なかったら、作ればいい!」
「そんな時間ない!」
「だから、協力しようって言ってるじゃないですか!」
「あんた1人が増えたところで、何ができる!?」
「あなたが暴走しそうになった時……それを止めて正すことはできます!」
「優等生ぶりやがって!
辰砂はおれだけでいいって言っただろ!」
「よくない!
辰砂は人を助けるための力……失うわけにはいきません!」
「いいんだ!」
「よくありません!」
「いいんだって!」
「よくないんですって!」
2人は空中で殴り合いながら、平行線を走り続ける。
少年達にとって、同性の同年代とこのようなやり取りは初体験だった。
…………やがて、
「分からず屋!」
「――!?」
アルシンの胴体に巻き付けられた、枝分かれする緋色の尻尾。
途端にアルシンの体が勝手に動き出し、クノがいた位置と入れ替わる。まるでシーソーのように。
(尻尾で自分の方におれを引き寄せて落とし……その反動で自分は上昇だと……!)
立場が逆転したアルシンに迫るのは――拳ではなく、剣だった。
刀身を照らす青い人魂のような焔が、幾つもの点と線――星座のアートを描いている。
アルシンはゴム状に変化させた魂のカケラを後方にセット。自分を引っ張って、降下速度を速めた。
「逃がさない……慈炎怒!」 【五行:火】
風を切って飛んできた――1本の線。
「…………!!」
クノが放つ、燃え盛る貫手。
標的は――晒されている双眸。
視力のないバグには効果のない、フィンガージャブによる目つぶし。
だが、相手が人間ならば――
「――ぐわああああ!」
目玉焼きをくらったアルシン。
眼球はどうあがいても鍛えることはできない。
(あなたが何でもしてくるのであれば……こちらも容赦はしない!!)
続けざまに、ライトセイバーで彼の左腕への高熱斬撃。
BURRRRRRRRRRRRN!!
「が、ああああああああ…………!!」
その途端に、レディクとの戦闘の時に生じた大爆発の再現。
「…………」
クノは瞬時に出現させた尻尾の反発で、完全に爆発から退避していた。
(【ヤバイ】……そう言っていた……。
やはり、彼は火に……)
自分を中心に起こった爆発をモロに受けたアルシン。
彼の星が――大きく傾いた。
「これで本当に、ジ・エンドです……!
天啓!
環掘!」 【五行:土】
クノは劣勢に落ちて爆炎に包まれるアルシンを、絶大な筋肉で掴み取った。
「!?」
(真下の空を掘り進め、地上の土へと押し倒す!)
発光するクノは、銅牆鉄壁なダイブから、そのまま陸を目指して降りていく。
さながら衝撃のベールを纏って落下する隕石のよう。
「………………ぐっ、うああああああ…………!!」




