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特定

どこから聞きつけてきたのだろうか。頬を膨らませる、基本的に無表情な幼馴染は、お盆に山盛りのサラダとパンと肉を載せて、俺たちの前に立っていた。


俺は、この状況をどうにかしようと、そこに話題を移してみた。


「アーネル、それ、食べ切れるのか……?」

「これは、クーと一緒に食べようって思って、多めによそっただけ。本当、本当だから」

「お、おう……」


昔は表情豊かだったくせに、今はすっかり感情の発露が乏しくなったアーネルは、嘘なのか冗談なのかわからないことを言った。


「ま、高位の魔法使いの食事量は、魔力と比例するともいうからね」


と、フォローのようなことを言うのは、俺の隣の席に座るミリィ先輩だ。向かい側じゃなくて、隣の席である。


ミリィ先輩は、アーネルと真逆。お盆に載っている食事は、最低限よりももっとひどいもので、アーネルと先輩を足して二で割ると丁度良い感じになるのかもしれない。


俺が思うに、ミリィ先輩は高位の魔法使いなんだから、アーネルと同量を食べなければ説得力が無いと思う。


「じゃあ、私、クーの隣に座るね」

「なんで……?」


山盛りのご飯をお盆に載せたアーネルは、宣言通り、俺の隣に座った。これで俺は、ミリィ先輩とアーネルに挟まれてしまった。オセロだったら俺も美少女になってしまう。


「研究棟の魔女が、どうしてクーとご飯を食べてるの」

「お前、身元不明って言ってたのに、ミリィ先輩のこと認識してるじゃねえか」

「先輩には敬意を払って様をつけたまえよ、一年生(ルーキー)。お会いできて光栄だ、アーネル・ノエット」

「なんかここ寒いな」


ここは魔法学院。夏でも冬でも、魔法によって、過ごしやすい環境になっているはずなのだが、さっきから、俺は寒気を感じていた。スープでも飲むか。


言い合いをしている(アーネルが先輩に躱されているだけ)二人を無視して、俺はスープを飲みながら、食堂をぐるりと見回した。


ミリィ先輩とアーネルが、テンションの低い言い合いをしているせいで、俺たちの座っている席の周辺には人がいない。これでは、転生者を先輩に探してもらう作戦が台無しになってしまう。


「ところでクーシュルト君、私に、誰かを探して欲しいんじゃないのかい?」

「な、なんで」


そんなこと、一言も言ってないのに。すると、ミリィ先輩は、スプーンの柄をゆらゆらと揺らしながら、にやりと笑った。


「私と君は、お土産を買ったり買わなかったりする程度の仲だが、君の思考は誰よりも読めるつもりだよ。生徒の大半が使用する食堂に、“目”を持つ私を連れてきた意味といえば、人探し以外にはないだろう?」

「“目”?」

「ちょっと、ミリィ先輩」


アーネルが首を傾げる。慌てる俺を楽しそうに見て、ミリィ先輩はぺろっと舌を出した。


「浮き立つ乙女の心を弄んだバツだよ。素直に利用すると言ってくれれば、私は必要以上にこの髪に櫛を入れるようなことはしなかったのに」

「そんなこと、ひとっつも思ってないくせに」

「ふふ、君も私の思考を読めるようだね? いつものように、ささっと櫛を通しておしまいだよ」


そんなことを言うミリィ先輩の髪は、いつも通りつやつやだ。あんな部屋に住んでるくせに。


俺のその思いは届かないらしく、ミリィ先輩は、ひとしきり俺を弄んだ後、「そうだな……」と、思慮深そうに瞳を伏せた。


とても、ミリィちゃんコスしてミリィちゃんごっこしてる人間に見えない、自然な仕草だ。


「君のお願い、叶えてやっても良い」

「本当ですか!?」

「本当だとも。ただし、次は私と打算なしでデートすること。いいね?」

「わかりました。一緒にまた、学食行きましょう」

「……い、いやに了承するのが早いね」


なぜか引き気味のミリィ先輩だが、今日一緒に学食に行ったのは、何も打算だけではない。ミリィ先輩には日頃お世話になっているし。


「……むぅ」


アーネルが、ますます頬を膨らませる。山盛りだった料理は、半分に減っていた。一体、その体のどこに入るんだ?


「クーは、私と食べたくないんだ……その先輩の方が良いんだ」

「待て待て拗ねるな。俺が悪かったって、アーネル。今度一緒に飯食おうぜ」


幼馴染をぞんざいに扱っている自覚はある。俺の行動は中途半端だ。一緒に登校しておきながら、昼飯は断るなんて。


「ほんと?」


アーネルの顔が、わかりやすく輝いた。うん、こういう顔をすると、美少女さが引き立つな。


「約束、約束だからねクー」

「おう」


アーネルも変な奴だよな。一緒に昼飯なんて、ガキの頃にたくさん経験したのに……?


かたん。


「どした?」

「そういうことなら、今日は先輩に譲ってあげる。じゃあね、クー、レスタドーマ先輩」


お盆を持って、アーネルは人ごみの向こうに消えていく。


「良い子じゃないか」

「うおっ」


俺の肩を抱いて、ミリィ先輩は、くすりと笑った。


「泣けるほど健気で、優しい子だ……クーシュルト君」

「なんですか?」


耳元で。


「一人、見つけた」




「げっ、クーシュルト・ルーサー!?」

「ご挨拶だなこら」


まさかこんな簡単に見つかるとは。


食堂から追いかけて、壁際まで追い詰めた生徒をじっくりと眺める。まず、声は似ている。体型も、制服ごしだから確定とはいかないが、俺に不快な物体を見せた人物にそっくりだ。


「おら脱げっ、確認させろ!」

「なにを!?」


あとはその粗末なトラウマ製造機を見れば、確定だ!


「クーシュルト君、それは、勘違いされかねない言動だよ? 周りを見てみたまえ」

「あ、やべっ……はぁー、はぁーっ、すまんねホワ……レイド・フォール君。君と友達になりたい一心で、セクハラかますとこだった」


ミリィ先輩に嗜められた。たぶん、俺の顔は凶悪になっている。息が荒いので、変態感がましましだが、こいつが“そう”とすると、こいつの方が変態なので俺は悪くない。  


さっき、ミリィ先輩が俺にやったように、俺は、レイドに顔を近づけた。


今度こそ、間違っちゃいけない。


「……お前が言う通り。俺は、前世であいつらに殺された、草葉久道だ」

「…………へぇ」


レイドの声が低くなる。


「不用心だね、クーシュルト君。俺がそうじゃなかったら、どうするつもり?」

「どうせ一度は死んだんだ。また死んでもいい」

「やれやれ」


肩をすくめたレイドは、ぱちぱちと、手を鳴らした。


「死に急ぎは、俺の仲間に欲しくないんだけどね」 




「それで、私の“部室”を本拠地にしようと? 勘弁してくれ」


さっさかさっさか。


「ていうか、箒をそんなに動かしたら埃が、くしゅんっ」

「ミリィ先輩、その椅子も掃除するんでどいてください」

「クーシュルト君、君、私の部屋を掃除する口実を作りたかっただけだろう……?」

「んなことありませんよ。ね、高白さん」

「どーだか」


俺が掃いたそばから、雑巾掛けしていくレイド・フォール君、もといホワイティー・ハイ、または、雑誌記者・高白(こうじろ)京也(きょうや)さんは、深々とため息を吐いた。

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