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2章15話 「夜空に咲く蓮」




(さっきから念話も無線も通信もできない……アンノウンの能力か?

ドリアンさんの状況も分からない……)


 ブレインマップを駆使して町中を捜索するクノ。


 広大な1番街のどこを探しても、アンノウンを見つけることができないでいた。



(外れの自然公園の方か……?

この際、2番街にもう一度戻ってみるか……?

そもそも、本当にアンノウンは3体なのか……? 

2体の可能性だって……いや、クリアさんがそう言うなら間違いはないだろうし……)


 考えあぐねて途方に暮れながら捜索していると、


「!?」



 商店街――バス停の下。


 うずくまっている小さな人影を発見した。



「すみません、この辺りにはまだバグがいる可能性があるので。

すぐに避難をお願いできますか?」


「………………」


 近寄って声をかけてみたが、何の返事もなく俯いている。

見たところ、ローブを羽織った5歳くらいの少女のようだ。



「……もしかして、歩けないんですか?

でしたら、ぼくが背負って――」



 一瞬の視界に、粘性のしなるゴムのようなものが飛び込んできた。



「!」


 背後にバックステップしてかわす。


 それが飛んできた方角は明らかに……。



「まさか……アンノウンは……」




〔…………〕


 もはや、骨と肉を備えた人間のそれではなく、ヌルヌルとしたスライムだった。


 瞳も含めてマゼンタ一色の少女のボディ。


 いちごの風味がありそうだが、もちろん食べられない。



「――コイツか!!

また女性体!」


 ドリアンとは連絡が取れない。


 両者がエンカウントしてしまった以上、下手に撤退している余裕はない。



「被害が出る前にここで止めないと!

ぼく1人でも……!!」


 クノは震脚(しんきゃく)の踏み込みで一気に接近、ストレートリードを放つ。



〔……〕


「なにっ!?」


 ……が、伸びるスライムの体が足に絡みついて、体幹を乱れさせてくる。



「うわあっ!」


 足を滑らせて、硬い石の地面へと頭から転倒。



 ゴチン!!



「姑息なことをしても!」


 頭を鍛えられない普通の人間ならばこれだけでもしばらく悶絶するが、歴戦の賢者ならば、ましてや人間の領域から外れたクノにはこれくらいどうってことはない。




「……くっ、」


 だが、何度接近を試みても。


 スライムに滑らされ、軌道をズラされ、なかなか距離を縮めることができない。



(防御と同時に攻撃が……飛んでくる!)


 やきもきしている間に、強度が先程よりも増したスライムが叩きつけられ続けて。


 こちらの行動が気がついた時には回避と防御に制限されていた。



(コイツはこういう戦法をしてくるのか!

こうなったら!)


 空中戦はクノは苦手。それでも、飛んでしまえばあんな攻撃怖くないと、高く跳躍。



「……っ!」


 飛んでもスライムは伸びてくる。まるで自分を守るバリアのよう。



 防戦では当然勝てない。


 敵が何をしてこようと、恐れずにこちらから突き進むしかない。




「うおおおおお!」


 スライム攻撃を喰らうことを承知で、急降下して突っ込むクノ。




「ッ! ッ! ウッ! ッッ! クッ――」


 顔面に容赦なくぶつけられていくスライムの波状攻撃。


 打たれ強いクノであろうとも、ダメージが蓄積されていく。




〔!?〕


 けれども、スライムバグが感知しているオドの勢いが弱まることはなかった。




(この程度のダメージなんて……上等なんだよ!!)


 防御とカウンター特化のクノには、効いていないのも同然。


 そう。賢者になって以降の彼に()()()()でダメージを与えられたのは、ブウェイブと巨人のアンノウンのみ。




「――入った!!」


 無防備に、大胆に。相手の防御圏内を突破し、一瞬で間合いに侵入。



〔……〕


 鳩尾にヒットする()()()()()貫手(ぬきて)の一撃。


 柔らかいイチゴスライムの体をすり抜けるように空振り。



「――えっ!?」


 クノの右腕が、吸い込まれるようにスライムバグの内部に入り込んだ。



(柔らか過ぎて、攻撃が通らない! 

それに、右腕が持っていかれて……バグの一部と化していく!)



 この状況――クノにとっては……。




(だったら――相手を硬くすれば攻撃を通せる)


 むしろ、絶好の好機。最大のカウンターチャンス。




剛玻(ごうは)!」 【五行:金】


〔?!〕


 クノの右腕がダイヤモンドのように硬質化。


 それに合わせて、彼の右腕を取り込んでいたスライムバグの体も強度な宝石と化した。



「天啓!

水破(すいは)!」 【五行:水】


 宝石化したスライムバグの鳩尾に向かって、ダイヤモンドの右腕による、内部破壊のゼロ距離寸勁(すんけい)



〔!!〕


 スライムバグの鳩尾がボロボロと砕けていく。


 その内部破壊の衝撃は、あっという間に体全体へと波のように伝わって広がり――



 バリバリバリバリ!!



〔!?!??!?〕


 スライムバグの体は完全に崩壊した。


 破裂して、飛散するスライム。



「全て滅ぼす!」


 残りのスライムを殲滅すべく迫るクノ。



植歯(しょくは)!」 【五行:木】


 間髪を容れず、牙の生えた左足で後ろ回し蹴り。

獲物にかぶりつく人喰い花を思わせる蹴りの軌道。



〔!!〕


 一部のスライムを撃破。



「天啓!

爆波(ばくは)!」 【五行:火】


 追撃。クノは身をうねらせて肩甲骨部に波を作る。


 そのエネルギーを体内操作で右手に集める。



「行けエエーー!!」


 右手のエネルギーを十分に溜めたクノは、赤いオーラと波紋を纏った右手を全力で前に突き出した。



〔!!??〕


 赤い衝撃波に吹き飛ばされて、塵となって消えていくスライム。



 残りは、あと僅か。



「天啓!

境刃(きょうは)!」 【五行:土】


 両腕をカマキリのようなポージングにした手刀による切断攻撃。


 今のクノの両腕は、あらゆるものを容易く切り裂く鋭利な鎌。



〔!!!!!〕


 サイドからの剪断力(せんだんりょく)



 その場に漂うスライムは、無慈悲なまでの苛烈な攻撃によって、跡形もなく切り刻まれた。




「決まったか!?」


 これで勝負はついた――







「!?」


 巻き戻しのように出現したスライムの無辺の欠片。


 その欠片の一つ一つが、黄金の膜を纏って(あわ)く発光。


 ルドメイシティ全域へと飛び散っていく。




 きゃあああああ!!


 いやあぁぁぁ!!


 助けてぇぇぇ!!



 束の間に、突然のおびただしい悲鳴、絶叫、裂帛(れっぱく)、金切り声。




「何!?」


 クノが理解も反応もできない刹那の光景だった。



 泣き(わめ)き、もがき、苦しみ……。

なすすべなくスライムの欠片へと引き寄せられていく老若(ろうにゃく)の女性達。



 聞こえるのは、全て女性の声……。


 目に見えるのは、全て女性の姿……。




 一度バラバラになったスライムバグは、ルドメイシティの全女性を年齢問わず、役職問わず。

当然、防衛省の女性達も瞬きする間もなくその身に取り込んで再生した。



 数千を超える女性達を取り込んだ新たなスライムバグ。


 その体は、もはや少女のサイズなんかではなく――




「……ば、馬鹿な……」



 ……5mはあった巨人バグの比ではない。



 ルドメイシティを全て包み込んで埋め尽くしてしまう程。




〔…………!!〕


 塞がれた夜空。


 月のない空に代わりに浮かぶのは。

スライムバグすら凌駕する大きさの、夜空に突如咲いた(はす)の花。



 それはバグの大輪を咲かせることの暗示のように。


 これからがバグの時代の幕開けだと言わんばかりに。


 輝きを放って咲き誇り、上空を浮遊していた治療薬散布用の気球を粉砕。




(一度倒させることで新たな力を手に入れる能力…なのか!?

女性の方々を取り込んで進化!?

さっきのはハッタリだった!

これこそが、ヤツの本領!!)



 冷や汗全開のクノは対処に向かおうとするが、


「下手に攻撃を加えると、中に取り込まれた皆さんに被害が……。

そもそも……彼女達は……」


 すぐに足が止まってしまった。




 何せ、前回とは違って、敵の体内に人々がいることが()()なのだから。


 この目で見たのだから、これがこちらを欺くための幻覚などということはないはずだ。




(くっ、またこのパターン……。

せめて、こいつの内部状況が分かれば――)


《自分で使いたい時に使えばいい》


 ドリアンの声がよぎった。




「そうか……」


 マインの力なら、オドの存在を感知できる。


 つまり、スライムバグの中に取り込まれた女性達の生死を判別できる。

 



《自分で使いたい時に使えばいい》


 ドクン。


《自分で使いたい時に》


 ドクン。


《使えばいい》


 ドクン。




 鼓動を乱してくる言葉。



(…………辰砂さん……準備は?)


「起きてる」



 それは同時に、背中を後押しする言葉。




「マイン!!」





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