2章23話 「宝探し」
「…………ノンちゃん」
クリアからの念話を聞いたミープは、意を決して息巻いた。
「アンノウンはワタシが!
ノンちゃんは、ジェネラルの相手をお願い!」
「ミープさん…………」
80のジェネラルを倒しても、アンノウンを倒さない限り、島のどこかに発生し続ける。ジェネラルを倒せる人間は確かに島内にはいなければならない。
「いえ、わたくしも行きます……!
アンノウンとの交戦経験が二度もあるのに、行かないわけにはいきませんわ!」
「でも――」
「ジェネラルはおいら達に任せてっす!」
救援として転送されていた賢者の少年2人。
ウォークとレヌンが間に入ってきた。
「……ぼく達、昨日賢者になったばかりだし、天啓だってまだあまり使いこなせていないけど……」
「だけど、バグとは戦えるっす!
いざとなった時は、この身ごと……!」
新米2人の武器は、2回しか使用回数のない天啓のみ。
その内の1回は既に消費されてしまっている上に、関係コンボも彼らは殆ど繋げられない。
「戦闘力は半人前かもしれないけど、戦意だけは一人前のつもりっすから!」
「ぼく達に指示を出して、早くアンノウンの方に行って!」
「君達……」
(知らない間に……わたくしにも後輩の方々ができていたのね……)
〈ジェネラルの発生地点に転送はした、手が空いてくれた賢者10名をね。
他にも派遣する予定だ、空きがあれば。
そっちの方に向かってもらおう、そこの新人2人にも〉
司令のハンディーから、いつものように回りくどい語りの念が飛ばされてきた。
〈もうすぐそちらに到着する、小型シップが。
君達を導いてくれるだろう、海の深淵で眠る闇の宝へと。
急ぎたまえ、浜辺に〉
〈……了解……!〉
力強く返事を飛ばしたミープは、明後日の方向を見つめて叫ぶ。
「おいで、マシュ……!!」
「クルウゥゥゥゥゥゥ!」
甲高い音と共にこちらにマッハで飛来してきたのは、ミープをここまで運んできた虹色の体毛の怪鳥だった。その異様な大きさに反して、飛行速度は途轍もない。
この島にしか生息しない変異生物の一種である鳥類――【嶌】。彼女の名は『マシュ』。
ピィィィィィィィ…………!!
続いて、住宅街の隔壁に反響する波長。ミープの鳴らした指笛に反応して、今度は先程シノが脚に捕まっていた大鷲がやって来た。
「クワァ!」
「よしよし……マシュ、新人君をバグの所まで運んであげて!
前に一緒に遊んだ、東側の険しい崖がある森林の方!
キングは、ワタシとノンちゃんを北側の砂浜の方に……大変だけどお願い……!」
ミープはマシュと大鷲の『キング』の頭を優しく撫でながら、トレーナーのように指示を出していく。
「クルウウゥゥゥゥゥゥ!」
「クエエエエッッ!」
人間の言葉が理解できる程知能が高いのか、それともミープとの間に強い絆があるのか、2羽とも威勢のよい気高い鳴き声を返してくる。
「ありがとう!
新人君達、ジェネラルの方はお願いするけど、前には出過ぎないで!
捨て身もダメだからね!
後方支援や仲間達の補助をメインに動いて!」
「「はい(っす)!」」
「それから……」
捲し立てるように口を動かしていたミープは一旦言葉を切って、背後で見守っていた両親を見やる。
「パパとママは、怪我してる人がいたら第2区画のコンテナ通りに!
防衛省のお姉さんが治療薬を備えて待機してるはずだから!」
「オーケー!
任された!」
「あんたも、シノちゃんも無理しないようにしっかりね!」
ミープは新人への激励、両親への指示まで素早く的確にこなしていた。
(状況整理と行動立案が早い……。
ここが自分の故郷だからなのかもしれないけど、それでもやっぱり、ミープさんはマスター賢者の先輩なんだ……)
シノはミープのことを、始めはどこか頼りなくて緊張感に欠けていると思っていた。
けれども、今はその認識が誤解であり、彼女を見くびっていたのだと感じざるを得なかった。
* * *
キングの両脚に捕まって住宅街を抜け出し、砂浜に到着したシノとミープ。
彼女らを出迎えたのは。
薄暗い夕日の逆光下でもはっきりと分かる程の眩しいショッキングピンク。目がチカチカするまでにビビットな色合い。
小型の丸い水中探査シップが、浅瀬で亀のようにどっしりと佇んでいた。
「――乗って、私が運転するから!」
ウィーンと中央部のハッチが開き、操縦士が顔を出した。
「れ、レディクさん!?」
「ディンさん……その潜水艦の色……ディンさんの趣味?
ちょっとその歳で、キツくな――」
「さっさと乗る!」
ミープが中から出てきたレディクに毒を吐いていると、ピンク髪の彼女は顔を真っピンク、マゼンタにして鼻息荒く吠えた……。
* * *
夕日の光が僅かに差し込む煌びやかなブルーの海。
「うわああーー!
速い、速~い!
波飛沫で全然外が見えな~い!」
5人くらいは乗れそうな水中探査シップ――【マリア・マリン】は、猛烈な速度で海面を驀進。その少し珍妙でガーリッシュな? 外観に反して、やけに漢気あふれた勇ましい轟音を発しながら。
ブレインマップにマーキングされたアンノウンの座標まであっという間に到着した。
「ここから水深400mまで一気に潜水するわ!」
レディクが操縦レバーを動かしているのをシノは何気なく一瞥。
(…………)
外の光景に見惚れているミープも一瞥。
(…………。
でも、……)
他にも何人かの顔が浮かんでくる。
そんなこんなの間に、外の世界に映る光の明度が薄くなっていき、徐々に暗さが増していく。
水深200mを超え、有光層から中深層に入った。
先程までは多くの魚やプランクトン、珊瑚、海藻などがひしめいていたが、今ではそれらは見る影もない。代わりに、ホタルのように妖しく輝くクラゲ達がのんびりと漂っていた。
外からの光は届かず、光の供給源はクラゲとマリア・マリンのライトのみ。温度も急激に低下してきた。艦内の暖房がつけられる。
〈ノ~んちゃん、〉
〈……は、はい……!
何でしょう!?〉
不意の念話に、シノは反射的にミープを見上げる。
ミープはジト~ッと、不審そうな目を向けていた。
〈どうしたの?
また緊張とか焦ってる?〉
〈…………いえ、その、何でもありませんので……〉
取り繕って視線を逸らしたが、ミープは引かずに詰め寄ってきた。
〈嘘〉
〈え……〉
〈何でもない顔じゃないもん。
何かに悩んでる顔。
ワタシでよかったら聞くよ〉
簡単に見透かされていた。明るく無邪気に振る舞っていても、多くの人の内面を考えていたのかもしれない。
〈……申し訳ありません。
任務に関係のない、ただの私情ですので……〉
〈それでも、打ち明けられるものなら話した方がすっきりすると思うな。
私情で任務に支障をきたすことだってあるでしょ?
私情で海で遊んで、ノンちゃんに怒られてるワタシが言っても説得力ないかもしれないけど……☆〉
〈ですが、あまり先輩にこのようなお話も……。
気を遣わせてしまいますし……〉
あまり話したくない内容だったのと、迷惑をかけたくないという思いから拒絶を続けるが、
〈じゃあさ、先輩じゃなくて……【友達】としての話はどう?〉
〈…………え…………〉
その単語はシノが普段耳にしない、けれども頭ではどのようなものか漠然と分かっているものだった。
〈悩みを聞いてくれる友達っていいものだよ!
この島の住人はミンナが家族で、友達みたいなもので……すっごくあったかいんだぁ!
ワタシとノンちゃん、先輩と後輩じゃなくて――友達にならない?〉
今まで、家族はいても、友達はいなかった。
〈わたくしに……お友達など、務まるのでしょうか……?〉
〈ぎこちなくて不器用だったとしても、それも一つの友情の形だと思う!
だから全然おかしくないよ、これからもっと絆を育んでいけばいいしね!
ワタシは――ノンちゃんとお友達になりたいな!
その方が、ノンちゃんともっと仲良くなれそうだし!〉
………………。
「……分かりましたわ……。
ミープさん、お友達としてご相談があるのですが」
シノは念話ではなく、自分自身の生の声で思いを打ち明けることを決心した。
「…………うんっ!
なになに、何でも言って!」
お互いの関係が一歩前進。ミープは瞳を感激で潤ませながら答えた。
「――どうしたら胸部が大きくなるのか教えてください!」
「ズコォ!」
「ブウウウッッ!!」
想定外の返しに、仰天のミープは座席から転落。
それを聞いていた操縦士のレディクは昔のデジャヴを感じながらも、盛大に唾を正面モニターに吹き飛ばしていた。
* * *
「ここら辺の海溝は、最大で水深4000mくらいあるみたいね」
「じゃあ、更に10倍の下に行けるってこと!?
もうこの時点で、生身で海面までたどり着けないくらいなのに~!」
アンノウン観測地点から寸分違わない水深400mまで到達。
マリア・マリンの中にいても感じる、外の異様な邪気とでもいうべきおぞましさ。光なく生物もなく周囲にはただただ闇が広がっている。
そして――マリア・マリンのライトが照らし出した前方には…………。
この島出身のミープでも知らない、隠された秘密の墓場――【海底洞窟】。




