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2章6話 「決着」




「……とんだ横槍でしたね」


「ごめんなさい……。

皆さんが眠っているここで、うるさくしてしまって……」


 一息ついたクノとシノは、アルシンとファムの墓参りを再開。


 戦闘が終わってしばらくしてから、マインは解除された。

2人とも元の格好に戻っている。




「今度はきちんと線香を持ってきてもらったので……」


「兄さん……流石(さすが)


 

 線香をあげておりんを鳴らし、音の波に身を寄せながら手を合わせて瞑目。



「「…………」」



 視界も思考も闇の中に置かせて、邪念を振り払う。



 (ひとえ)に冥府への2人を(しの)び、(いた)み……。



 心頭滅却(しんとうめっきゃく)



 明鏡止水(めいきょうしすい)




 静かに深く呼吸して、瞑想……。




 新たな決意の種を蒔き、明日の芽を咲かす。





「…………ふぅ」


 長い静寂を破る、解放の息。



 2人はそっと目を開いて立ち上がる。


「…………また、今度来ます」


「その時は……全てのバグが滅んでいるように……精進(しょうじん)いたしますわ」





「あの!」



 立ち去ろうと墓石から背を向けた途端、聞き覚えのある声に呼び止められた。



「…………あなたは……」


「おばさま……」


 モストおばさんがランプを持って立っていた。

改めて見ると、苦悩からか5年前よりも(しわ)や白髪が増えている。


 彼女はクノの思った通り、防衛省によって村まできちんと保護されており、五体満足で無事だった。




「先程は……危ないところを助けていただき……ありがとうございました……」


「いえ、それが仕事ですし……そうじゃなくてもやるべきことをしただけなので、お礼などは」


 こちらをしっかりと見据えて感謝を述べるおばさんの顔を見ていられず、クノは思わず目を逸らしてしまった。



「……あの、あなた方は、もしかして……」


 そのたどたどしい言の葉は気づいている。



 彼女には会わないつもりだった。


 また傷つけて苦しめてしまうと思ったから。


 でも、出会ってしまったのなら。




「…………そうです。

お察しの通りです……」


「やっぱ……り!」


 無の境地のように呟いた声に、おばさんの目が見張る。



「過去は変わりませんが……こうしてまた再会したのなら、何度でも言わせていただきます……」



 クノとシノは姿勢を整えて一歩前に、深く頭を下げた。



「「…………アルシンさんとファムさん、お二人が亡くなった原因を作ってしまい、申し訳ありませんでした……!!」」




「もう、やめてください……」


 震えた声が頭にかけられた。


「……えっ?」


 見上げた先――おばさんは頬や目元を()らして、悲しみとは別の涙を流していた。



「あなた方は、ずっとあの子達の死と……私の吐いた酷い言葉と……あの仕打ちに苦しんで悔やんできたんですよね!?

お二人を見ていれば分かります!」




* * *



 5年前。



「返して!

2人を返して!

カエシテヨ……カエシナサイヨォォォォ!!」


「!?!?」


「シノ……!!」



 武器を持った怪物の(うら)みは、武器と呼ばれた怪物のありのままで受け止めるしかない。




 ブシャアアアアアアアッッッッ!!




 ログハウスの天井に飛び散った、クノの手のひらから噴き出す鮮血。


「ッ!!

こんなこと、ぼくに言えた口ではありませんけど……どうか、お気を確かに!」


 彼の無防備な掌底(しょうてい)に打ち上げられた、包丁と斧。

クルクルと宙を舞う斧がシノの左頬を掠め、壁に鋭く突き刺さって動きを止めた。




「ううっ……ううっ……!!」


 床にゆっくりと膝をつき、力なくうずくまるモストおばさんの嗚咽(おえつ)


 我を忘れてシノに襲いかかったおばさんは、クノの割り込みで正気に戻ったのか、再び立ち上がってはこなかった。



「アルシィィィィン!!

ファムゥゥゥゥ!!」



 それ以外の言葉を発することもなく。


 顔を上げて睨みつけてくることもなく。


 その場にはまるで、始めから彼女1人しかいないかのように。

 




「すみませんでした……」


「失礼します……」


 血と涙の海に顔をうずめて、ただただ泣き続けるおばさんに背を向けて。


 クノとシノはログハウスを後にした。




 この傷を(いまし)めとして消さないと誓って。




* * *




「本当は……あなた方が全く悪くないことは分かっていました!

あの子達の死を受け入れられなくて……2人が勝手に出て行ったのを誰かのせいにしたくて……。

私は……本当になんて最低なことを!

あの日から……毎日後悔していました……。

あなた方が毎年、お墓参りに来てくれているのも分かってたのに……。

それなのに私は……(うら)まれているんじゃないかと怖くて、何年も逃げ続けて!

あの子達と同じ年の、幼いあなた達に大変なものを背負わせて、傷まで負わせてしまいました……!

何度も何度も謝らなければならないのは、私の方です!

ごめんなさい!

許してもらえないと思いますが、本当にごめんなさい!!」


「「………………」」



 深々と頭を下げるどころか、土下座までされて告げられたのは。


 あの日の(きょ)ではなく、(まこと)の本音と真実。



 知らなかった他人の気持ち。



(そうか…………。

自分が吐いた言葉に苦しんでいたのは……ぼく達だけじゃなく……)


(同じだったのね……おばさまも)



 1つのことが判明し、その言葉を聞いただけで。


 5年半もの間胸の中に、心の奥に、脳みそ全体に刻まれていた傷痕が。


 清らかなせせらぎの音波に乗って(みそ)ぎ、浄化されていく。



《教えてやれ!

君達は人殺しではなく、人助けだと!》



(ぼく達は人殺しなんかじゃない)


(人助けがわたくし達)




 何を言われてもアルシンとファムの死は変わらない。


 彼らの死と、守れなかった自分達の弱さを背負って、超えていかなければならない。これからも。



 それでも…………。




「……おばさま」


 シノがすっと口を開く。


「……はい?」


 涙がまだ渇かないおばさんは、ゆっくりと土に接着させた顔を離し、恐る恐るシノを見上げた。




「おばさまは……ずっと抱え込んでいた言葉を吐露して……すっきりしましたか?」


「……いいえ、でも言わないままではいけないので」


 首を振って俯くおばさん。

シノは身を屈めて覗き込み、彼女と視線を合わせた。




「わたくしは……ううん、兄()……わだかまりが取れて、すっきりしましたわ!

うふふっ!」


 あどけない少女の笑顔。

おばさんの足元に置かれたランプの灯りに交わり、(ゆる)しを語った。




「はい!

だから、あなたがぼくとシノのことで悔やむのは……今この瞬間でお・し・ま・い……ですよ!

……ふふっ!」


 今度はクノも腰を下ろして、屈託のない微笑みを向ける。

3人の間の虚空に手刀をまっすぐ振り下ろして、未練を断ち切る動作。



「……」


 おばさんはしばらく瞳を揺らした後、



「……あ、あああ!!

ああああああ!!


 しゃくり上げて、残りの全ての気持ちを吐き出すような慟哭(どうこく)を空に放った……。



* * *

 


 心の濁りが取れて落ち着きを取り戻したおばさんと一緒に、再度線香をあげる。



「もう何年の前だけどね。

この曜日のこの時間は、2人がよく見ていたヒーローアニメの放送時間だったのよ。

闇颯忍隊(あんさつにんたい)ナハト】ってやつ。

ダークヒーロー? っていうものみたい」


 おばさんはアルシンとファムとの思い出を語り始めた。



「……こんな夜中の番組を……あのお二人が?」


 思わずシノがツッコミを入れると、おばさんは吹き出した。

若返ったように明るく弾んだ声。


「うふふ、そう思うでしょ。

子供は寝る時間って言っても聞かなくて!

その週の日だけは、アルシンなんて頬っぺたを引っ張りながら必死に起きて、悪代官を人知れず切るナハトに憧れてはしゃいじゃって!

ファムは眠くなってよく寝ちゃっててね!」


 こんな風におばさんと話ができる日がくるとは思わなかった。

おばさんは逃げていたと言ったが、それは自分達も同じだった。




「……もしかして、あの家にあったおもちゃの剣や、この手裏剣も?」


 クノはアルシンの墓に供えられた玩具に視線を向けながら尋ねる。


「ええ。

毎日お墓参りはしてるけど、ナハトの思い出を忘れないようにって、この時間にももう1回お墓参りに来てるのよ」


「そうだったんですか」




「ところで」


「?」


 シノが話題を変えた。


「村の皆さんはお元気ですか?

わたくし達は毎年お墓には来ていましたが、村の方には顔を出していなかったので……」


 

 それはクノも気にしていた。

村の住人とはあれから顔を合わせていない。



「ええ……!

あの子達が亡くなって最初はみんな沈んでたけど、今は立ち直ってあの子達の分も頑張ってるわよ!

そうよ、よかったら泊まっていかない?

またあのスープ作るわよ!」


 おばさんの言葉を聞いて、少し緊張していた2人はほっと胸を撫で下ろす。




「お気持ちは嬉しいですが……またの機会でよろしいでしょうか?」


「ぼく達の帰りを待っている人もいますし」


 賢者でないベルウィンとは念話ができない。他の連絡手段もないので、帰らないと心配させてしまう。



「……そうよね。

あなた達だって忙しいものね。

命懸けで戦ってるし、何より……すぐには村に行けないよね。

うん、じゃあまた今度ね!」


 残念そうにしながらも、おばさんはすぐに明るく努めて、クノとシノの背中を優しく押してくれた。




* * *



「じゃあね~!

今度会えるのを楽しみにしてる!

頑張り過ぎずに、お仕事頑張ってね~!」



「お世話になりました!

お元気で!」


「また来ますわ!

絶対に!」



 トラウマを超えて苦しみから解放されたクノとシノ。


 彼らは憑き物が落ちたように声を張って、おばさんに手を振り、アウェイ村を出発した。



ここまで呼んでくださりありがとうございます!


1章から続いていたアウェイ村でのお話は今回で終了です。


次回以降は、新展開・次の任務地での戦いに移っていきます。

よろしくお願いします!


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