3章4話 「クノVS.アルシン① ~拮抗~」
「アルシン……さん……」
「この前は変な女の邪魔が入ったが、今日はそうはいかねぇよ」
天の彼方。一面は全て青空。
グラウンドのような広さのD機関の最頂。
2人の少年は縁に仁王立ち、腕を組んでジッと向かい合う。両者の間は僅か3m。
「あなたがそのうちここに来ることは、あの方々に予測されていましたが……本当にやって来るとは……」
「とっとと用事済ませて、行かなきゃなんねぇ場所があんだ。
手段選んでる余裕はねぇ」
「とはいえ、よく外からここまで登ってきましたね」
「違ぇよ。
里の敷地に近づいた途端に、機関のヘリに乗せられて、ここまで連れて来られたんだ。
……どうやら、ここの連中は機関を裏切ったこのおれを粛清したいみてーだ。
けれど奴らは、おれを下手に扱えば殺される可能性があると考えた……こっちには強力な毒技もあるしな。
それで、マスター賢者のあんたにおれを倒してもらおうと思ったってわけだ。
互いに機関で育ち、揃って辰砂も持つ者同士……ま、当然かもな」
「……そういうことみたいですね」
「おれにとっても、早くあんたと再会できたから都合がよかったぜ」
クノは自分に湧き上がる闘気を一旦抑え、今最も知りたいことを聞く。
「……シノは……どうしたんですか……?」
「おれが隠してる。
流石元機関の人間……丈夫な身体だ、まだ腐ってねぇよ。
あの露出魔女の術の回復と、ここまで戻るのに手間取ったせいで、辰砂の方はまだ取り出せてねぇが……なっ!」
額から放射線状に噴き出す、紅。
「!!」
超至近距離からの左ストレートが、クノの頭部に直撃。
「…………なに……!?」
アルシンが不意打ちの先制で放った左腕の正拳が、クノの額に吸着させられたかのように、ピッタリと貼り付いて固まった。
「幾らかは事情を聞きました……。
あなたはファムさんを生き返らせたい……その為に辰砂の力を使おうとしているんですよね?」
沈黙……。
「答えてください。
このような行動を取るしかなかった理由を……あなたの口から聞かせてください……」
彼は口を噤むだけ。
「そうですか……なら、」
「!?」
クノの額にチャージされたチャクラが、アルシンを押し返して投げ飛ばす。
「チッ!」
背中に魂のバリアが展開された。
アルシンは空中で慣性制御の後に、受け身を取って着地。
「手荒に聞き出すまで!」
追撃に駆け出したクノの縦拳が、一瞬でアルシンの顔面へと迫る。
「ウラアアッッ!」
「――!」
アルシンの左頬にクノの右手、対してクノの右頬にアルシンの伸びる左手。
クロスカウンター!
(……やはり、彼の力は凄まじい……!
マインを纏わないと、何度も受けきれない……!)
(……コイツ、前よりも遥かに硬い……!
マインも発動しねぇと、ダメージが入りそうにねぇ……!)
互いに人力とは思えない力で交差したインパクト。
周辺の大気が震動。
数瞬、上空に風のドームが形成。
「…………理由を聞いたら……おれを許すのか……!?」
「許しは…………しませんよ、馬鹿っ!」
双方、言霊を発射する唇は切れて、紅いペンキで塗られている。
「~~、そうだよな……ァ!」
アルシンの左腕がドライブ回転。
拳の勢いを強めて、クノをはね飛ばした。
「あんたを殺して辰砂を奪う……それだけ!
おれはケツカッチンだからよ、まどろっこしいのはやめようぜ!!」
目をギラつかせて、露悪的な血相のアルシン。
三点着地で呼吸を整えているクノに狙いを定めて、跳躍――
「おらああああ!!」
「マイン!!」
掛け声が共鳴。
たちまちに服装が変化する両者。
* * *
(やはり……向こうは【マイン】の言霊がなくても発動ができるのか……)
蒼穹で何度も激突し合う、白黒と漆黒の二重螺旋。
(この戦いは、肉体と魂の衝突……。
故に、真理把握や本質の具現化は必要ない……。
それよりも……マインが生み出すパワーと、盾の防御力。
純粋なステータスのみを引き出す……)
「喰らえやーーー!!」
クノの視界いっぱいに――毒ガスのタイフーン。
「ッ、遁駆」 【五行:水】
瞬時に溶ける液体と化して回避行動。
「!!」
アルシンの死角――背骨に向かって裡門頂肘。
「~~っっ、同じ手が通じるかよ、このボケ!」
アルシンはクノの攻撃が命中する直前に、巨大で長大な左腕を振り回してきた。
「天啓!」
クノの行方を遮る壁と化して、どこまでも追ってくる赤黒い左腕。クノも負けじと、繋げた天啓で対抗――
「――アホが!
妹と同じ運命にしてやるぜェェ!」
「……ぐっ……!」
左腕の硬度と膂力は、自然災害規模。天啓発動前に、クノの頭はぶち抜かれ、コンボが途切れた……。
「…………ァ、ッ……」
クノがのけ反っている間に、四方八方が血塗られた魔法の箱になっていた。
(!!
……左腕に、閉じ込められた……!?)
「あばよ」
クノの逃げ道と攻撃を塞いだアルシン。
即座にクノの全方位に展開させた左腕から、再度毒ガスを最大出力で放出。
(こっ、ち……だって!)
どうにかリカバリーが間に合ったクノ。
反射的に身を屈め、全力でマインの尻尾を旋回させて毒を弾き飛ばしていく。
「…………く、ウウウウウゥゥゥゥゥゥ……!」
《万物を殺す絶対の剣――》
そう本人が銘打った毒は――こちらのマインで簡単に対処できる程、甘くはなかった。
気体の量や噴射の勢いもさることながら、毒性そのものが異様なまでに高濃度。それらが絶え間なく至近距離から……。
次第に、戦況が傾いてきた。
このままでは防衛行動も空しく、こちらが毒にやられることは明白。
(さばききれないし、フォームを立て直せない……!
――だったら……っ!)
尻尾の旋回速度を限界突破。
円運動と摩擦で、チカチカと虚空に迸る火花。臀部にエネルギーの渦が即席で拵えられていく。
「でいっ!!」
渦を地に密着させた脚部に移動させて……震脚。
地響きが上がり、足元に亀裂が走った。
「天啓、トゥール!」 【五大:風】
クノの体内から全方位に駆け出す、無数の風の分身。
……が、尻尾の旋回に分身達はあえなく巻き込まれ、ただの風になって散っていく……。
しかし散らされた風達は吹き荒れて、尻尾の旋回を加速させた。吹き飛ばしの勢いが強められ、毒も中和されていく……。
(頭を潰したのに、天啓を平然と使ってやがる!!
いくらマインの盾で耐久を上げているとはいえ……とんでもなく狂った硬さだ……!!)
アルシンの目を見張る驚愕とは裏腹に、クノは万物を殺す毒をあしらえてはいなかった。
限りなく低い前傾姿勢になっている上に、毒ガスの対処で大きな行動が取れない。
現在のクノが出せる天啓は限られていた。その中で血路を開ける技を、5年半の経験から見つけなければならない。
(毒の対処よりも……ここから抜け出すことを考えよう……!!)
刹那、クノは密かに賢者庁から持ち出していたガントレット――【イザナギ改】を一瞥。
イザナギ改には、圧縮された大量のマナが内蔵されている。後部に作られた排気口からマナを外部に放出するとエンジンがかかり、腕の動作速度とパワーを上昇させることができる。
マナの効果を更に大きく引き出せば、攻撃対象の前に障害物があっても、拳だけをすり抜けさせることも可能。
「天啓!
マイム!」 【五大:水】
クノの背後に、青い水の精霊。
《クノ君……》
マナで形成された精霊は、クノの帰りを待つ大切な存在――白と水色の女神装束を纏ったベルウィンの姿に様変わりした。
これは、発動者の脳に介入して記憶を探り、絆の繋がりが深い存在の化身を映して水流を仕掛ける天啓。
《私の力を貸すよ!
負けないで!》
エールをエコーさせる化身。
うねる荒波を発生させながら、前方へと進んでいく……。
「天啓!
ジャッジメント!」 【五大:土】
続いて、2mのゴーレムがクノの背中に出現した。
女神の背を後押しするように振り下ろされた、審判の鉄槌。
ドドオオオオオオオォォォォン!!
だが、アルシンの左腕の箱に風穴を空けることは、未だできない。クノを優に超える強靭な肉体を持つ師匠のブウェイブでないと、その天啓の最大限のパワーを引き出せないのだ。
加えて、アルシンの堅牢な左腕はマナの透過性をも防いでしまった。
「…………天啓、フリューゲル!」 【五大:空】
今放てる技を瞬時に模索していくクノは、諦めずに天啓を繋げる。
両足に翼が生えたクノ。
そのまま地にダイブするように前転。両足に付加された羽ばたきが、回転のパワーを底上げし――
「天啓!
イグニスレオ!」 【五大:火】
そして、翼が真っ赤に燃えた。
クノの足先から――炎を纏った獅子。
「な!?」
不安定な体勢から咄嗟に考えて行き着いた、天啓のコンボ。
両翼による加速力を加えた、前転からの炎の踵落とし。
それは――異次元の浴びせ蹴りへと昇華し、繋げた天啓の〆にふさわしい盛大な一撃が完成した。
「――ヤバイ……!!」
「!?」
アルシンの左腕で噴き出す――熱気。
「!!」
直後――あっという間に爆炎と爆煙。
BURRRRRRRRRRRRN!!
ワンテンポ遅れて、けたたましい破裂音が轟いた……。
* * *
むせ返る黒煙が立ち上る。
(…………おれの左腕と毒を、強引ながらも攻略するとは思わなかったぜ……。
それに、想定以上に異常な硬さ……おれの攻撃力に耐えやがる……。
……ここで修行して何かを掴んだか……?)
(マインをフルに使って、天啓コンボを最大まで繋げて、そこまでやって何とか……彼の攻撃を突破できた……)
煙の中から、顔にススを付けつつも五体満足で箱から抜け出したクノが姿を現した。
向かい側には、明るいグリーンの気を纏った左手で、頭部をさするアルシン。
(改めて思う……コイツは――)
(彼は――)
((強い……!! そして、馬鹿力!!))
睨み合う両者の瞳に、熱き血潮が点火……。
やがて、
ザッ、ザッ……!!
同時に地を蹴る衝撃音。
第2ラウンドのゴングが鳴らされた……。




