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2章プロローグ 「あれから」




 有史以来、人類を殺戮(さつりく)してきた脅威――バグ。


 ハウモニシティに住む人間にとってそれは、外の世界の出来事だった。


 あの日までは……。



 忘れもしないあの日、この町は2000体のバグに襲われ、更には遊園地アルケミックランドに、前例のない強さの新種バグ――アンノウンが発生。


 あれ以来、未だこの町にバグは現れていない。

だが、バグは依然(いぜん)として各地で発生を続けているどころか、その発生件数は以前(いぜん)より増していて、賢者はほぼ毎日全地区で活動している。



 各地に設置されていたシェルターや防壁などの、避難施設や遮蔽物。


 バグを速やかに察知するセンサーやカメラ。


 防衛用のターレット。


 バグ退治用の爆弾。


 住民の怪我を治療するための粉塵散布用の気球。



 あの一件から政府は、バグ対策の設備を一気に増設。

無論、それまで安全圏だったこの町も例外ではない。



 分かりやすい変化として、家から出ない人間が急激に増加した。

建物の中に入っていれば、バグに襲われることはないからだ。


 それに伴い、ネットワーク、オンラインシステムも発展。

自宅でも楽しめる娯楽であるおもちゃ、ゲーム、音楽、ビデオ、アニメ、漫画、インターネット、動画配信、チャットなどの需要も上昇。


 こういった弊害として生じる運動不足を防ぐために、屋内用のスポーツや体操も生み出されていた。

また、健康被害を懸念(けねん)して、政府や医療機関によって、毎日日光をきちんと浴びることが義務付けられている。



 だが、このような世間の変化は、経済面にも当然影響が及んでいた。

飲食・旅行・興行(こうぎょう)系統などの、客がその場にいないと成り立たない商売は、従来通りのシステムでは経営が困難になった。


 教育の場である幼稚園や学校なども、永久にオンライン授業のみでは限界がある。


 この重大な問題を解決するために、バグが発生しない地下にそれらの施設に通じる道を作ることとなった。


 各家庭に地下室が設けられるようになり、そこから地下大陸に出て、行き来が可能な仕組みとなっている。

地下から侵入する新たな泥棒の被害が出ないように、セキュリティも完備されている。



 これらの変遷は、必ずしもリエント全体で起こっているわけではない。

少なくとも、住人が外に出なくなったことと、それらへの対応は、ほぼハウモニシティのみの話である。




* * *



 ハウモニシティ:【17区画】のとある住宅。



 ピンポーン!



 リビングの壁に立てかけた時計の針が、午後7時を指したと同時になるアラーム。




「パパ、ママ!

来たよ来たよ!」


「ハイハイ、今出るから待ってね」


「ハハ、すっごく楽しみにしてたもんな」


 『カノン』はおねだりするように両親の腕を掴んで、一緒に玄関まで向かった。



 届くのは誕生日プレゼントとしてお願いした、ポラロイドカメラだけじゃない。注文した夕食用のLサイズのピザと、もうすぐ切れそうな入浴剤もだ。


 住人が外に出なくなった要因は、ネット環境が強化されたことだけではない。配送業者が物資を必要とする家に届けてくれるからだ。事前に要請すれば時間ぴったりに届けてくれる。


 これによって、スーパーやデパートまで買い物をしに行く必要もないのである。もちろん、お金は払う必要があるが。




「はーい!」


 母が玄関のドアを開けると、悠然とした眼差しの少女が1人、重そうな荷物を抱えて立っていた。



「おねえちゃん、こんばんは!」


「こんばんは。

カノンさん、お母様もお父様も」


 元気なあどけない挨拶に、落ち着いた柔らかい物腰での返答。



 揃った前髪、澄んだ紫の瞳。


 白皙(はくせき)の左頬に、一本線の傷が入ったボブカットガール。


 身長は150cm程度。小学校高学年くらいだろうか……?


 彼女の着ている黒スーツには、胸元に賢者の証である【赤い★の刺繍(ししゅう)】と、謎の【金バッチ】が刻まれていた。




「ご注文の品をお届けに参りましたわ」


 少女は懇切丁寧(こんせつていねい)にお辞儀をして、胸元のポケットから身分証を提示。


 都市の宅配システムは配送業者だけの仕事ではない。

バグ討伐を主な活動としている賢者も、バグと戦っていない時はこのような宅配の仕事を請け負うようにもなっていた。



「まぁ、()()ちゃんったら!

あなたはお得意様なんだから、そんな形式なんていいのよ!

ほんっと、真面目ないい子ねぇ~」



 少女の名前はシノ。12歳。


 あれから――()()()




「おねえちゃんありがとう!

わーいわーい!」


 女児向けアニメのヒロインである、紫色の衣装を着た魔法少女がプリントされたカメラに、大はしゃぎのカノン(5歳)。

母は良かったわね! と、彼女を愛撫(あいぶ)している。



(カノンもこのように君にとても懐いている。

クリスマスの時もいいかな?)


 カノンの父が、シノにそっと耳打ち。

愛娘へのクリスマスのプレゼントを届けるサンタクロースの役割を、シノに頼んでいるのだ。


(……はい、喜んでお受けいたしますわ!)





* * *



()()()、こっちは終わったよ。

先に帰って、姉さんの手伝いをしてるね〉



 仕事を終えたシノは、自分と同じように町の宅配サービスという任務に従事している兄――()()に念話する。



〈分かりました。

こちらも、今お客様に配達している最中です。

すぐに戻ります、シノ〉




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