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2章5話 「マイン」




 2つに分裂した紅い鉱石を手にした途端。



「うわあああああ!!」


「きゃあああああ!!」



 1つはクノの、もう1つはシノの()()へと入り込んだ。





 クノとシノに不躾(ぶしつけ)に侵入した()()の行き先は、心臓内に宿っている()




(この、痛みは!?)


(まるで……天啓を初めて使った時のよう!!)



 心拍数が急激に増大。肺が、胸が軋む。



 張り裂けて、粉々に砕け散りそうな衝撃。



 オド操作でも呼吸でも……何をしても抑え込めない苦痛。




「俺様は()()()()()()()()()()()

俺様の力を思う存分行使したければ……魂で叫べ!」




 トリガーとなる言霊――魂で叫ぶロゴスは、その力の名。



「「マイン!!」」


 スピリットを目覚めさせる咆哮(ほうこう)


 停止していた時空が現実に戻り、大ピンチの場面からの再生。



* * *




「「……!?」」


 その場にいる賢者達全員はおろか、人質作戦で優位になっていたセクシーバグすらも、戸惑いの渦中(かちゅう)に放り込まれていた。



〔!?!?〕


 セクシーバグが噴射した青のミルク。

賢者に皆殺しを届けるためのその一撃は、噴射した直後に何故か勢いが弱まり、そのままスッパリと何かに切断されたのだ。




「おい、前を見ろ!」


 賢者の1人が指を差した。




 四方八方から集中する視線の先。



 シュウウウ……と立ち昇る蒸気。

その中心で光のリングに覆われている――2人のマスター賢者。




「……ふっ!」


 血管浮き出る拳骨(げんこつ)を天に掲げるクノ。


 彼の服装が、賢衣から全く別のものに変化していた。


 サイバーチックなフード付きのコート。

無数に交差する白と黒の線と、稲妻のようなジグザグのジッパーが特徴的。




「はいっ!」


 虚空を蹴って、鮮やかな一回転。

 

 懐かしさを思わせるモノクロ配色のドレスに身を包むシノ。

生足を惜しみなく晒す極限まで削がれたスカート、胸元には雪の結晶型の真紅のペンダントを括り付けている。




 兄妹の変身とミルクの出荷停止。

その場にいた他の者達からすれば、瞬きする間もない中での出来事だった。


 それでも、セクシーバグの謎の円盤は尚も両者の体に付着したまま。




「…………」


 皆が急な空気の切り替わりに驚愕している中、クノは冷めた目つきで全体を瞬時に見渡す。




(今ここにあるオドは、ぼくとシノ……それから、援軍に来てくれた方々。

アンノウンの内部…………()()()()()()()()()()()()

こいつのこれまでの戦法や仕草、現状を全てまとめて考えると……)




 頭が冴えて……洞察力が覚醒。



 刹那に定まる1つの解答。



(こいつは、バグの分際で()()()()が使える。

ぼく達の体に付着しているこの円盤は、対象の深層を覗き込んでトラウマや弱点を探知するもの。

その上、意識を惹きつける強烈な注目効果まで備えている。

円盤で天啓発動を潰しつつ、ぼく達の昔の傷を探り、あの方の声を発してこちらを欺き動揺させた……そんなところか)



 敵の種を暴いたクノの臀部(でんぶ)が、ボコボコとうずき出す。

オレンジのコードのような物体が突き出てきた。


 ……5m以上の長さはある尻尾(しっぽ)

意思を持つかのようにヒラヒラと風に(なび)いてしなっている。




(あの方のオドは……村の方角か。

到着した防衛省が避難させた?

だったら、)


 体を捻らせるクノと、突然生えた尻尾が連動。



〔!?!?〕


 セクシーバグの前を高速で横切る――オレンジの一閃。



「遠慮なく倒せる」


 人質にされた2人の賢者は、伸びる尻尾に絡め取られて、クノの元へと引き寄せられていく。




「今ッ!」


 今度はシノが吠えた。

そのキッとすぼめた()は天を見上げていた。



〔?!!?〕


 セクシーバグの右腕に、巨大な刃が突き刺さっていた。


 それは――シノに応えて宇宙(そら)から降ってきた、天の大剣。

地上で生活する我々には、刀身しか拝むことができないビッグサイズ。





「お怪我は?」


 救出した人質や、他の賢者達の身を案じるクノ。


 衣装も技も変化したその面魂は、それ以前よりも余裕が感じられた。年齢顔負けの貫禄(かんろく)すら漂っている。


「あ、ああ、我々は問題ない……。

助かりました……」



 ポカーンとしている賢者達を手で下がらせて。


 クノは大剣に貫かれてのたうち回るセクシーバグへと跳躍。




「好き放題やるのは、ぼく達の方だッ!!」


 激昂するクノは前進と同時に、揺らめく尻尾を空中から地上へと叩きつけた。


 尻尾のバネの勢いも上乗せされた跳躍力は、天啓の接近技以上の移動距離と速度。



「人の心の隙間を突く、姑息な手練手管(てれんてくだ)

これ以上そんなことをさせる前に、力でねじ伏せる!」


 セクシーバグの真上に到達したクノ。尻尾が消失。


 その代わりに、今度はデジタルチックで無機質な棒を右手に掲げていた。


 棒の先端からは人魂のような(あお)(ほのお)の柱。この真夜中の墓地の情景にマッチした灯火。



 蒼く輝く小さなライトセイバー。

 


(剣や槍を振る動作から発展したのが、格闘術!

だったら、普段と同じようにすればいいだけ!)


 腕を引いて、勢いよくセクシーバグの胸へと繰り出された突き。



〔??!?〕


 無声の悲鳴も(むな)しく、続けられる無慈悲な斬撃。




〈な、何なのだ、チミ達!?

その似合わない格好と、得体の知れない武器は!?

僕の天啓を何故使用しない!?〉


 横から割って入る野次。

アイデンティティである天啓の存在感が無くなったことに異議を唱えるルードゥス。


〈もう達しているだろう、天啓の使用上限は。

故にこの際すがるしかない……覚醒した力に〉


 それを冷静にたしなめるハンディー。

自分の大事なものや、古い格式を重視して理解のできないものを追いやるのではなく、非常時なら何でも使うのが流儀らしい。




(このアンノウンはかなり固いし、知力がある。

確かにそれまでのタイプよりも強い。

だけど、ぼく達が負けたアンノウンは、()()()()()ではなかった!!)



〔!!!〕


 焼かれまくっているセクシーバグの抗い。


 クノに張り付いていた円盤が、チカチカと点滅。



〔やっぱり、あんたはそうやって()()()()のね!!

この悪魔!!〕


「!!」


 セクシーバグの喉が振動――モストおばさんの声。


 クノの顔つきが固くなった。



〔兄妹一緒に、仲良く機関で死んでいればよかったのに!

どうして死なないで世の中に出てきたの!?〕


「……」



〔お母さんもかわいそう!

こんな()()()を産んで亡くなるなんてね!

報われないわ!

天国で泣いてるわ!〕


「!!」


 シノの息が上がる。彼女に纏わり付く円盤もいつの間にか点滅していた。



 やがて、抵抗の矛先はシノ個人へと向けられた。



〔あんたもあんたよ!

こんな悪魔を慕って、言葉遣いも性格も寄せて!

自分が血を流して泣いてばっかりだから、見捨てられると思ったんでしょう!?

【お兄ちゃん、わたし死にたくない!!】って、毎日ピーピー(みにく)(わめ)いた挙句(あげく)、おとなしくなったかと思ったら、ただあんたは兄の人格を必死にマネして生きるだけ!!

あんたはあんたで、空っぽの気色悪さに溢れた能無し――〕


「へぇ」


 凍った目で(わら)うクノの尻に、また例の尻尾が生えた。ライトセイバーは消えている。


 マインと呼ばれたこの力から形成される武器は、一度に1つの武器しか出現させられない。


 


「そうやって人の過去を()()()()()()ってことですか。

それに、見事な声帯模写。

ぼく達の古傷を抉ろうとする悪あがき……ご立派なことで」


〔!??!〕


 セクシーバグの体に巻き付く尻尾。


 シノが召喚した大剣は、もはや粒子となって消滅している。




「バグの身でありながら、いい見世物をありがとうございます。

お礼にこちらからは――」


 クノの回転に合わせて、尻尾も旋回。


 捉えたバグに大車輪を浴びせ、空のど真ん中に放り投げた。



「地獄を見せてあげるわ!!」


 逆鱗(げきりん)に触れられて、逆上に満ちたシノの追い討ち。


 彼女の胸元が妖しく光った。



〔!???!!??!〕


 闇の地平線の彼方から、弓のように真っ直ぐに飛来する大剣。


 虚空に投げ出されたセクシーバグが、()()()()




 残った半身に絡まる尻尾。



「地獄を見て……どうでした?」


 半身はクノの背中へと引き寄せられていく。



 ある程度の速度がついた段階で、尻尾が消失。


 慣性でそのままクノの元へとダイブする半身。



「もし、気に入ったのなら……」


 クノは素早く半回転。その手にはライトセイバーが握られていた。

大きく振りかぶって、バッティングのフォーム。



()()させてあげますよ!」


 振り抜いた全力のフルスイング……に見せかけた袈裟斬(けさぎ)り。




 爆ぜて散った肉の一つ一つが、蒼く点滅する空気に溶けていった……。





()()殺さない。

けれど、人を(あや)め(ようとし)て、傷つけ、苦しめる()()()()……話は別だ」


 クノは、セクシーバグが直前まで存在していた虚空に低い声で述べた。


「それから……あの方も、シノもこれ以上勝手に(おとし)めるなよ。

地獄でも忘れるな」




 同時刻。


 誰もが気づかない夜空の下で、1つの流星が世界に走った……。




* * *




「勝ちましたね、アンノウンに」


「ええ」


「摩訶不思議な力も手に入りました」


「そうね」


「シノ」


「なぁに?」


「ぼくはシノを見捨てようと思ったことはありませんよ。

これまでも、これからも」


「……うん、分かってる!

兄さん!」




 【マイン】。


 魂に辰砂が刻まれた人間の心象に基づいた【剣と盾】を錬成する力。


 【盾】によって賢衣以上の防御性能を備えた衣装に切り替わり、【剣】によってマイン能力者毎に異なる戦闘機能を発現させる。


 能力者の本能や根底、心理状態を辰砂が完全な形として引き出すことによって、能力用途の真理を特に考えることなく理解させている。

クノとシノが初使用で平然と使いこなしているのはそれが理由である。



 アンノウンを圧倒してはいるが、このマインが天啓の上位互換たる存在であるのか、天啓や武術との併用は可能であるのか、現在のところは不明である。





(……動き出したのかもな、進展のなかったバグ殲滅の夢物語が。

そして、彼らがきっと作り出す……この時代の世紀末と新世紀を……)



 マイン。


 辰砂。


 その力が人類に、クノとシノにもたらすものは一体……。



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