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2章22話 「無限オーダー」




 黄昏(たそがれ)空が生み出す闇を帯びた(あかね)


 木々、岩肌、砂の道に、一日が終わる影の陰と明日へと繋げる光の陽が同時に差し込まれていく。



 島の全地区に鳴り渡る電脳の時の報せが、18時を告げた。




〔……〕


〔……〕


〔……〕


 ビーチ一帯にわらわらと出現する漆黒とモノクロの集団。



「コモンのこの数、おまけにその3倍のハードタイプ……」


 前方を何列にも並んで埋め尽くす80体のバグの大軍と、それらに相対するシノとミープ。



「いつもこの島には、コモンタイプしか出ないのに……。

それに多くても()()()()だったし……」


「えっ、コモンだけ?

しかも、そんなに少ないんですか?

てっきり、1079回も数十体の色んな種類のバグが発生していたのだと……」


「ミンナそう思うでしょ?

だから外のお客さんが来ないの……がっくし……。

けど、コモンがたかだか3体なら強い民間の人でも倒すことはできる。

まぁ、油断したらぽっくりだから、やっぱり賢者がいた方がいいんだけど……。

ま、とりあえず前座(オードブル)は早めに平らげちゃお!」



 ミープは先手必勝とばかりに、夕日をバックにジャンプ!

 



「ノンちゃん!

合図するまで見学してて!」


 ミープはすかさずに背中の山刀(さんとう)を抜刀。

刀身が湾曲したシミターのような刀で、茜の宙を()ぐ。



〔〔〔!!!〕〕〕


 斬撃の軌跡(きせき)に添加された、可視化できる程に極彩色を放って(はし)奇跡(きせき)


 ハードタイプ数体の小さなオドを的確に貫通して、塵に変えていく……。



「まだまだっ!」


 追撃。バグの群れの隙間を縫うように飛翔し、螺旋(らせん)を描く連続切り。



「ワタシの攻撃(ちょうり)、存分に味わって♪」


 夕日に染まる砂浜を気持ちよさそうに駆けて。


 時に地をはね回りながら攻撃を繰り出していく様は、愛くるしいうさぎか、おとぎ話に出てくる妖精のようだった。




 正面。側面。背面。


 上から。斜めから。逆さまの体勢から。


 側宙――エアリアル。横宙返り――サイドフリップ。


 オドセンサーを攪乱(かくらん)する翻弄のムーブに、バグ達のオーブが次々と壊されていく。




「すごい……」


 一見では、ふざけて遊んでいるような無駄の多い動作。


 しかし、手練(てだ)れの人間でも軌道が易々と読めない動き。


 地上と空中――フィールド全体を制圧する戦い方。


 相手に自分の姿を掴ませず、捉えられたとしてもその瞬間には相手の捕捉から抜け出して、急所を砕いてしまっている。



「トリッキング……いえ、パルクール……?

わたくしの動きに近い……」


 彼女の動きを自分の戦法や技に取り入れられたのならば――




「ノンちゃん!

仕上げのスパイス、行くよ!!」


「――!?」


 見惚れている間に面前に迫っていた、エネルギーの塊。



「!」


 本能でシノは身を屈めて回避行動。



(違う、これは――連携の合図!)


 刹那の倒立姿勢から跳躍。からの横に180度スピン。



 エネルギーを蹴り返そうと、大きく振り上げる左足。


 しかし足の振り上げがギリギリ間に合わずに、エネルギーが足先を通り過ぎていく。



(まだ!)


 左足を咄嗟に引っ込めて、その反動を利用して逆に右足を持ち上げて――



「行け!」


 打撃位置の誤差を瞬時に修正――渾身の右足でのインパクト!



「ノンちゃん、辛口でお願い!」


「はああああっっ!!」


 空中で自転車を漕ぐような足の動作をもって、蹴り返されたエネルギー。



〔〔〔…………!!!!〕〕〕


 バイシクルシュートで速度と威力が膨れ上がったエネルギーは、前方でミープに必死に攻撃を与えようとしている残り全てのバグを飲み込んだのだった……。




* * *



「ありがと、ノンちゃん!

美味しくできたね!」


 一瞬にして、ビーチにいるのはシノとミープだけになった。



「……天啓なしで大量のバグを片付ける……。

わたくし達にとって難しいことではありませんが、一気に60体あまりのあの数を…………!?」


 ミープが持つ山刀にシノの目が移った。


 いつの間にか、その刀身が全く別のものに変化していた。



「……あ、もしかしてコレ?」


 シノの怪訝(けげん)な視線に気づいたミープは、山刀の刃先を撫でる。


 その刃先は、(はさみ)のように割れて分割していた。


「フレーバーブレード――【味覚刀フレード】。

切ったバグの情報を食し、(かて)にして成長していくの。

糧が一定まで溜まると刀身がクパアッと割れて、さっきみたいに刺激的な一撃が飛び出すって仕組み!」



 ゴフゥ……。



 渋いげっぷが味覚刀から聞こえてきた。


 途端に分割していた刃が繋がれていく。



「でもこの子、すぐお腹すいちゃうみたいで、周りにバグがいなくなると成長がリセットされちゃうんだよね。

けど、ワタシは天啓が()()()しか使えないから、この子の秘密兵器(かくしあじ)に助けてもらってるって感じかな!」


 天啓を3回以上使えることがマスター賢者である条件の1つ。


 ミープはマスター賢者になった際に、早速マスターの権限を行使。

自身の火力不足を補うための特殊な機能を持つ武器を技師に作らせて、その結果味覚刀が生まれたのである。




〈お話中のところ……申し訳ありませんが……〉


 言葉通りにボソボソと控えめながらも、空気を読まない感じの念。


 クリアからだ。



〈どうしたんですか?

もしかして、遂にアンノウンが来た?〉


〈来ました……()()が……〉


〈バグって……だからアンノウンのことじゃ――〉


()()()()()のバグです……。

()()()()()()()()()()()()のバグが……住宅街の方に……〉


〈え……〉



 こちらを戦慄(せんりつ)させるには十分な旋律(せんりつ)


 覇気(はき)がないながらも強張った念が、脳全体に響き渡った……。




* * *




「アアアア!!

い、イタイ、アアアアアア……!!」


 悶絶して転げ回る男性。



〔……〕


〔……〕


〔……〕



 見上げる先には、黒と白黒の無数の脅威。



「ひっ……!」


 太股(ふともも)から噴き出す鮮血。


 相手のチェーンソーのような腕が掠ってしまった。



「聞いてない、こんなの……聞いてない!!

現れる場所も違う!!」


 いつもはコモンタイプが3体だけだった。

身を隠すか、避難するか、自動消滅するまで逃げればよかった。




 それなのに……。




「今助ける!」


 男性の背後からお馴染みの大声が飛んできた。



 そして、あやとりのように複雑に入り組んだ太いワイヤーが付近一帯に張り巡らされた。



〔〔〔…………!?!?!?〕〕〕


 ワイヤーの中に捕らえられたバグ達は、たちまち電気の嵐に包まれる。




「大丈夫?」


「我々が引き受ける!

逃げてくれ!」


「……すみません……っ!」


 駆けつけてきたのは――食堂フェリス・プロパイドを営む夫婦。

筋骨隆々の大男タキオと、無駄のないスポーティ体型の女性マレット。




「行くわよ、パパ!」


 マレットが構えた猟銃から射出されるクナイ。



「ふぬああっっ!」


 タキオは毒針を指と指の間に仕込んだ上での正拳突きと、気を飛ばす神速の暗殺拳。




「あの白黒が、硬いとうわさのハードタイプか……。

コモンに比べてこちらの攻撃が効いてないようだ」


「数が多くてもコモンなら倒せる。

でもハードは、経験も天啓も賢者用の武器もない私達じゃ厳しいわね……」



 2人とも、コモンタイプとの相手は慣れていた。

賢者の転送が間に合わない時は、これまでこの2人が島を守っていたのだから。


 しかし、ハードタイプが島に発生したのは初めてのこと。



「パパ、どうする?」


「決まっているよ、ママ!

この数――ピンチになる前に私達も逃げよう!

逃げ遅れた人はもうここにはいない!」


 妻の問いに、清々しくサムズアップで答える夫。




「「天啓!」」



 その時――



 まだ70体以上いるバグの大軍へと向かっていく2つの影。




「ハンドレッド!」 【五大:風】


蜂雷(ほうらい)!」 【五行:木】


 それは――白色のライオンに、黄色と黒の縞々(しましま)女王蜂(じょおうばち)だった。



 ウオオオオオオオッッッッ!!


 百獣の王の豪気に満ちた咆哮(ほうこう)と、女王蜂の針から発射された雷を纏った液体が、複数のオーブにダイレクトに炸裂した。



〔〔〔!!??!?〕〕〕


 コモンタイプはあっさりと全滅し、ハードタイプも続々と倒されていく。



 

「ノーズ!」 【五大:水】


冥蝶(めいちょう)!」 【五行:火】


 関係による連続天啓。


 ライオンがゾウに、蜂が蝶に変化した。



 ゾウの鼻から飛ばされた水噴射を浴びせられ、(しま)いには踏み潰されていくバグ達。


 かと思えば今度は、青々とした蝶の羽ばたきで発生した、忌火(いみび)鱗粉(りんぷん)(あぶ)られて……。




「く……、」


「ッ!」


 天啓が急に解除された。




 現れたのは――()()賢者になったばかりの10歳の少年2人。



 動物になる天啓を扱う『ウォーク』。


 虫に変身する天啓を使う『レヌン』。



 彼らはマスターでない普通の賢者。

そういった賢者達は、関係での連続コンボを5連全てこなせるまでに肉体が伴っていなかったり、オドとマナの複雑な体内操作が未熟であることが多い。


 つまり、今ので1回分の天啓を消費したことになる。



「くっそ……!

おいら達じゃ、やっぱ力不足なのか!」


「やばいよ……!

身体が……反動で動かないよ……!」



〔〔〔!!!〕〕〕


 新人2人のピンチの前に、押し寄せる雪崩のような突進。





「真打ち登場っ☆」


 不をぶち壊す程にあざとい声が轟いた。




「クルゥゥゥ!」


 バグの真っ只中に飛び込んでくる、大きな虹色の怪鳥。

その背中には、マスター賢者のミープ。



「クエエエエッッ!」


 その反対側から、通常よりも三回り以上大きな(わし)

発達した両脚には、同じくマスター賢者のシノが捕まっている。




「よっと!」


「たああああーーー!」


 それぞれ、運んでもらっていた鳥から飛び降りての空中殺法。




 渦巻きのように回転し続ける舞いのエンドレス。


 縦横無尽に空と地を駆けるパフォーマンスに、ハードタイプの大軍はなすすべなく蹴散らされていった……。




* * *



 全てのバグを再び倒しきってから。



〈お二人とも……アンノウンの座標を特定しました……〉


 クリアから陰気な念話が届けられた。




〈どうやら、今回のアンノウンを倒すまで……ジェネラルのバグが()()に湧き続けるようです……〉


〈〈まさか―〉〉


 同時に嫌な予感がしたシノとミープ。




〈はい……再び同じタイプと数量のバグが……。

……そして……アンノウンは水深400m……。

暗い暗い海の底……そこにいます……〉




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