表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/142

2章4話 「前振り」




炎走(えんそう)」 【五行:火】


 炎を(まと)って夜の闇を照らしながら、足の回転数を上げて爆走するクノ。


「クリサンセマム!」 【五大:水】


 シノは滑らかにうねる流水――菊水文様(きくすいもんよう)のような旋体風林(せんたいふうりん)の走法軌道。



 どちらの天啓も、相手との距離を一気に詰めて、速攻をかけるための接近専用の技。




〔……!?〕


 アンノウン――セクシーバグの鳩尾(みぞおち)に、クノの前拳。


 首には、シノの右足。



〔!!!〕


 同時にぶち当てられた()()


 セクシーバグは、後方に大きく吹き飛ばされた。




(このまま畳みかける!)


 天啓のコンボが途切れる前に。

クノは傍らで立派に(そび)えている大木を見やる。




「天啓!」 


 活性化したオドのパワー。

クノは根本から大木を引っこ抜き、高く担ぎ上げた。


「……うおおおお!!

還堀(かんくつ)!」 【五行:土】


 そして――前方へと、躊躇いなく投げ落とした。



 大木ロケットは、セクシーバグの手前で着陸。

激しい耳鳴りを束ねる地響きが轟き、衝撃波が発生。




「ストラーダ!」 【五大:土】


 そこに迫るのは、空中をスライディングするシノ。


 彼女の軌道に合わせてセクシーバグを囲うように形成されていくのは、ストーンサークルの牢獄。




 地上は衝撃波のカーテン。


 天上は石の屋根。


 相談も念話もなしの兄妹のコンビネーション。相手の逃げ道は完全に遮断された。



〔!??〕


 動揺中のセクシーバグの前に、空から降り立ったシノ。



「天啓!

ヘヴンズゲート!」 【五大:空】


 シノの身を捻る動作に呼応して、間合いに作られる真空の渦。


 右手でバグの乳房をワンタッチ、すかさず左手で側転するように倒立。


 振り上げた両足でセクシーバグの首を挟みこんでからの回転。



〔!??!!〕


 捻体渦生(ねんたいかしょう)首絡(くびがら)みが炸裂。


 セクシーバグは背中から地に叩きつけられた。

その首には、シノの両足から放たれた真空の刃による切り込み線。




「ありがとう、シノ!

天啓!

連潰(れんかい)!」 【五行:金】


 クノの鉄拳に更なる硬度が帯びる。


 狙うは、セクシーバグの股間、水月、胸、喉、人中(じんちゅう)双眸(そうぼう)。人間ならば全て急所になる部位。


 クノはそれら全てに、斧で薪を割る勢いの鋼鉄縦拳を振り下ろし続けた。その度に、悶えるバグの体がビクンビクンと上下する。




「天啓!

水破(すいは)!」 【五行:水】


「天啓!

コメット!」 【五大:火】


 続いて、洗練された寸勁(すんけい)と、渾身の踵落(かかとお)とし。




 これで天啓は関係サイクルの4コンボ達成。



(ロゴスを加えた天啓をここまでぶつけても、まだ倒れない。

流石はアンノウン……だけど、)


(それなのに、何?

()()よりも、かなり……)



 クノとシノはこちらの優勢に違和感を覚えていた。


 とはいえ、最大コンボまであと1つの天啓を喰らわせればいい。





「植――」


「ヴォル――」


 0.2秒後には発動されていたはずの天啓。


 しかし、刹那に飛び込んできた()()()()()への回避行動によって、キャンセルされてしまった。



 そう、2人の懸念通り、敵は何かを仕掛けてきたのである。



(おかしい…今のは力ずくでゴリ押せたはず……。

ぼくは何故避けた……!?)


(ッ、さっきの戦闘の分はまだ回復していない……。

残りの天啓回数は、わたくしも兄さんも、あと1回……!)




 セクシーバグが放った得体の知れない円盤。

それはクノとシノをマークするようにぴったりと張り付いて、()がすことができない。


 更に、セクシーバグの乳房から発射される青々としたミルク。的確にこちらの頭部を狙って飛んでくる。



〈シノ、このまま同時攻撃です!

くれぐれも、相手の攻撃には当たらないように!〉


〈分かった、兄さん!〉



 クノとシノはグロテスクな色合いのミルクを回避しながら、再波状攻撃。



「「天啓!!」」




 セクシーバグの正面には、クノ。


 背面には、シノ。



〔!!〕


 セクシーバグは体を高速回転。

2人の追撃をかわすためにミルクを全方位に噴射させた。




〔?!〕


 だが、セクシーバグは派手に体をのけ反らせて、狼狽え始めた。



〔!??

????〕


 直前までいたはずの敵が、()()()()消えていたのである……。





「「遁駆(とんく)」」 【五行:水】


 空気のように姿を現したクノとシノ。


 兄妹同時に、全く同じの攪乱(かくらん)天啓。

その身を水に溶かしてフィールドから消失、次に出現した時には相手の死角を制圧している。




「木――」


 その時。


(アンノウンの驚きっぷり。

ぼく達に纏わり付いているこの円盤。

さっきの、体が勝手に回避させられた感覚。

……まさか!?)


 一瞬のよぎりで何かに気づいたクノは、次に繰り出そうとしていた天啓を寸止め。




〈シノ、そいつから離れて――」


「助けて!!」

 

 ()()()()()()()()()()()聞こえたのは――モストおばさんの悲鳴。




「……えっっ…………」


 シノがセクシーバグの胸部に攻撃をぶつける寸前だった。




 ブシュウウウウ……!!



 シノの動きが止まった直後、空が青い液体で染められた。




* * *




「……ぐううっ!」



 セクシーバグが噴射したミルク攻撃。

それは超至近距離の射線上にいたシノ……を庇ったクノの顔面に浴びせられた。



「に、兄さん!?」


(すぐ側でシノの声がする。

シノは無傷のようだ、よかった……)



 安堵するクノの視界は青一色。同時に肌に生じる軽い炎症。


 セクシーバグのミルクは、浴びた対象(人間のみ)をドロドロに溶かす効果だった。


 幸いなことに、ずばぬけた打たれ強さのクノには()()()()で済んでいた。




(アンノウンの体の中に、あの方がいるのか!?)


 クノは体内に意識を向けて、全力のオドとエネルギーの操作。


 渦巻くオドと筋肉の収縮が共鳴。



「シノ、大丈夫ですよっ……!!」


 高鳴る力が、顔面の余分な青を削ぎ落とす。




 開けた視界。



〔^^〕


 セクシーバグが前方で、ゆらゆらケラケラと口を緩め、腰に手を当てて体を揺らしている。女王様の高笑いのように。





「兄さん、どうしよう!?

アンノウンの中に……っ!?」


 シノがユサユサと体をゆすってくる。



 確かに周囲を見渡しても、先程腰を抜かしていたおばさんの姿がない。




 それでも。



「分かりません……」


 クノは、未だに自分達に張り付いている円盤を一瞥(いちべつ)



(このアンノウンは恐らく……他のバグよりも感情―思考や分析能力が備わっている。

それ故に直接的な戦闘ではなく、(から)()や、敵の行動を自分の思うように操って戦うタイプ……)




「ご無事ですか!」


 次々と駆けつけてくる足音が、クノの考えを遮った。


 転送されてくる人々。



 他の賢者達が、増援として15人程来てくれた。

クリアが言っていたように、全員成人しているが金バッジを付けたマスター賢者はいない。


 つまり、マスターのクノとシノよりも、実力が低いと評価されている者達ばかり。




 それでも援軍はありがたい。敵の戦法を数で崩せるかもしれない。


 クノとシノは、これまで分かっているセクシーバグの情報を簡潔に賢者達に伝える。





「なるほど……。

あのアンノウンの中に、民間人がいるかもしれないと」


「探るのは我々に任せてください!」


「連戦のお二人は一旦休んで、好機の時にお願いします!」


「私は村に連絡を取って、その方が本当にいないか確認して来ます!」


 クノとシノにトドメを託して、果敢に向かっていく賢者達。

刀を持っていたり、槍を装備していたり、銃を構えていたりと、それぞれ異なる武器を携えている。



 後方で見ているとなかなかどうして、思ったよりも彼らはアンノウン相手に戦えていた。


 全員で陣形を作り、攻撃を与えないように威嚇(いかく)しながら、機敏にミルクを回避し、体内にモストおばさんがいないか様子を伺っている。情報を伝えたことが役に立ったのかもしれない。




「皆さんの行動を無駄にしないためにも、ぼく達も!」


「そうね、今度こそ!」



 呼吸を整えて、再度戦いに向かおうとした時だった。




「「うわあああああ!!」」


 前方から賢者の悲鳴。




「「なっ!?」」


 面前。


 賢者2人の体を高々と持ち上げて、これ見よがしにブラブラと(もてあそ)ぶセクシーバグ。



(人質作戦!?

やはりこいつは、戦い方がこれまでのバグと違う!)



 姑息(こそく)な手段ばかり用いるバグの情報を知っていても、仲間を盾に取られた賢者達の戦意は、覿面(てきめん)に低下。



(いけない……!!)



 虚につけ込まれた賢者達へ噴射される――青の裁き。





《2人が守りたいものを守って》



 ベルウィンからの言葉を胸に、



(そうだ、二度と誰も死なせないと誓ったんだ!)





 ………………!?



 その光景に、クノとシノの足が止まった。




(……これは……。

時が停止している…………?)



 セクシーバグも、賢者も、風も……周囲の何もかもが動いていなかった。




「今度は、何だ!?」


「これも、アンノウンの攻撃なの!?」



 ただでさえ、状況が理解できない中で。




「お前達でなければ、ソイツには勝てない」


「「!?」」


 

 唐突に、クノとシノの脳内に直接響く声。



「にも関わらず、なんてザマだ。

栄誉ある家系、優れた肉体、恵まれたモノを散々与えられておきながら、いいようにやられているじゃないか」


「な……あなたは一体誰なんです!?

こんな時に!」


 赤面のシノが空へ声を張り上げる。



 クノとシノがD機関出身であることを知っている。

だが声の主が誰なのか分からない。聞いた記憶がない。




「俺は……俺様のことは――『辰砂(しんしゃ)』と呼べ!」



 バン!!



 傲慢で不遜な声の主の自己主張と同時に、次元の壁が破られた。




「俺様の力は()()()()()()にする!」


 2人の前にふわふわと出現したのは――(あか)く輝く小さな宝石。


 声は確かにその石から聞こえてくる。



 【辰砂(しんしゃ)】。別名、錬金術における到達点である【賢者(けんじゃ)(いし)】。

その存在は、あくまで伝承に過ぎないはず。




「お前達なら使える。

天を超える俺様の力――【マイン】を!」


「「マイン……??」」



 辰砂はパカっと、2つに分裂した。



「掴め!

お前達の本能を映して力にしてやる!」

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ