表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/142

1章12話 「崩壊」



 ハウモニシティ中に発生した2000体のバグ。


 その内の一部化は分からないが、()()()()、バグがいるのは確実……。



「シノ……行けますか?」


 覚悟が決まった面魂(つらだましい)

シノはこちらをしっかりと見据えて頷いた。


「ありがとう。

……ベルウィンさん、ぼく達の町中がバグだらけのようです」


「!!」


 彼女からみるみる血の気が引いていく。

その焦点の合わない揺れ動く瞳には、もはやこの現実ではない光景が映っている。




「そして、この遊園地にもバグが現れた!

観測もなしに、いきなり!」


「わたくし達は戦ってきます!」

 

「あ、あああ……!!」


 だが、ベルウィンには聞こえていない。

過呼吸でパニックを起こしてうずくまった。




「ベルウィンさん……?」


 クノは初めてベルウィンと出会った時のことを思い出した。



《わたしと同居していた賢者の子は、バグに()()()()……()()()()()()()そう》



(そうか……)


 彼女は恐怖に打ち震えているのではなく、トラウマに包まれて支配されているのだろう。




「ベルウィンさん……」


 だからといって、彼女に付きっきりというわけにもいかない。


 園外に出して避難させるのも危険だ。町にはバグがはびこっているのだから。



(……姿を隠せばバグには見つからないはず……)



 クノは周りが見えていないベルウィンを、自分が先ほど行ってきたお土産売り場へと急いで連れて行く。




* * *




「――!?」


 気がついた時に視界に最初に映ったのは……。



「行きますよ、シノ!」


「はい、兄さん!」



 これからゆっくりと、新たな関係を育んでいくはずだった、()()の背中。




「クノくん、シノちゃん……!

ま、待って……!!」


 ベルウィンは手を伸ばした。




 逃げ惑う人々。


 突然の事態に怯える大人達。


 泣きじゃくる子供達。


 身を寄せ合い、互いに安心させるカップル達。



 周りには、自分と同じく建物内へと避難してきた人混みであふれている。



 クノとシノの姿は、この緊迫した景色にあっという間に紛れてしまい、一瞬で見えなくなった……。

 



* * *



 路地裏のように横幅が(せま)い通路。


 お化け屋敷前の日陰通りで。




「うわああああ!!」


「助けて!!」


「どけ、俺は死にたくない……!」


「きゃあああああ!!」


「ママ~~!!」



 前方を逃げる人を押し倒して、我先にと逃げようとする大人。


 転倒し、怪我をする女子中学生。


 両親とはぐれた男の子。


 腰を抜かすおばあさん。




〔……〕


 そんな人々を遥か上から見下ろす存在がいた。



 全身が桜色。


 目は翡翠(ひすい)の輝き。


 体高5mの強靭なボディ。



〔!!〕


 その()()は、振り上げた足で、地上を歩こうと試みた。



 真下の()()など、全く気にも留めずに……。





「――させないっ!!」



 お化け屋敷の屋根の上からの奇襲。



〔!?〕


 巨人の顔面は、一散に迷わずに急接近のストレートリードで抉られた。



〔!〕


 鼻先に、駆け付けたヒーロー――クノの一撃が炸裂。

巨人はよろめいて数歩後ずさる。



「見たことも聞いたこともないバグ……()()なのか!?」


「でも、昨日ベルウィンさんに買ってもらった桜餅みたい!」



 建物の壁を次々と蹴って跳躍してくるヒロイン――シノ。


 彼女の飛び蹴りが、新たに登場したバグ―巨人バグ(そのまんま)の胸元のオーブへと……。



 !?



〈オーブが……ない!!〉


 寸止めしたシノは、空中にいながらのバックステップで咄嗟に飛び退いた。


(……なんだって!?)


 耳を疑うシノからの念に、クノも視線を落とす。



 どんなタイプであろうと、バグならば心臓の位置に赤紫に輝くオーブがある。


 だが、()()()()()()()()()()()


 つまり、()()()()()()()()…………。




(……オーブがなくても、バグなら攻撃を当て続ければ勝てるはず!)


 クノは、巨人バグの顔面に自慢の鉄拳乱打を浴びせ続ける。



〈ぼくが怯ませます!

それから、2人の天啓で一気に!〉


〈分かったわ!〉



 巨人バグから、風圧。



「な……にっ……!?」


 間合いから弾かれたクノは、建物の壁へと背中から叩きつけられた。




「ぐっ……!!」


 見えない結界のようなものにはね返された感覚。



 これは――()()()()()()などといったものだ。

言葉にするのは簡単だが、生半可な肉体とパワーの持ち主では放つことなど到底できない高等技術。




(…………これまでのバグよりも、格段に強い……!

今のぼく達に武器がないのも、力負けに拍車をかけている……!

だけど、こんな……ものッ!!)


 衝撃とダメージを、体内のエネルギー操作で全身に分散。


 お得意の特性を活かして、瞬時にリカバリーに成功。



 クノへのダメージは0となった。




「兄さん!!」


 こちらに向かってくるシノ。



「!?!?」


 しかし――彼女は、クノの前で急にふわりと浮き上がった。



「シノ!」


 巨人バグの手のひらに掴まれたのだ。





「に、い……さ、ん……!!」



 このままでは、まずい。



 機動力重視のシノは、クノと比べると打たれ弱いのだ。




「天啓、フリューゲル!」 【五大:空】


 魂が叫ぶ。



 両足に重い力がガシャリと装着。


 脚部に纏うは、大気の塊。



「シノを……返せーーーー!!」


 みなぎるオドと、マナがこもった気迫。


 壁を壊して抜け出したクノ。


 足に生えた両翼を(かかと)落としで放つ。




〔…………!!〕


 巨人バグの両肩に命中。




「……天啓……!」


 その隙にシノも、苦痛を(こら)えながら天啓発動。




気圧球(きあつきゅう)……」 【五行:水】


 とめどなく汗を流すシノの体が、風船のように膨れ上がった。


 自身を固く拘束している手のひらを、強引に押し開いていく。


 囲まれた際などに、体を膨張させて全方位から身を守る天啓。




〔!〕


 そして――バグの手のひらが完全に開かれた。




「シノ!」


「兄さん!」



 なんとか脱出に成功したが、尚もシノに襲いかかる手刀。



(――しつこいっ!)


 身を低くした(あざ)やかな体さばきと、ターンを混ぜた流麗(りゅうれい)な軌道。


 空中戦とスピードに長けたシノは、回避と同時に間合いを詰める。



 一瞬にして、バグの首元にはシノの両足が伸びていた。




〔!!〕



 事態を好転させたのは……()()()()()


 手刀はフェイントだとばかりに、裏拳が飛んできた。




「なっ!?」


 持ち前の移動速度と回避力でも反応できなかった。



 シノの小さな体に、



「があっ……!!」


 何倍も大きなバグの攻撃が……()()してしまった。




 

「……シノォォォォォォ!!」



 悲痛な絶叫も空しく、払いのけられたシノは星になった。



 彼女が吹き飛ばされた方角は、2000体のバグが闊歩(かっぽ)するという町の中心。




〔!〕


 シノの安否に(とら)われた感情の乱れが、クノに隙を生ませた。


 振り下ろされる、巨人の裁き。



「!?!?」



 ()を叩き落とすかの如く、クノは地上に打ち付けられた。




* * *



 仰向けで空を見上げている。



(受け身を取り損なった……。

……骨が…………何本か折れてる……?

甘く見ていた……これが……バグの強さ……)



 満身創痍(まんしんそうい)のクノは、どうにか首を動かす。



(まだ……あんなに人が……。

早く倒して、ここの人達を……シノを……)



〔!!〕


「……!?」



 空気の変化を敏感に感じ取った。



 

 巨人バグが身を屈めて体を折り曲げ、土下座のような態勢になっていた。


 更に、口を大きく開けて深呼吸中……。




(あそこから、何かをするつもりだ!

間違いなくそれは――強力な攻撃!)


 思った以上にダメージが大きい。


 リカバリーが間に合わない。




〔……!〕


 バグの口から吐き出されたそれは、紫色のドロドロとした不気味な液体。


 もはや固体と形容してもいい程の粘度。



 軸線上には――倒れているクノ。




* * *




「…………??」


 体が勝手に移動した。



 ふぅー。



 ふぅー。




 荒い呼吸。


 自分ではない。


 苦痛・恐怖・悲しみ・葛藤……様々な感情を抱えた吐息が、すぐ近くで発せられている。





「……ううっ。

だい、じょうぶ……?」


「!!」


 (かたわ)らに、1人の少女。



「ギリギリセーフ、かな……?

クノくん……」


 目から滝の涙を、足からは鮮血(せんけつ)の川を流していた。




「……ベルウィンさん……!!」



 あんなに取り乱していたのに。


 怯えているのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)なのに。


 怪我を承知で庇いに、助けに来たというのか……。




「……【家族】で、()()()()()だからね……。

あ、この血は今飛び込んだ時に擦りむいただけだから、ちょっと痛いけど、全然大丈夫だよ」



 家族……。


 それが大切な存在であることは、クノも大いに分かっている。




 ベルウィンのことは好きだ。


 信用している。


 彼女の(こえ)は、ドキドキしたり、少し落ち着いたりして、不思議な温もりを感じる。



 けれども、正直甘く見ていた。


 彼女がここまで自分にしてくれるとは思わなかった。


 身を(てい)して守ってくれた人なんて、今までの人生でいなかった。




 だから――信用はしていたし、いい人だと思っていたし、好きだったけど……壁を作っていた。




 本物の家族であるシノとは、別の人間だと思っていたから……。


 きっと、少しずつ明るくなってきたとはいえ、シノも彼女に対して同じような心境だったに違いない。




「シノちゃんは……?

姿が見えないけど……」


「……遠くに、飛ばされました……。

すぐに助けに行きますよ、()()()


「……えっ……」



 クノはおもむろに立ち上がり、



〔……〕


 再びこちらへと攻撃の構えに入っている巨人バグに向き合う。




(……さっきのバグの攻撃……まだジンジンと体内に響いている……。

これを利用すればいける……!)



 肉体に残響するバグの攻撃を足に移し、跳躍力と攻撃力に添加させ……。



「はあああああああーーーー!

天啓!!」




 これまで発動した天啓の中で、最も威力と速度に優れて信用できるものを選択。




「ペリオッド!」 【五大:空】




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ