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2章24話 「海底洞窟」





 この光なき深淵でも、(まばゆ)いピンクの蛍光色素で立派に存在感を放ち続けるマリア・マリン。


 死へ(いざな)うような暗黒の岩礁(がんしょう)の闇――海底洞窟へと踏み出していく。



〈クリア、この洞窟の中で間違いないんでしょ?〉


 念話もブレインマップも使える元賢者の防衛省――レディクは、昔馴染みのクリアに問う。



〈間違いはありません……〉


〈もう少し正確な座標はないの?

洞窟のどの辺とか……〉


〈すみません……。

その洞窟は未開の地……。

故に地図がないのでこちらからモニターに映せませんし、これ以上の位置情報の観測は困難を極めます……〉


〈わかった、無理言ってごめん。

ありがと〉


〈それと……観測が困難なのは位置情報だけではありません……。

そこが異次元の地故に……次元壁のモニタリングが不安定で……アンノウンの数量も割り出せてません……〉


〈……1体じゃないかもしれないってこと……!?〉


〈はい……その可能性も数値化できませんが……〉



 脳波回線を全開にしていたことにより、念話を聞いていた他の者達も参加してくる。



〈クリアさんがそんな曖昧な発言をするなんて……。

それだけ今回は異質だということなんですね……。

何体もいられては、わたくしもマインを使わなければ――〉


〈何を言っている!

エセ賢者の石の使用など、将来リエント人類を救う真の英雄である僕が許可すると思うたか!〉


〈はいはい、今はあなたに話してないから。

キーキーうるさいお猿さんは、檻の中でジッとしてて〉


〈…………黙れェェ!

天啓を1回使っただけで挫折して賢者庁から逃げた、根性なしの、無能の、猿以下の女狐(めぎつね)が!〉


〈…………ルードゥスさん、夜道には気をつけることね……(笑顔)〉


〈怖いよ、ディンさん!?〉



* * *



 やがて、狭い海の隘路(あいろ)を突き進んだマリア・マリンは、洞窟内の陸地へと顔を出した。


 これ以上先には水の道がないので、徒歩で進むしかなさそうだ。



 3人は一旦マリア・マリンから降りて、洞窟の様子を探る。ライトがなくても十分に視界は確保できるが、奥は闇に包まれている。



「……パッと見は、いかにもコウモリとかが出そうな所ね……」


「生命体が長く生育できるだけの餌や環境が整っているとは思えませんが……」


「そうだね。

酸素はひとまず問題なさそうだけど、何かが潜んでいるような匂いや気配はしない……。

過去に生息していたような痕跡も見当たらない。

鍾乳石(しょうにゅうせき)の劣化具合もあまりないし、まるで最近作られたような……!?」


 

 鼻をヒクヒクさせながら、落石や壁面を検分していたミープが急にハッとした。



「鍾乳石……乳……」


「どうしました……?」


 ミープは首を傾げるシノの耳元で囁いた。




(ち~ちっ)!)


(はい!?)


(大きくしたかったら、ビタミンやたんぱく質が多く含まれてるものを摂ればいいよ!

牛乳、豆乳、卵に大豆とかね☆

女性ホルモンの分泌を促して、胸を大きくしてくれる働きがあるんだよ!)


(あ、あの……)


 食堂の娘である彼女は、栄養素などの知識に詳しいようだが、今その話になってシノは面食らっている。……が、変なタイミングでズレたことを尋ねるシノも人のことは言えない。



(今度、この島の牛乳送ってあげるね☆

さっきみたいに、道端に生えてる草とか、体に悪いの食べてたらダメだからね!)


 ミープが八重歯を光らせて、シノにお姉さんぶっていると、




「――この音は……!?」



 洞窟の奥から土を競り上げて、こちらへと押し寄せてくる衝撃――



「あ、あれは――水……波ッ!?」



 唐突に戦闘開始の合図が鳴らされた。



* * *




「水には水を……フリーズ!」 【五大:水】


 振り上げた足を前方へと伸ばし。


 シノは向かってくる()()の中心に向かって、ミドルキックの姿勢をとる。



 超速の蹴りと大波が、空中でぶつかり合った。


 すると、発生した冷気に乗って波の頂点が凍りつき、そのまま波全体へと氷が伝っていく。




(この波の規模と勢い……天啓1発分で抑えられそうにない……!

ということは……)


 シノの頭に浮かんだことは、ただ1つ。


 これは――自然災害などではないということだ。




「天啓!

アイナ!」 【五大:土】


 跳躍したシノの足に大地の力が宿る。


 運体激浪(うんたいげきろう)飛燕(ひえん)蹴りが氷に触れた途端――足先から生まれた大岩によって、氷の波は瞬く間に粉砕した。



(これは恐らく――()()()()()()()()……!

あの先に、いる……!!)



 流れのままに更に高く跳んだシノは、ぎゅっと固めた右の拳を突き出した。


「天啓!

フエベ!」 【五大:空】


 高度からの超遠距離正拳突きが、真空波を纏って闇の先へと突き進む。




「「「!?」」」


 フエベがかき消えた。


 代わりに、オパールの輝き。

闇の向こうから、ジグザグ軌道による変幻自在の拡散レーザーがこちらに迫ってくる。



 こちらの反撃に対して、相手は負けじと別の技で返してきたのである。



「――ヴェルメリオ!」 【五大:火】


 こちらも別の技で対抗。


 シノの両足が今度は赤く点滅。


 靴のつま先にたなびく、赤インクのような儚い炎。



「ふあああっ!」


 虚空を切り裂く、転体雷動(てんたいらいどう)の火炎宙返り蹴り。


 凝固した円の炎が溶岩のバリアに変形。レーザーを守る傘の役割へと昇華された。



「ミープさん、レディクさん……!」


 それでも、闇からの全方位攻撃を完全にカバーすることはかなわない。



「ワタシ達のことは……心配しないでっ!」


 過剰攻撃に視界が遮られて見えないが、ミープの声がはっきりと聞こえる。



 

「天啓……ヴォルケ!」 【五大:風】


 シノの周辺に出現した大きな雲。


 滞空状態で体を前へ傾ける、変体雲風(へんたいうんぷう)のシノ。

呼応して分散していく雲が、襲いかかるレーザーを包み込み還元。



 レーザーがどんどん吸収され、雲はどんどん広がり、辺りを霧で満たしていき――



* * *



 互いの技の応酬を全て乗り越えたシノは、空中でジャイロキックの連続。


 霧を一気に晴らし、地上に三点着地。



「お二人とも!

ご無事ですか!?」


 肩越しに見ると、ミープが投げナイフを構えてレディクを庇うように立っていた。



「へーきへーき☆

助かったよ、ありがとう!」


「私も大丈夫よ!

2人が守ってくれたから!」


 特に容態に異常のなさそうな2人を確認して、シノは胸を撫で下ろす。





〔………………〕


「――!?」



 いつの間にか、闇の向こうからこちらに攻撃を仕掛けていた存在が姿を現していた。



〔……〕


 首や腕、体の全ての関節があり得ない角度に曲がっている、褐色のからくり人形のような人影。


 黄色の濁った双眸。


 人間なら身長190cmくらいだろう。




「これが、随分なご挨拶をしてくれたアンノウン……」


「やっぱり……アウェイ村の時とも違うやつなのね……」



 ようやく姿を見せたアンノウン―からくりバグは、首を伸ばして上下に反転。オーブの代わりとでも言わんばかりに、胸元の中心へと持ってきた。



「やだ、あの動き……ろくろ首みたい……!!

ワタシ、お化けは苦手の介!」


 生気のない青ざめた顔をしているミープを余所に、


〔!〕


 からくりバグの攻撃。


 その反転している首が更に180度グニャリと柔らかく回転し、右腕の位置まで平行スライド。


 そして、開かれる口元。


 口から放たれたのは、スプリンクラーのように放射された無属性の雨。



「今度はワタシが!」


 すぐに正気に戻ったミープが、シノとレディクの前に駆け出した。

味覚刀(フレード)を器用にヌンチャクのように振り回して、スプリンクラーをさばいていく。



「ノンちゃん、今のうちに攻撃を!

ディンさんは早く潜水艦に避難して!」


「はい……!」


「ごめんなさい、足手まといで……!」



 シノは身を低くして、からくりバグの(ふところ)へとまっしぐらに走る。



〔!?〕


 素早い急接近に虚を()かれたからくりバグは、たじろぐように僅かな後退を見せたが、すぐに伸ばしたその足でシノを踏みつけようと試みる。



(甘い……!)


 シノは更に体勢を低くして攻撃をかいくぐった。


 体を倒して相手の技を回避しつつ、繰り出す攻撃の威力をその勢いで向上させる変技(へんぎ)

極限なまでに低姿勢からの蹴り上げ――卍蹴(まんじげ)りが、からくりバグの胸元に炸裂!



〔……!?〕


(弱点が存在しないアンノウン――この手応え……やはり硬い……!

とにかく攻撃を打ち込むしかないわ……!)



 よろめいたからくりバグに追撃。


 旋回を交えて間合いを一気に詰めた途端に、倒れ込むような低姿勢。

今度はうっとうしく稼動しているその首へと、まっすぐな凶器の蹴り――半月当て。



〔!!!?〕


(その気持ち悪い首……折り砕いてあげる……!)



 シノは殺人級の蹴りをお見舞いした後でも容赦しない。


 加速を付けた側転の後に、地に添えた右手で土を弾いて跳躍。

そのまま振り上げられた両足を、からくりバグの首に挟み込んだ。




「!?」


 捕らえたかと思ったのも束の間。


 からくりバグの首がスルリとシノから抜け出した。



 直後に、シノの鳩尾を狙ってくる両腕――




「ッ!」


 シノは紙一重で回避に成功した。しかし、姿勢バランスを崩して背中を壁面にぶつけ、尻餅をつく。



 その絶好の機会を、からくりバグが見逃すはずもなく……。



〔!!〕


 両手、両足、口……からくりバグの全ての攻撃器官を用いて放たれるハイドロ光線。


(……しくじった!!)



 焦るシノの視界に迫る、高水圧の渦巻き。




「うわあああぁぁぁ…………!」


「ミープさん……!?」


 それに飲み込まれたのは、シノではなかった。



 洞窟の深奥(しんおう)、闇の彼方へと引きずり込まれていくミープ。




(わたくしを庇って……!!)


 悔やんでいる暇はなかった。



「……えっ……!?」


 悔やむ前に、頭の上から足のつま先までも凍りつかせる威光(いこう)が降り注ぐ。




 洞窟の天井に、いきなりのホワイトホール。



 真打ち登場とでも言わんばかりに放出されてきたのは、3m近くはある巨漢の影――




「…………!!」


 シノの全身が恐怖心と絶望で塗りつぶされた。



〔…………〕


 新たなるアンノウン。


 クリアの言っていたように1体だけではなかった。




 現状、1人で2体のアンノウンを相手にしなければならない。



(……勝てるの……今のわたくしに……?)



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